表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された黒薔薇は自由に咲く  作者: 文月紫梟


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

暗殺者

瞬いた次の瞬間。


風を切る、わずかな音。私は反射的に身を沈めた。


ヒュッ、と耳元をかすめて、

銀色の刃が闇へと消える。


「……投擲」


地面に突き刺さったそれを一瞥する。

刃の根元に、微かに光る液体。


毒。


「ずいぶん丁寧ね」


焚き火が、ふっと消えた。闇が、濃くなる。


次は、三本。


左右と正面。

逃げ場を塞ぐ軌道。


私は指先を鳴らす。

空気が凍りつき、刃の進路を塞ぐように氷の壁が立ち上がった。


カン、カン、と乾いた音。


背後に踏み込む気配。

私は振り向きざま、腕を振る。氷の槍が、扇状に十数本現れ飛ぶ。


影が飛んだ。ぎりぎりで避けられ、氷槍は木の幹を貫いた。


地面を蹴り、距離を詰めてくる。


私は後退せず、

氷を、地面から走らせた。


足元を凍らせ、動きを縛る。


しかし、相手は宙に身を投げ、回転しながら、短剣を放つ。


刃は、私の肩を狙って――


空中で、凍り付いた。


「……毒のやな匂い」


空から無数の氷の剣が、雨のように降り注ぐ。


影は木々の間を縫い、避け、弾き、距離を取る。

次の手を伺っている様で動かない影。


私は、もう十分だった。


今までとは比べ物にならない速さで

氷の刃を、相手の胸元へ。


致命傷になる軌道。


影は、それを読んでいた。ぎり、と歯を食いしばる気配。

紙一重で、身体をひねる。


――避けた。


その瞬間。

地面から、氷が噴き上がった。


足、腕、胴。口にも覆う氷。鼻だけは覆わないでおく。

絡みつくように、逃げ場を与えず。


「……っ」


声にならない声。


さらに周りを包む様に完全な氷の牢獄が、

夜の森に出現した。


透明で、澄んだ、一切の歪みのない氷。


私は、氷の前に立つ。

中で、暗殺者がこちらを睨んでいる。


「安心して」


静かに告げる。


「殺さないわ」


指先で、氷を軽く叩く。


「――使えるかどうか、見極めるだけ」


夜風が、森を撫でた。

焚き火の残り火が、

遠くで、かすかに赤く揺れている。



氷の牢獄の前で、私は腕を組んだ。


檻のように組み上げられた氷の格子。

内側では、四肢も胴も、氷に絡め取られ身動き一つできない。


口元だけ。そこだけ、そっと氷を溶かす。


「さて」


静かな声で、告げる。


「あなたは私を殺しに来た暗殺者で、私がさっきまでいた国に雇われて来た」


沈黙。


闇の中で、相手の目が細くなる。


「……ずいぶん、決めつけるな」


低く、乾いた声。


「当たってる?」


一拍。


「……半分」


私は、くすりと笑う。


「じゃあ、残り半分は?」


「殺すかどうかは、状況次第だ」

「へえ」


氷の格子に近づき、じっと顔を覗き込む。


深いグレーの髪。無駄のない体つき。目は冷めていて、感情を抑え込んでいる。


「つまり、依頼が失敗したと判断したら、生き残る道も探るタイプ」

「……」

「嫌いじゃないわ」


私は、彼の腰元に視線を落とす。


「それにしても……」


手を伸ばし、

氷の隙間から、一本目の暗器を抜き取る。薄く、細い刃。


「軽量、重心は後ろ。投擲向き」


次に、太腿。


二本目。


「こっちは接近戦用。毒は……即効性じゃないわね。痺れ系?」

「……よく喋るな」

「興味深いものは、好きなの」


三本目。

四本目。


ひとつひとつ、地面に並べていく。


「刃の材質、加工、毒の調合……」


私は小さく首を傾げる。


「安くはないわね。国も、本気ってこと」


暗殺者は、目を逸らさない。


「……それを見て、どうする」

「決めるの」


私は、考える様に空に視線を投げながら暗器を一本、指先で回す。


「あなたを、殺すか、それとも――」


視線を戻す。


「使うか」


一瞬だけ。

彼の目が、揺れた。


「……信用すると思うな」


その言葉に、私は微笑む。


「安心して」


氷の格子に、そっと手を置き、目を合わせた。


「私も、あなたを信用しない」


夜の森が、静かに息をする。どこかでフクロウの鳴き声がした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