第八話 記憶の源泉
私にとって魔法は友達。
そう、こうして杖を握っているこの瞬間も――
——最初にそう教えてくれたのは、
あたしには友達がいません。
別に友達がほしいわけじゃなかった。
ただ興味がなかった。
でも寂しくないわけでもなかった。
お兄ちゃんはいつもなにか忙しいそうだったから
優しかったけど遊び相手はしてくれなかったし
お父さんとお母さんは何故か会えなかったの。
一度お母さんに会いたいと泣いたことがあったの。
でもね、お母さんとは会えなかった。
あたしは泣き叫び続ければいつか会えると信じたけど
いくら泣いてもお母さんは来なかった。
そのうち、お母さんにあうことは諦めた。
ある日、でっかい帽子に見慣れない大きな布を纏った
ヒゲの長い顔が皺くちゃな人があたしの前に現れました。
その人はあたしのお祖父ちゃんだという。
お祖父ちゃんって何?って聞いたら
お父さんのお父さんだよ、って言われた。
「へーすごいねぇ」
お母さん以上にお父さんのことは知らなかったけど
お父さんがすごい人だってことだけは知ってたから
漠然とすごい人のすごい人っておもったんだ。
その人はあたしをみると、あたしが色々話すことを黙って聞いていた。
たまに優しい顔でニコッとするけど
たまに顔を覗き込むと、シワシワの顔がもっとくちゃっとなるように
目を細めてたのを覚えている。
ある日あたしはそのお祖父ちゃんがおっきな杖を持ってるのをみて
「これなぁに?」
と聞いた。
するとお祖父ちゃんは
「これはね、杖だよ、何でも叶えてくれる夢の道具さ」
「へぇ、すごいね! じゃあお菓子食べたいから出せる?」
「ああ、もちろんじゃよ」
するといきなり杖の先からまるでお水が流れるみたいに
バサッとお菓子の箱がいっぱいでてきたの。
あたしは喜んでクッキー缶の箱を開けるとそこにはちゃんとクッキーが入ってた。
「お祖父ちゃんすごい! なんでもできちゃうね」
するといつものようにお祖父ちゃんは笑顔になって言う。
「そうじゃよ、魔法はすごいんじゃ、何でもできる」
「まほう?」
するとお祖父ちゃんは少しだけ目を細めていった。
「なんじゃ、魔法を知らんのか?」
「うん……なにそれ?」
するとお祖父ちゃんは目を閉じてしばらく黙ってた。
「お祖父ちゃん?」
呼びかけるとゆっくりと目を開けて言った。
「カノンも魔法を使ってみたいかい?」
「あたしが魔法使えたらおかしいーっぱい作れる?!」
するとお祖父ちゃんは目を閉じて首を傾げながら
「うーん、まだカノンには難しいかのぉ」
「えー何でもできるんじゃないの?!」
するとお祖父ちゃんは声を出して笑った。
「はっはっは、何でもはできるが簡単には出来ん。
何でもできるようになるにはいーっぱい練習しないといかんぞ?」
「練習ぅ? 練習ってなにそれ?」
「するとお祖父ちゃんは急に真顔になった」
「毎日毎日、絶対に休まずに同じ事を繰り返すことじゃ。
カノンにはちょっと難しいかのぉ」
そういうお祖父ちゃんの顔は優しい。
「お祖父ちゃん、あたし練習する! 毎日するよ!
だってお菓子おいしいもん!」
「ははは、そうかそうか、カノンはお菓子がほしいか。
しかし……友達はほしくないのか」
「うーん、わからない。
だってあたし、友達いないもん」
そういうとお祖父ちゃんはちょっと困った顔をしたように感じた。
しわくちゃな顔がもっとしわくちゃになって。
お祖父ちゃんはしばらく黙ってしまった。
「ね―お祖父ちゃん、あたしお菓子欲しいよ?」
するとお祖父ちゃんは大きな息を吐き出して言った。
「カノン、もう一度聞くぞ、本当に毎日練習できるか?」
「お祖父ちゃんしつこいなぁ、できるってばぁ!」
そういうとお祖父ちゃんは笑ってあたしの頭をぐちゃぐちゃと撫でた。
そして手に持っていた杖を掲げて目を閉じてお祖父ちゃんは黙った。
今度はあたしは黙ってそれをみていた。
何かがざわついてるような気がしたんだ。
ちょっとだけいつもより風が吹いていて、草がなびいてる気がしたの。
そしたらお祖父ちゃんの眼の前にいきなり木が生えてきたの!
その木はあっという間にお祖父ちゃんよりもずーっとずーっと大きな木になった。
ものすっごくおおきい木。
太さもあたしじゃめいいっぱい手を広げてもぜーんぜん反対側の手に届かない。
それを見上げながらお祖父ちゃん入った。
「カノン、これを」
そういうとお祖父ちゃんは不思議な黒い石を手渡してきた。
「なにこれぇ」
「カノンよ、この石でなんでもいい、毎日木に線を引くように切りつけるのじゃ。
毎日1時間に1回、起きてから寝るまで、必ずじゃ」
「ええー!そんなに遊んでたら怒られちゃうよ―」
あたしはなんか毎日勉強をやらされてたし
ずっと自由時間じゃないからとても困った。
するとお祖父ちゃんは
「時間になったらその時だけカノンが言えばでてこれるようにワシが言っておく」
本当に大丈夫かなぁ。
あたしは何を行っても勉強から逃げられたことがないから
その言葉、どうなんだろうっておもったけど
「カノンはお祖父ちゃんを信じられないかい?」
「だって家の人たちがいつも絶対駄目だっていうんだもん!」
「ワシはなんだってできるんじゃぞ? さっきも見せてやっただろう」
確かに……お祖父ちゃんはなんでもできる。
お菓子をいっぱい出せた。おじいちゃんはすごい。
「わかった! あたしがんばる!」
「そうかそうか、じゃあちゃんとやるんじゃぞ」
これが私がお祖父様との記憶。
私は未だにお菓子を作り出すことは出来ていないです。
でも今日も私は杖を握る。
お祖父様との約束を胸に。




