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TS転生サキュバスは魔法少女を堕としたい  作者: ゆきなっしゅ


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第6話 ルミナス・テラを堕としたい

朝。フラウの家のベッドで目を覚ました。

昨夜、フラウの両親が帰宅した気配はあったが、ボクが起きる頃にはすでに畑仕事へ出かけた後だった。

聞けば、この村の大人たちは朝早くから夜遅くまで働きづめで、子供たちは基本的に放任されているらしい。

隣でまだスヤスヤと眠るフラウを一瞥し、ボクは今後の計画を整理する。


この村にいる3人の魔法少女。

中心であるフラウを堕とすのは一番最後だ。

彼女には、信じていた仲間を失い、希望が絶望に変わる最高の瞬間を味わってもらわなければならない。

次に青髪のスイ。

彼女は頭がキレる上に警戒心が強い。

今の段階で狙うにはリスクが高い。

となれば、最初の標的は決まっている。

黄色い髪の少女、ルミナス・テラことアテスだ。

戦闘能力は防御。性格は控えめで、常におどおどしている。一番付け入る隙がありそうな獲物だ。

ボクはアテスを堕とすことに決めた。

フラウが起きたら情報を引き出そう。

そう考えていると、隣でモゾモゾと動く気配がした。


「ん……おはよう、イオリちゃん。よく眠れた?」


目を覚ましたフラウが、目をこすりながら起き上がってくる。


「おはよう、フラウちゃん。うん、ふかふかのベッドですごくよく眠れたよ」


朝食を済ませた後、フラウは身支度を整えながら元気よく言った。


「私、これから村のみんなの畑仕事を手伝ってくるね! イオリちゃんはどうする? 家でゆっくり休んでてもいいよ」

「えっと、昨日手当てしてくれたアテスちゃんにお礼が言いたいんだけど……家を教えてもらえないかな?」

「うん! アテスちゃんの家は村の外れにあるよ。ご両親も畑に出てる時間だから、きっと一人で家事かお菓子作りをしてると思う!」


フラウに家の場所を教えてもらい、ボクは小鳥の姿のブランを肩に乗せてアテスの家へと向かった。

「じゃあね、イオリちゃん!」と太陽のように笑って村の中心へ向かうフラウを見送りながら、ボクは静かに歩き出す。


そして、教えてもらった小さな家の前まで来た。

早速ドアをノックする。


「は、はい……!」


パタパタと足音がして、エプロン姿のアテスが顔を出した。


「アテスちゃん、おはよう。昨日の手当てのお礼を言いたくて来ちゃった」

「えっ!? イ、イオリちゃん!? わ、わざわざそんな……! ど、どうぞ、上がって……!」


突然の訪問に慌てながらも、アテスはボクを家に招き入れてくれた。

部屋の中は綺麗に片付いており、甘い匂いが漂っている。


「ちょうど今、クッキーを焼いていたところで……よかったら、一緒にどうかなって……」

「わぁ、嬉しい。アテスちゃんってお料理上手なんだね」


ボクが微笑むと、アテスは顔を真っ赤にしてお茶の準備を始めた。

焼き立てのクッキーをかじりながら、ボクは世間話を手掛かりに彼女の心を探る。


「アテスちゃんはすごいね。魔法少女としてみんなを守って、家では美味しいお菓子まで作れるなんて」

「そ、そんなことないよ……」


アテスは俯き、自分のエプロンの裾をぎゅっと握りしめた。


「私なんて、全然すごくないです……フラウちゃんみたいに人とすぐ仲良くなれないし、スイちゃんみたいに頭も良くないし……戦闘でも、いつも二人の足を引っ張ってばかりで……」


ぽつりぽつりとこぼれ落ちる、強烈な劣等感。


「あ、すみませんいきなり。こんなこと言われても困りますよね……」

「ううん、大丈夫だよ」

「なんででしょうね。イオリちゃんにこんなこと話してしまうなんて。同年代の子で話せる人がいないからでしょうか……」

「ボクは……アテスちゃんが本当の気持ちを話してくれて、すごく嬉しいな」


ボクは椅子から立ち上がり、アテスに寄り添うようにしゃがみ込んだ。

そして、彼女の震える両手を優しく包み込む。


「イオリ、ちゃん……?」

「それにね、アテスちゃんは、二人にとって絶対に必要な存在だよ」


ボクは彼女の目をまっすぐに見つめた。


「アテスちゃんが盾になって守ってくれるから、二人は安心して戦えるんでしょ? 昨日の手当てもそう。アテスちゃんの優しさに、ボクはすごく救われたんだよ。それにブランだって」

