ミニマルライフストーリーvol.3 ~ハンドフルートに思いを寄せる女子学生
主人公:みゆ
21歳の大学4年生。
人思いで優しい。信念が強い女の子。
他の何よりも、ハンドフルートを演奏することが好きで、日々練習に励んでいる。
将来はより多くの人々にハンドフルートの魅力を伝え、感動を与えていきたい。
現在は母・弟と3人暮らし。
カフェでバイトをしている。
6月19日、気温は31度。
晴天日和の中、リュックを背負ったショートボブの女性がJR横浜線長津田駅の電車のホームで待っていた。
電車が到着して乗ると、彼女が乗った車両はタイミングよく、彼女で最後の一枠だった。
しかし、後から乗ってきた杖をついたおばあちゃんが立っている様子を見て、
「ここの席どうぞ」
とすぐに席を譲った。
おばあちゃんは、笑顔でお礼を言った後、ゆっくりと腰かけた。
女性は優しい笑顔で、軽く相槌を打った。
彼女が降りた駅は、JR町田駅。
16時半過ぎの到着である。
向かった先は、改札出てすぐ目の前にある、町田駅のシンボルであるオブジェの前だ。
町田駅の周辺はいつもたくさんの人が歩いている。
特に若者が多く、多くの人々で賑わっている様子である。
そんな中、リュックも降ろさず両手を組み合わせ、親指と親指の空洞に息を吹き込むと大きな笛のような音が出てきた。
これが、ハンドフルートである。
バック音も何もない状態で、両手を使ってフルートのような音を出しているのだ。
そんなことができるのかと思わんばかりに、彼女の様子を見た人たちは感銘のあまり茫然と立っていた。
最初に吹いた曲は、井上陽水の「少年時代」である。
吹き終わると、拍手をしてくれる人がちらほらいた。
ただ、彼女にとってそれはウォームアップだった。
吹き終わると、リュックから折りたたみマイクスタンドを取り出し、マイクも用意した。
次に演奏した曲は、スピッツの「楓」。
バラード調で優しいメロディである。
音楽に詳しくない人でも、誰もが一度は耳にしたことのある曲だろう。
サビの高音がきれいに出ている。
気が付けば、何十人と彼女の周りに人が集まっていた。
それでも、彼女の表情はほとんど変わらない。
緊張している様子もあまり見られない。
こういった場で演奏することには、慣れている様子である。
淡々とハンドフルートをきれいに吹き続けているのだ。
日暮れ時には、観客が彼女のそばで賑わっていた。
演奏し終えるたびに、拍手の音もだんだん大きくなる。
通勤ラッシュの時間帯なので、JRと小田急の町田駅を行き来する人が多く、たまたま彼女のパフォーマンスを見かけた人がたくさんいる。
最後の演奏曲は、「ルパン三世のテーマ」。
とても激しく、音程が高いフレーズが何度も出てくる。
しかし、そんな難しい曲でさえ、流暢に吹きこなしている。
バック音はなくても、彼女の奏でる音の力強さと、音域をきれいに使い分ける吹きこなしが、観客を圧倒する。
見ている全員が彼女の虜になっている様子だった。
18時過ぎの日暮れ時、演奏し終えると拍手は辺り一帯に響くほどの湧きあがりだった。
演奏を終えて、みんなに軽くお辞儀をしながら笑顔でお礼を言った。
マイクとマイクスタンドをたたんでゆっくりとリュックにしまい、JR町田駅に向かった。
彼女の最寄りは、東急田園都市線のつくし野駅。
JR長津田駅まで行き、そこから田園都市線に乗り換えた。
駅から徒歩で約10分ほどの一軒家に住んでいる。
「ただいま」
家に到着すると母親が
「お帰り。今日はどうだった?」
と聞くと
「うん、なかなか調子良かったよ。
最後にルパン三世を吹いたんだけど、やっぱりそこが一番盛り上がったかな。
歓声も聞こえて、拍手してくれた人も多かったし。」
笑顔ではあるものの、少しだけ満足した様子だった。
「よかったじゃん。もうご飯にする?」
母は言った。
「ごめん。あと30分だけ待ってもらえる?」
彼女はそう言って、すぐに2階にある自分の部屋に戻り、ハンドフルートの練習をしていた。
どうやら彼女にとって今日の演奏で満足していない箇所があるそうだ。
そこの部分を何度も反復練習し、納得できるまで演奏を続けた。
30分ほど経つと、下に降りて
「お母さん、ご飯食べよう」
と彼女は言って、ダイニングの椅子に座った。
今夜はカレーだ。
大きく切ったジャガイモと人参、そして玉ねぎと牛肉が入っている。
「うん、とてもおいしい」
彼女はそう言って、黙々と食べていた。
「まぁ、お母さんが作った料理だからね」
と母は自信ありげな様子で笑いながら言った。
「バイトは相変わらず?」
と続けた。
「うん、楽しくやってるよ。最近、新人の子が一人入ってきてね、同じ大学の子なの。」
彼女はJR町田駅に隣接している商業施設の中にあるカフェでバイトしている。
彼女が通う大学は、京王相模線の南大沢駅のすぐ近くだ。
定期で通っているため、雨が降ったり、体調が優れないなどの特別な事情がない限りは、必ず町田駅で降りる。
駅前のオブジェの前でハンドフルートを演奏するためだ。
「ごちそうさま」
そう言って、お皿を流しに持っていき、自分で洗い物をした。
「明日さ、もし用事がないならグランベリーパークでご飯食べる?
