第十二話 友達と魔法
杖と魔法は切っても切り離せないものです。
だけど魔法は、杖がなくても使うことはできる。
それはまるで私と魔法の関係のようでした。
私は布団の中で丸まり、ずっとそんなことばかりを考えていました。
考え事をしていると、時間はなかなか経たないようで
私はたまに布団から頭を出しては時計を眺め
経過しない時間を見てはため息を付いていました。
そんなこんなで、12時を過ぎた頃でした。
コンコン。
「カノン」
お兄ちゃんの声でした。
「お兄ちゃん? わざわざ帰ってこなくてもいいのに……」
「来たくて来てるんだ、カノンは心配しなくてもいい」
「心配するよ! お兄ちゃんは本当は無理してるってわかってるんだから!」
「はは、カノンは心配性だな」
そう言うと、かすかにマナの流れを私は嗅ぎ取りました。
……解錠の魔法!
お兄ちゃんは扉を無理やり開ける気だ!
「ダメ! お兄ちゃん入らないで!」
私が飛び起きて、扉に手をかけようとしたその時。
扉は先に開かれました。
お兄ちゃん……なんで……。
私は、お兄ちゃんだけは絶対そういうことはしないと思っていたのに……。
しかし私の思考はあっという間に書き換えられました。
扉が空いた先にいたのはお兄ちゃんではなく
なんとホムラちゃんとアミちゃんだったのです。
「え、えぇぇ?! なんで?!」
私は一瞬、頭がパニックになりました。
しかしそのパニックの中でも芽生えた感情。
それは恥ずかしさでした。
「さ、さっきのやり取り聞いてた?!」
するとホムラちゃんは頬をかきながら
「ごめんなー、でもわざとじゃないんだぜ?
お前の兄貴がどうしても来てほしいっていうんできたら、な。
まぁ事故だ、許せ」
私はみるみるうちに、頭がポカポカしてくるのを感じました。
そして隣に立っていたアミちゃんはとんでもないことをいいました。
「あらー、カノンちゃん、学校ではあんなにお兄様のこと
邪険にしていらしたのに、お家ではべったりなんですわね」
顔だけじゃなくて体まで燃えるようにポカポカしていくのを感じます!
「もう、お兄ちゃん! なんで友達つれてくるのよ!
恥ずかしいじゃん!」
「何を言ってるんだい、カノン。
二人は君がいきなり学校を休むからとても心配していたんだ。
だから僕は『お見舞い』に来てくれたらカノンも喜ぶと歓迎したんだ」
んんんっもう!
お兄ちゃんはいつもこうだ!
何でもできるけど、それは何でもするってことでもあります。
手段を選ばないと言うかなんというか……。
私は無意識に杖に手を伸ばしました。
いつものところに立てかけておいた杖は手に馴染み
いつものように私のマナが杖が駆け巡る。
それはいつもと変わらない杖でした。
「まぁ、なんか病気かと思ったけど思ったより元気そうで良かったわ。
これ見舞いの果物」
そういうとホムラちゃんはずかずかと部屋に入ってきて、私の机の上に
籠に入った豪勢な果物の山をドサッと置きました。
「ちなみに私が全額出しましたわ。ホムラさんは全く支払っておりません」
「うるせえな、仕方ねぇだろ、金がねぇんだから。
そもそもなんの病気かもわからないんだから
持ってっても食えないかもしれないじゃねーか!」
「こういう物は誠意ですわよ。食べれるかが問題ではありませんのよ。
それにこういう時のために最低限ぐらいは貯金してはいかがですの?」
「悪かったな、文無しで。家じゃ飯代しか金もらえねーんだよ!」
……いつもの学校での二人の会話。
それはいつもとなんも変わらない姿。
変わってしまったのは私。
そんな事を思って何気なく杖にマナを流すと
私の全身からはマナが溢れ出し……そのマナの色は澄んだ青い色でした。
「青いマナ……ですわ」
前にも出てきた、海の色のようなマナ。
