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追放された黒薔薇は自由に咲く  作者: 文月紫梟


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4/9

追放

馬車は、国境へ続く街道を静かに進んでいた。


護送とは名ばかりで、周囲に騎士の姿はない。大々的に見送れないのだ。

並んで馬を進めるのは、騎士団長ただ一人だった。


「揺れは大丈夫ですか」


外からかけられた声に、私は窓を少しだけ開ける。


「ええ。思っていたより、ずっと」


騎士団長は穏やかに少し寂しさを馴染ませて笑った。


「…それは良かった。」

この人らしい返事に微笑ましくなる。


「団長」

「はい」

「……護送、ありがとうございます」


一拍置いてから、彼は首を振った。


「礼を言われることではありません。私は、したいことをしているだけです」


その声は、いつも通り落ち着いている。

そしてそこに偽りがないことを、私は知っている。


あの日。

魔獣に襲われ致命傷を負って倒れていた彼を、助けた。氷の結晶が空気に舞い月の明かりが反射して煌めき、

血まみれの彼に魔力を紡いで命を繋いだ夜。


彼は、忘れていない。


「……怖くは、ありませんか」


少し迷ってから、団長はそう尋ねた。


「追放です。しかも、理由は……。」


私は、窓の外を眺めながら答える。


「怖くない、は嘘になりますね」


正直に言う。


「でも……不安よりも、嬉しいんです」


団長が、わずかに驚いた気配がした。


「嬉しい?」

「ええ」


私は、少しだけ声を和らげる。


「これから初めて、自分で選べる気がして。それに自由じゃない?」


沈黙。

それは、否定でも疑念でもない。


やがて、団長は深く息を吐いた。


「……あなたらしい」


その言葉に、思わず小さく笑ってしまう。


「そう思われていました?」


「ええ。

 隠してはいましたが……あなたは、強い」


団長はわずかに目を細め、その目には微かに憧憬が滲む。


「どうか……、」

途切れた言葉に団長を伺うが、その続きが紡がれることは無かった。


しばらく、馬蹄の音だけが続いた。


やがて、森が見えてくる。国境の森。人の手が及ばない、深い青々とした森。


馬車が止まる。

団長が降り、こちらを振り返った。


「…ここまでです」


彼は一歩下がり、

騎士として、ではなく、一人の人として頭を下げた。


「どうか、ご無事で。そして……自由に」


私は馬車を降り、正面に立つ。


「ありがとうございます。団長が護送で、良かった」


一瞬、彼の表情が崩れた。


「……それは、光栄です」


私は、くるりと森の方を振り返り、

一歩、足を踏み出す。


振り返って、微笑んだ。


「大丈夫ですよ。私、案外……楽しんでいますから」


それは、本心だった。


団長は何も言わず、困った様な表情で、ただ深く頷いた。


背を向け、森へと入る。

もう、護られる必要はない。


――ここからは、私の物語だ。


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