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第03話 メイド少女の初登校ッ!

 それから一週間後。猛勉強の末、コトハは司佐が通う蘭梗学園へ入学した。まあ成績が足りなくとも、司佐の祖父の権限で入学は容易いことではあったが、コトハは先に入学していた同級生たちと、同じレベルにまでは追いついていた。


「行くぞ、コトハ」

 司佐の呼びかけに、コトハは駆け寄る。

「は、はい」

「早く乗れ」

 そう言われ、コトハは司佐を見つめる。

「わ、私もお車で?」

「同じところに行くんだから、おまえだけ歩きで行く意味はないだろう」

「は、はい……」

 後部座席には昭人、司佐、コトハの順に乗り、学校へと向かっていった。


「いいか、コトハ。職員室まで連れて行く。僕たちは学年が違うから、教室のことまでは面倒見切れない。でも、何かあったら二年薔薇組に来い。司佐も僕もそこにいる。まあ、今日は午前中で授業が終わるから、顔見せ程度で終わるだろう」

 車を降りるなり、昭人がそう言った。コトハは大きく頷く。

「わかりました!」

「待て、コトハ。リボンが曲がってるぞ」

 そう言って、コトハが着る制服の胸元につけられたリボンを直したのは、司佐だ。その光景は、登校してくる生徒たちが好奇の目で見つめている。

「すみません、司佐様……」

「おまえは山田家の跡取り息子専属のメイドなんだ。気を配ってもらわないと困る」

「はい。すみません。気をつけます」

 三人は校舎へ入ると、職員室へ向かっていく。

「あそこが職員室。ここから先は一人で行け。じゃ、俺らは教室へ行くから。終わったら二年の昇降口で待ってろ。さっき通ったところだ」

「わかりました。ありがとうございました。私、頑張ります!」

 屈託のない笑顔で笑うコトハを、司佐はじっと見つめた。

「……司佐?」

 去ろうとしない司佐に、昭人が声をかける。

「ああ……じゃあ、頑張れよ」

 司佐はそう言うと、コトハを残して教室へと向かっていった。


「山田さんの使用人さんらしいから入学時期に関する特別待遇はわかるけれど、入学したからには特別待遇も何もないですからね」

 職員室でそう言われ、コトハは大きく頷く。

「はい。一生懸命頑張ります」

「まあ、入試試験の成績はよかったですから、その調子で頑張りなさい。あなたは一年牡丹組です。この学校は、編入する人はほとんどいないので珍しがられるかもしれませんが、そのうち慣れると思うから気にしないでちょうだい」

「はい。よろしくお願いします」

 司佐の言う通り、山田家の使用人として恥ずかしくないように、コトハは心掛けた。


「小桜琴葉です。よろしくお願いします」

 入学式を終えて間もない不思議な時期、しかもエスカレーター式の学校に突如として入り込んできたコトハに、クラスメイトも興味津々といった様子でコトハを見つめる。

「小桜さんの席は、一番後ろね」

 先生に言われ、コトハは自分のために用意された机に向かう。

 その途中、何かに躓き、コトハは派手に転んでしまった。

「あっ」

 クスクスと、生徒たちの笑い声が広がる。

 これがクラスメイトによる洗礼とも知らず、コトハは恥ずかしさに顔を真っ赤にして立ち上がると、急いで自分の席に座った。


「小桜さんって、山田司佐先輩と関係があるの?」

 休み時間になると、女生徒たちが一斉にコトハに群がった。

「はい。私、司佐様に仕えるメイドなんです」

 躊躇いもなくそう言ったコトハに、女生徒たちは顔を見合わせる。

「メイド? あなた、使用人ってこと?」

「はい」

「使用人がどうしてこんなところに……」

「それは、司佐様のご厚意です」

「はあ、なんだ。使用人かあ。心配して損した」

 そう言って、女生徒たちは一気にコトハから離れていった。

「あの……私、何か……」

 怪訝な顔で、コトハは前に座っていた女生徒に尋ねる。

「司佐先輩と何かあるんじゃないかって、みんな偵察に来ただけよ。使用人なら闘志燃やす必要もないじゃない?」

「はあ……」

 コトハにはよく理解出来なかったが、自分が物珍しい存在なのだと認識し、深く詮索するのはやめにした。


 授業が終わると、コトハは二年生の昇降口へと走っていった。だが、まだ司佐の姿はない。

「おっと……」

 辺りを見回していると、コトハは男子生徒にぶつかった。昭人ほどではないが、背丈の大きな男子生徒である。

「す、すみません!」

「いや、悪い。小さすぎて見えなかったわ」

「すみません……」

「しかし小さいなあ。見たところ一年生か。誰か待ってんの?」

 男子生徒は、そう言ってコトハの手を取る。

 コトハは恥ずかしさに固まりながらも、口を開く。

「は、はい。山田司佐様を……」

「え、司佐?」

貴一きいち。なにしてんの?」

 そこに、また一人、男子生徒が出てきた。

「おう。いや、この子、司佐に用があるんだってさ」

「ああ、例のメイドちゃんだろ、君。今朝、司佐が言ってたけど」

 後から出てきた男子生徒に、コトハはこくりと頷く。

「はい。司佐様付きの専属メイド、小桜琴葉と申します」

「へえ。司佐付きの……それはそれは」

「なにしてんだ」

 そこに、司佐が昭人とともに出てきた。

「司佐様!」

 コトハは男子生徒から手を離すと、丁寧に頭を下げる。

「司佐付きのメイドなんだって?」

「ああ。だからって手出すなよ。特に貴一。さっき手握ってたろ」

 司佐が睨みつけたので、貴一は歯を見せて笑う。

「手なんか出すかよ、こんな小っこい子。司佐のメイドと知ってりゃ、声すら掛けなかったよ。おっかない」

「ったく。でもまあ、これから本格的にメイドの仕事も増えてくるんだ。おまえたちにはこれからも会うだろうから紹介しておく。俺の専属メイドのコトハだ。コトハ、こいつらを紹介する」

 司佐直々にそう言われ、コトハは目の前の二人を見つめる。

「向こうから、有森貴一ありもりきいち有森藤二ありもりとうじ。似てないけど双子だ。クラスは違うが、俺と同じ二年生。二人共、俺の親父の妹の息子、すなわち俺の従兄弟だ」

「それはご無礼を致しました! 貴一様、藤二様」

 司佐の従兄弟だと知り、コトハは思い切り頭を下げる。

「ああ。いい、いい。頭上げてよ。しかし新鮮なキャラだな」

 コトハの肩を叩き、貴一は頭を上げさせた。

「だからむやみに触るなと言ってるんだ」

「減るもんじゃないだろ」

 貴一は司佐を挑発するように、ベタベタとコトハの頭を撫でる。

 司佐とこんな関係でいられるのは、同じ年で従兄弟であるこの二人くらいしかいない。

「ったく。そろそろ行くぞ。くだらない漫才に付き合わされた」

 そう言って、司佐と昭人は歩いて行く。コトハは貴一と藤二にお辞儀をし、小走りでそれについていった。


「コトハ。知らない人間に触られるんじゃない。はしたない」

 車に乗るなり、司佐は苛立ってそう言った。

「申し訳ございません。でも、司佐様のお従兄弟ということで安心しました」

「安心? 馬鹿野郎、あいつらが一番危険だろうが」

「そ、そうなんですか?」

 コトハは意味がわからず、俯く。

「たらしの貴一、しつこい藤二っていったら超有名。俺ほどじゃないけど、財力もある。あんまり近付くなよ」

「はい。わかりました……」

 覚えることがたくさんあるのだと、コトハは決意新たに頷いた。

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