私はこの色に飲み込まれるような何かを感じて、言いようのない不安を覚えていました。
でもそれを、お兄ちゃんとアミちゃんは唖然とした表情で見ていました。
やっぱり私は……
「ん? 青いマナって何だ? 俺はマナ感知苦手でよくわからないんだよなぁ」
するとアミちゃんが答えました。
「青いマナ、それは……」
「それは?」
「とても珍しい色ですわ」
「それだけかよ!」
でも、アミちゃんやお兄ちゃんは驚きの表情のままです。
私は困惑しました。
「ただ珍しいと言うだけではありませんわ。
極めて珍しい、100年に1人現れるかわからないほどの貴重な色。
そしてこの色は魔法使いにとってとても意味のある色」
ホムラちゃんは頭をボリボリと掻いていいます。
「だからもったいぶってないでなんなのか言えよ」
「300年前の伝説の魔法使い、エリアスが青いマナを持っていたとされていますわ」
「300年前?! でもそんな話俺は聞いたことないけどな」
実際私も聞いたことがないです。
どんな人なのでしょうか。
もし『あの人』のような人物だったら……。
「エリアスに関しては記録が少ない人物ですので、ほぼ都市伝説みたいな存在ですの。
曰く、この世に存在する全ての魔法を使えたと言われてますわ」
「すべて?! それはいくらなんでも誇張しすぎだろ」
「だから伝説なんですわ。 古すぎて文字の文献しか残ってませんし。
ただその卓越しすぎた魔法は人々を遠ざけたともいわれています」
人々を遠ざける……その言葉に私は顔には出さなかったが落ち込みました。
「まぁすごすぎる奴って近寄りがたいもんな。
で、それだけか?」
「ま、まぁそれだけですけれども、ホムラさん貴方魔法使いなのに
全ての魔法が使えるっていうことのすごさに何も思うところがないのですか?!」
「そりゃまぁすげえと思うぜ? でも別に本人に会ったわけじゃないしなぁ?」
ホムラちゃん……。
ホムラちゃんは最初あったときからそうでした。
いつも真っすぐで、魔法で人を見ていない。
私に対してもそうで、カノン・ローランとして見てくれる。
「あと面白い話がありますわ。エリアスのマナと同じ色をした魔法使いは
幸せを運んでくる、といわれておりますの。
私も白馬の王子様が青いマナを纏ってきてくれたらって思ってますわ」
「お前何いってんの? そもそも今の時代に
白馬に乗ってるやつなんているわけねーじゃん」
「まぁ、なんてロマンのない人なんでしょう
いえ貴方にそんな高尚さを求めるのは無理な話でしたわね」
「おい、喧嘩うってるのかてめぇ、外に出るか?」
幸せを運ぶマナ……か。
私は喜んでいいのかどうかよくわからなかった。
ただ、悪い意味ではないということに少しだけ胸がすっとした気がしました。
「カノン、これは大事な話だ。今から言うことをよく聞いて」
急にお兄ちゃんが真剣な面持ちで話してきた。
「な、なに? お兄ちゃん」
「カノンにはこれから二つの道がある。
きっとどちらにしてもカノンにとっては重大な決断になる」
「どういうこと?」
お兄ちゃんの目は真っ直ぐで、私をじっと見つめてくる。
その表情と目が深刻さを物語ってました。
私はまた悪いことが起こるのではないかと不安にならずにいられません。
するとお兄ちゃんはポンポンと頭を撫でてくれました。
その頭からの手の感触だけが私を緊張から解き放ってくれます。
「まず聞く。このマナの色は出すのを止められるか?」
……私は質問の意図がわかりませんでした。
なので素直に答えました。
「わからない……ただ今は魔法を使うとこの色になっちゃう」
「そうか……」
そう言うとお兄ちゃんは目を閉じた。
なんとなく、お兄ちゃんは不安を感じてるのではないか。
そんな気がして私も不安な気分になった。
少しだけして、お兄ちゃんはまたまっすぐ私を見ていった。
