第二話 クラスメイトと赤い髪
無事、入学式も終わり、私は早速自分のクラスに移動することになりました。
とは言っても、初等部時代とはだいぶクラスの様子は違いました。
中等部では、初等部のような固定の教室はなく、
授業ごとに教室を移動するらしいです。
私は体力に自信がないため、この手に馴染んだ大きな杖を
持って移動するだけで、少し疲れてしまっていました。
人数の多い中、この身の丈ほどある杖はどうしても目立ちます。
カツカツと音を立てるたびに、
消えてなくなりたい気持ちになってきました。
それはそうと、なんとか大教室なる部屋に移動してきたのです。が
そこには大きな黒板をまるで取り囲むかのように
長机が多く配置されており、入学式の時と違って
指定された席はありませんでした。
だいぶ遅れて教室に入ってきたのもあって
すでにだいぶ席は埋まってしまっていたのです……。
本当は後ろの方に座りたかったのですが
やはり後ろの席大好き人間のワタシ調べでは
自由席の後ろの席の競争率は異常なほど高い!
案の定後ろの席はおろか、中段の席もいっぱいになっており
結局空席があるのは前の方の席しかありませんでした。
仕方なく私は覚悟を決めて前の方の、誰ーも座ってない
一人で座れそうな席を探した結果……
視界に入ったのは、最も避けたかった場所……
そう、教壇の真ん前、最前列だけでした。
目立たず、静かに、影の一部になりたかった私のささやかな願いは、
無慈悲にも打ち砕かれました。
人が座っている席の隣に座る勇気もなく、
私は壇上の目の前、最前列に逃げ込むように座ることにしました。
コミュ障の私にとっては、これが最良の選択です。
ここなら敢えて座りに来る人もいないだろう。
と読んでいたのですが……。
「よぉ、隣座っていいか?」
「ひゃっ?!」
慌てて変な声が出てしまいました。
落ち着け私。
どうこう言う前に、彼女はそこにどかっと座り込んでしまいました。
そのある意味ふてぶてしい態度、燃えるような赤い髪。
私は思わず背筋がぞわっとしました。
な、なぜこんないかにも陽キャっぽい女の子が私の隣に?!
などと、思わず文句めいたことまで考えてしまいます。
ふと気がついたら、赤髪の女の子は
私の顔のすぐ近くまで顔を寄せていました。
「?! ななななんですか?!」
「……お前、変なやつだな」
ガーーーーーーン!
神様、私はなにか悪いことをしたのでしょうか。
駄目な子なりにそれなりに真っ当な生活をしていると思うのですよ!
「その杖、いまどきそんなバカでかいの持ってるやつ、
はじめてみたわ。んで……」
更に彼女は顔を近寄らせてきて言った。
「気に入ってんの? その杖」
……。
「はい、私が魔法をはじめてチャレンジした時に、お祖父様から
試しに使ってみろって言われて……上手くいったのが嬉しくて。
そしたらお祖父様がくれるって言ってくれて……」
……わ、私は一体何を言っているのでしょうか。
頭の中がこんがらがりながらも、なんとか言葉を紡ぎました。
「通りで年代物みたいな杖だな」
……その言葉に私は何故か杖をバカにされたような気がして。
口からでた言葉は、
「でも……大切な私の杖なんです」
はわわわ……つい大見得を切ってしまった気がします。
すると彼女は急に私の髪をワシャワシャと頭を撫でてきて
私はびっくりして飛び退いてしまいました!
しかし彼女の顔をその時ようやくはじめてみた気がしました。
彼女はその赤い髪を滾らせたような満面の笑みを浮かべていて。
「お前、いいやつだな、大事にしろよ、その杖」
「は、はい、ありがとう……ございます?」
なんかわからないけど、体がポカポカとあったかくなってきて。
きっと、この人はいい人だ。
……でも何を話せばいいんだろ……そうだ、名前だ!
「あの、もしよければ名前を……」
「ホムラだ。そっちは?」
「あ、はい、カノンっていいます」
「よろしくな!」
そういうとホムラは手を差しのべてきた。
その手を握ると、その燃えるような手とは裏腹に冷たくて
でもつやつやとしてしっとりとした感触。
「あはは、ゴメンな、俺こんな見た目と性格だからさ。
あんまり友達とかいないんだ。今でも必死に取り繕ってるから
手汗かいちゃってて、気持ち悪かったらゴメンな?」
一見すると人付き合いが得意そうに見えるのに。
でも、人を疑うのもちょっと違う気がします。
「ホムラちゃんが友達少ないなんてちょっと意外です……」
「まぁなんていうか、人との距離のとり方みたいの苦手なんだわ。
最初は上手くいってても『何かこいつチガクね?』みたいに思われてるのかな。
話すだけは話すけど仲が良いって言えるやつはあんまいねえ」
「そう……なんですね。 私はシンプルに人と話すのが何か苦手で……」
何か話さないと。
そう思ったけど思いついた以上の言葉がでなかった。
彼女はいい人だけど、私とは見ている景色はきっと違う。
そんなうつむき加減に話す私にホムラちゃんは微笑みながら話してくれた。
「はは、でもちゃん付けで呼ばれるとはおもわなかったぜ。
まぁこんな俺でもよかったら仲良くしてくれよな!」
なんか……気がついたら会話が繋がってて楽しい。
やっぱホムラちゃんはいい人だ。
私はこの赤髪の少女に気がついたら魅入られてたのです。
気がつけばチャイムが鳴り、先生が入ってきました。
そうして今日という日が終わる……。
――このときの私は、
誰かと並んで座ることが、
こんなにも温かいものだとは、まだ知りませんでした。




