第4話 人間のフリ
「とりあえず人間になってみよう。ねぇノワール、どうやるの?」
「スキル『ルミナスシフト』を使うんだ。アスタロティア様に力を貰っているだろ?」
「へぇ〜、ルミナスってなんか魔法少女みたいだね」
「あの力も結局はアスタロティア様の力だからな!戻る時は『アスタロシフト』を使うんだ!」
「なるほど、そうやって形態を切り替えればいいんだ。『ルミナスシフト』!」
――ヒュィィィィィン!
ボクがそう唱えると身体が光に包まれ、羽と尻尾が消えた。
服装も人間らしいものに変わっている。
服まで変わるなんて便利だ。
「ノワールどう?ちゃんと人間っぽいかな?」
「ばっちりだぜ!」
「ありがと。それで、元に戻るには……『アスタロシフト』!」
――ズゥゥゥゥゥゥン!
ボクがそう唱えると身体が闇に包まれ、羽と尻尾が生え、服装も魔族らしいものに変わり、元のサキュバスの姿に戻った。
「わぁ戻った。よし、使い方もわかったし、また人間態になって早速村に潜入してみよう」
「オイラも一応変身しておくぜ!魔族ってバレたら終わりだからな!」
ノワールは黒いコウモリの姿から、白い小鳥の姿に変身する。
ボクも再び人間態に変身した。
そしてボクたちは村へと向かった。
「ノワール、ただ村に行くだけじゃ怪しまれるかもしれない。ボク、ちょっと服を汚してみるよ」
「え? なんでわざわざ汚すんだ?」
「さっきの魔物襲撃に巻き込まれた『可哀想な迷子』を演じるためだよ。ほら、ノワールもちょっと羽をボサボサにして」
ボクは地面の土を少し取って、服の裾や頬にこすりつける。
髪も少し乱して、怯えて逃げ回ってきた少女になる。
「よし、完璧。それじゃ、行こ」
「おう!」
「ノワール、ちょっと失礼するね」
「うわぁっ!?」
ボクはノワールを抱きかかえ、村へと続く道をタッタッと走る。
村の入り口付近には、先ほどの魔物との戦闘の痕跡が少し残っている。
ボクは村の入り口でわざと転び、助けを求める。
「誰か……!助けて……!」
ノワールを抱きしめながら、わざと声を震わせて嘘泣きを始める。
「ひぐっ……うぅ……」
すると、村の中から慌てたような足音が近づいてきた。
「ねえ、あそこ! 誰か倒れてるよ!」
「大変です!早く助けないと!」
「仕方ないわね」
駆け寄ってきたのは3人の少女だった。
変身は解いているが、ピンク、青、黄色の髪色……先ほどまで魔法少女として戦っていた3人だ。
「大丈夫!? 怪我はない!?」
一番早く駆け寄ってきたピンク髪の少女。
魔法少女『ルミナス・フルール』だった子が、ボクの肩を優しく支え、心配そうな顔で覗き込んでくる。
正義感と優しさに満ちた瞳。
「あ……うぅっ……ま、魔物が、急に……っ」
「もう大丈夫だよ。私たちが……ううん、この村の『魔法少女』が、絶対みんなを守るから!」
彼女はボクを安心させるように、太陽のような眩しい笑顔を向けた。
ああ、なんてかわいいんだろう……
純粋で美しいこの笑顔をぐちゃぐちゃにしてあげたい。
「うぅ……ありがとう……ございます……」
ボクはそんな心の中の黒い欲望を噛み殺しながら、彼女の胸にすがりついて、震える声で泣きじゃくるフリを続けた。
「よしよし、もう怖くないよ。私はフラウ! 君の名前は?」
フラウ。それがこのピンク髪の少女の変身前の名前か。
「ボクは……イオリ、です。こっちの小鳥は友達の……ブラン」
「イオリちゃんね! ブランちゃんも無事でよかった!」
フラウは満面の笑みで、白い小鳥に化けたノワール――いや、ブランを見つめる。
ブランも「ピチュ!ピチュ!」と可愛らしい声で鳴いてすり寄っていた。
「ちょっとフラウ、いきなり馴れ馴れしすぎよ。……ごめんなさいね、この子いつもこうで。私はスイ。よろしくね」
『ルミナス・レイン』だった青髪の少女――スイが、ため息をつきながらもハンカチを取り出し、ボクの頬の泥を優しく拭き取ってくれる。クールに見えて、意外と面倒見がいいタイプらしい。
「あ、あの……痛いところはないですか……? 擦り傷とかあれば、手当てします……あ、私、アテスって言います……」
『ルミナス・テラ』だった黄色い髪の少女――アテスが、おどおどしながら救急箱のようなものを取り出して近づいてきた。
「ありがとう、アテスさん。ボクは大丈夫です。ただ、逃げるのに必死で……」
「イオリちゃんはどこから来たの?1人?なんでこんなところに?」
フラウの質問に、ボクはわざとらしく視線を落とし、悲しそうな顔を作る。
「この近くの森に、珍しい薬草があるって聞いて……友達と一緒に探していたら急に魔物が出てきて、逃げる途中ではぐれちゃって……うっ」
「ああっ! ごめんね、辛いこと聞いちゃって! 大丈夫、お友達が見つかるまで私たちが絶対守るから!」
フラウが慌ててボクを抱きしめる。
「珍しい薬草?ここらへんにはそんなものないはずだけど」
すると、スイが疑いの眼差しを向けてきた。
まずい。嘘がバレてしまったかも。
「ちょっとスイちゃん!イオリちゃんが怖がってるじゃん!こんなにボロボロになってるのにひどいよ!」
すかさずフラウがボクを庇うようにしてスイに言い返した。
「だっておかしいじゃない」
「あ、あの!とりあえず手当てをしたいので……!おうちに連れていきませんか……?」
スイはまだボクのことを疑っていたが、アテスの必死な姿を見て小さくため息をついた。
「……まあそうね。混乱しているかもしれないし、まずは手当てをして、落ち着いてからゆっくりと話をすればいいわ」
「みなさん……ありがとうございます……」
「じゃあ私のおうちに案内するね!」
フラウがボクの肩を支えながら一緒に歩いてくれる。
こうしてボクは手当てという名目で、魔法少女たちの拠点に潜入するのであった。