「カノン、道は二つだ。このマナとともに生きていくか。
……それとも魔法を捨てるかだ」
……。
私はあまりに衝撃的な言葉に一瞬意識が飛ぶかと思った。
「お……お兄ちゃん……それは……どういう、こと?」
それに対してホムラちゃんが先に思っていたことを口にした。
「おいおい、なんで青いマナだと魔法をやめなきゃいけないんだよ」
でも、アミちゃんは押し黙っていた。
まるでそれは答えを知っているようだった。
お兄ちゃんは口を開いた。
「青いマナは伝説の象徴、絶対にカノンを神聖視する奴、利用しようとする奴
色んなやつがカノンに絡んでくる。それがいい方に必ず向く保証はない」
お兄ちゃんの顔はいつにもなく真剣だ。
そして言っている意味もわかる。
それがどんな未来なのかは具体的なイメージは湧かないけれど
いいことも悪いことも、きっとたくさん起こるのだろう。
「今からカノン・ローランは事故で魔法が使えなくなった。
そうすることはできる。そのぐらいの力はうちの家にはある。
きっと穏やかな生活ができる。だが魔法は外では二度と使えない。
カノンにとって魔法はもう二度と未来を切り開く『道具』にはならない」
私は血の気が引いた。
私の存在意義、それが無くなる……?
頭が理解を拒否していた。
「もう一つの道は……その青いマナと共に歩くこと。
カノンは生きる伝説ともてはやされ、世間は君に無責任に
幸運を招くことを期待するようになるだろう。
その重圧はおそらく並大抵のものではない。
カノンが好きな魔法は、嫌いなものになるかもしれない」
理解ができない。
お兄ちゃんはなにか悪い冗談を言っているに違いない。
そんな事はありえない。
その瞬間だった。
バチンっ!
殴打する音。
瞬間、私は目を閉じて、再び開けるとそこにはホムラちゃんに頬を叩かれた
お兄ちゃんがいた。
「あんたはカノンの味方だってずっと思ってたけど、俺の勘違いだったみたいだな!」
お兄ちゃんは黙って項垂れていた。
ホムラちゃんは更にまくし立てた。
「お前、カノンがどれだけ魔法を大事にしてるか知ってるだろ!
よくそんなことが言えたな!」
更に掴みかかろうとしたホムラちゃんをアミちゃんが手で制した。
「おい、まさかお前までこのクソ兄貴と同じ意見かよ」
「ホムラさん、気持ちはわかります。だけどこれは避けて通れない問題ですわ。
このままそれを良しとすれば、必然的にカノンちゃんは火の中に放り込まれてしまう!」
「だったら俺達が守ってやりゃいいだろうが!」
「私すら止めることが出来ない貴方がどうやってカノンちゃんを守るというの?
口だけ言うなら誰でも出来ますわ……誰が好き好んでそんなこと……」
「……」
沈黙が周囲を包み込みました。
私は震える声で言いました。
「みんな、今日はありがと……もう大丈夫だから、そろそろ学校戻らないと
午後の授業だし、ね?」
しかし誰も顔を上げようとしませんでした。
「二人とも、今日はカノンのためにありがとう。
学校にもう戻ってくれ」
「でもよ……」
「僕はちょっと家の用事で欠席すると伝えといてもらえるかな」
お兄ちゃんはいつもの笑顔で言う。
「わかりましたわ。カノンちゃんの事、頼みます」
「ああ、任せてくれ」
それを最後にホムラちゃんとアミちゃんは部屋を出ていきました。
「お兄ちゃん……私……」
真っ白でした。
全てが白……ただ、漂うマナのみが青。
「とりあえず今日は部屋で休んで。
ただ僕が言ったこと、考えておいて。
僕はあのクソ親父のところに相談に行ってくる。
さすがに今回の件は僕の手には余る」
考える……。
私の考えがまとまる前に、お兄ちゃんは部屋をでていきました。
訳が分からない。
ただ私は、自分で自分の魔法が捨てられるのは
贅沢な悩みだったのだと。
それ以上は何も考えられませんでした。




