追放
馬車は、国境へ続く街道を静かに進んでいた。
護送とは名ばかりで、周囲に騎士の姿はない。大々的に見送れないのだ。
並んで馬を進めるのは、騎士団長ただ一人だった。
「揺れは大丈夫ですか」
外からかけられた声に、私は窓を少しだけ開ける。
「ええ。思っていたより、ずっと」
騎士団長は穏やかに少し寂しさを馴染ませて笑った。
「…それは良かった。」
この人らしい返事に微笑ましくなる。
「団長」
「はい」
「……護送、ありがとうございます」
一拍置いてから、彼は首を振った。
「礼を言われることではありません。私は、したいことをしているだけです」
その声は、いつも通り落ち着いている。
そしてそこに偽りがないことを、私は知っている。
あの日。
魔獣に襲われ致命傷を負って倒れていた彼を、助けた。氷の結晶が空気に舞い月の明かりが反射して煌めき、
血まみれの彼に魔力を紡いで命を繋いだ夜。
彼は、忘れていない。
「……怖くは、ありませんか」
少し迷ってから、団長はそう尋ねた。
「追放です。しかも、理由は……。」
私は、窓の外を眺めながら答える。
「怖くない、は嘘になりますね」
正直に言う。
「でも……不安よりも、嬉しいんです」
団長が、わずかに驚いた気配がした。
「嬉しい?」
「ええ」
私は、少しだけ声を和らげる。
「これから初めて、自分で選べる気がして。それに自由じゃない?」
沈黙。
それは、否定でも疑念でもない。
やがて、団長は深く息を吐いた。
「……あなたらしい」
その言葉に、思わず小さく笑ってしまう。
「そう思われていました?」
「ええ。
隠してはいましたが……あなたは、強い」
団長はわずかに目を細め、その目には微かに憧憬が滲む。
「どうか……、」
途切れた言葉に団長を伺うが、その続きが紡がれることは無かった。
しばらく、馬蹄の音だけが続いた。
やがて、森が見えてくる。国境の森。人の手が及ばない、深い青々とした森。
馬車が止まる。
団長が降り、こちらを振り返った。
「…ここまでです」
彼は一歩下がり、
騎士として、ではなく、一人の人として頭を下げた。
「どうか、ご無事で。そして……自由に」
私は馬車を降り、正面に立つ。
「ありがとうございます。団長が護送で、良かった」
一瞬、彼の表情が崩れた。
「……それは、光栄です」
私は、くるりと森の方を振り返り、
一歩、足を踏み出す。
振り返って、微笑んだ。
「大丈夫ですよ。私、案外……楽しんでいますから」
それは、本心だった。
団長は何も言わず、困った様な表情で、ただ深く頷いた。
背を向け、森へと入る。
もう、護られる必要はない。
――ここからは、私の物語だ。