「ぴちゅぴちゅ!」


ブランが肯定するかのように鳴き声をあげる。


「あ……うぅ……っ」

「アテスちゃんはえらいよ。……フラウちゃんたちの前では言いづらい不安があったら、いつでもボクに言ってね? ボクは、アテスちゃんの味方だから」


ボクの甘く優しい肯定の言葉に、アテスの目からポロポロと涙が溢れ出した。


「イオリ、ちゃ……ありがとう……ぐすっ……ありがとう……ございます……」


彼女はボクの手を強く握り返し、すがりつくように泣きじゃくった。

かなりの寂しがり屋だったのだろうか。

たった少し肯定してあげただけで、この依存っぷりだ。


ボクはアテスの背中を優しく撫でながら、静かに笑みを浮かべる。

この気弱な少女を堕とす計画は順調に進んでいる。


ひとしきり泣いて落ち着いたアテスに、ボクは温かいお茶を淹れてあげた。

カップを両手で包み込むように持ちながら、アテスはぽつりぽつりと話し始める。


「私ね、フラウちゃんとスイちゃんとは、小さい頃からの幼馴染なんだ……」

「そうなんだ。ずっと一緒にいるから、すごく仲がいいんだね」

「うん……二人とも、本当に優しくてすごい人たちだから。でも……だからこそ、苦しくなる時があって」


アテスは自嘲するように、少しだけ寂しく笑った。


「ずっと一緒にいるから、自分のダメなところばっかり目立っちゃうの。魔法少女になっても、私にできるのは盾を張って二人を守ることだけ。攻撃もできないし、ただオロオロしてるだけで……いつも、足手まといになってるんじゃないかって、ずっと怖かったの……」


カップを見つめる彼女の瞳が、再び潤み始める。

なるほど。

3人が幼馴染だからこそ生じる、強烈な比較と劣等感。

太陽のように明るいフラウと、月のように冷静で優秀なスイ。その二人に挟まれて、自分だけが取り残されていくような感覚に怯えていたのか。

幼い頃からの強固な関係性が、逆に彼女の心を孤独にさせている。

これは、最高に使える。


「……辛かったね、アテスちゃん」


ボクはことさら優しい声を作って、アテスの肩を抱き寄せた。


「幼馴染だからこそ、二人はアテスちゃんがそばで守ってくれることを『当たり前』って思っちゃってるのかもしれないね。……でも、ボクは違うよ」

「イオリちゃん……?」

「外から来たボクには、アテスちゃんがどれだけ必死に二人を支えてるか、すごくよくわかるよ。アテスちゃんは足手まといなんかじゃない。一番強くて、一番優しい女の子だよ」


ボクの言葉に、アテスは弾かれたように顔を上げ、すがりつくような瞳でボクを見つめた。

自分を真っ向から肯定し、特別な価値を与えてくれる存在。

今の彼女にとって、ボクの言葉はどんな魔法よりも甘く響いているはずだ。


「ねえ、アテスちゃん。ボクたち、友達にならない?」

「とも、だち……?」


アテスは目を丸くして、ボクの顔を見上げた。


「うん。フラウちゃんやスイちゃんには言えないことでも、ボクになら何でも話してよ。ボクも、アテスちゃんになら何でも話せる気がするから」


幼馴染という完成された輪の中で、常に劣等感と孤独を感じていた少女。

彼女にとって「自分だけを選んで、頼ってくれる存在」の言葉は、すがりつきたくなる唯一の救済に映るだろう。


「……いいの? 私なんかと、友達で……」

「アテスちゃんがいいの。ボク、アテスちゃんと一緒にお菓子作ったり、お話ししたりしたいな」


ボクがまっすぐに微笑みかけると、アテスの瞳から再び大粒の涙がこぼれ落ちた。

今度は悲しい涙ではない。安堵と、喜びに満ちた涙だ。


「……うんっ。私、イオリちゃんと友達になりたい……!」


アテスは嬉しそうに頷き、ボクの手をぎゅっと強く握り返してきた。

その手から伝わる温もりと、微かな震え。

よし、これでいい。

まずは人間の彼女の心に、ボクへの依存という種を植え付けた。

あとは戦いの中で、魔法少女『ルミナス・テラ』を堕とすだけだ。

ボクはアテスの涙を指先で拭いながら、誰にも気づかれないようにそっと微笑んだ。


その後、すっかり安心したアテスと少しだけ言葉を交わし、「またね」と優しく別れを告げた。

バタン、と背後で扉が閉まる。

アテスの家を後にして、フラウの家への帰り道を歩く。

ボクは肩にとまっている小鳥のブラン――使い魔のノワールに、小さな声で語りかけた。


「ふふっ。ねえ、ノワール。魔法少女『ルミナス・テラ』を堕とす準備は順調だよ」

「そうだな。で?これからどうするつもりなんだよ?」

「作戦があるんだ。ノワールにも協力してほしい」

「もちろんだぜ!オイラはなにをすればいいんだ?」


ボクは冷たく口角を上げる。


「次の魔物との戦闘のとき、魔物に変身してボクを人質に取ってほしいんだ」

「人質? お前をか?」

「うん。アテスはボクと友達になったんだ。守ることしかできない彼女にとって、目の前で大切な『お友達』が盾にされるのは一番の絶望になる。ボクが捕まっていれば、彼女は絶対に手出しできないよ」

「なるほどな。抵抗できない魔法少女を魔物たちで一方的にボコボコに痛めつけるってわけだ」

「そういうこと。心も体もボロボロになるまで痛めつけて、弱らせて」


ボクは歩きながら、クスクスと笑った。


「そして、彼女が限界を迎えてただ泣き叫ぶしかなくなったその時……ボクがとどめを刺す」


信じていた希望が反転し、どうしようもない絶望に染まる瞬間。

それを想像するだけで、胸が甘く高鳴る。

ボクは次の戦いが楽しみで仕方なかった。

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