俊は明日サッカーの試合でいないから。」
母はそう言った。
「うん、いいよ。じゃ、そのあと鶴間公園でフルートを吹くから、少し聴いててくれる?」
ここでのフルートとはハンドフルートのことである。
「恥ずかしい演奏しないでよ。」
母は笑みを浮かべてそういった。
「昼間は家族連れがたくさんいるだろうね。
明日は晴天日和だっていってたから。
やっぱり大勢の前だと緊張しない?」
「さすがにもう慣れてるよ、人前で演奏するのは。
それに毎日吹いてるから、何人か顔見知りの人もいるし。」
「お母さんもあんたから教わってハンドフルート始めてみようかな。」
ニヤッとしながら母が言うと
「あと10年くらいは覚悟しといてね。」
とニヤッと言い返した。
こういった何気ない会話のやり取りを普段から行っている。
彼女が普段演奏しに行くときは、町田駅前、グランベリーパーク、または大学のキャンパス内である。
たまに、井の頭恩賜公園や代々木公園まで足を延ばして演奏することもある。
いろんな人に聴いてもらいたいので、活動拠点をいくつか持っている。
普段は、バイトが休みの日も町田駅にハンドフルートを演奏しに来ている。
バイトが平日18時終わりの時は、通勤ラッシュも相まって彼女の演奏を見かける人は多くなる。
一部常連の観客もいるほどだ。
彼女のバイトの同僚たちはほぼ毎回見に来てくれている。
というより目立つ場所で演奏しているため、必然的に目に入るのだ。
職場でも、ハンドフルートのことや彼女自身のことについて聞かれることがとても多い。
彼女は隠すことなく、正直に答えている。
彼女の夢は、世界中の人たちにハンドフルートの魅力を伝えることだ。
いったい、ハンドフルートの何が彼女の心を動かしているのか。
それは、身一つで音を奏でられる点とハンドフルートのきれいな音色である。
今では、彼女の生きる本質はハンドフルートにある。
様々な場所でハンドフルートを演奏して、魅力を伝えることだ。
彼女のハンドフルートとの出会いは、大学2年生の時である。
彼女は中学・高校と吹奏楽部に所属し、フルートを担当していた。
大学では、部活やサークルには所属していない。
もともとは、管弦楽団に入部しようとしていたが、部活並みに活動頻度が多く、練習時間も非常に長い。
通学時間も少しかかるため、学業やカフェでのアルバイトとの両立はかなり厳しかったのだ。
彼女にとってアルバイトは少しでも家計を支えるため、趣味で旅行するための貯金として必要だった。
その上、一度働いてみたいという気持ちも強かった。
それでも何かしらの手段で、音楽を続けたいという気持ちも少なからずあった。
なので、当初は市内にある、アマチュアの社会人オケに入団することを当初は検討していた。
頻度も週一回で、大人だけでなく、大学生の子も何人かいたからだ。
そんなこともぼんやりと考えながら過ごしていた2年生のある日のこと。
たまたまテレビの特集でハンドフルートを扱っていたのを観た。
中高6年間、吹奏楽部でフルートを担当していた彼女だが、ハンドフルートという言葉は今回初めて耳にした。
そしてその音色は、本物のフルートと同じように美しい。
両手だけで音を奏でられることに大きく感銘を受けて、その日からYouTubeなどで調べてハンドフルートを練習し始めた。
始めは音がなかなか出ないので、苦労した日々が続いていた。
しかし、音が出ない悔しさから練習を積み重ね、授業中やバイトの時でさえもハンドフルートのことばかりを考えるくらい熱中するようになったのだ。
ハンドフルートが吹けるようになれば、毎回フルートを持ち運ぶ必要はない。
道具を買う必要も、メンテナンスを行う必要もないので費用は全くかからない。
そして楽器という大きなモノを持ち運ぶ必要がなくなり、いつでもどこでも、手ぶらで演奏できるのであれば、どれだけ身軽さを感じて生活できるだろうか。
そのようなことを、ずっと考えていたのだ。
そして、そのようなところに魅力を感じていた。
そもそも、ハンドフルートを知っている人は数少ない。
ハンドフルートが吹けるだけでも、その情景を観たたくさんの人から驚かれ、賞賛を浴びるだろう。
しかし、彼女にとってはそんな見栄はどうでもよかった。
彼女はハンドフルートの魅力をSNSで常に発信し続けている。
“ 楽器を買うお金は必要ない。努力すれば誰でも自分の楽器として演奏ができる。
いつでも、どこでも身軽な状態で音を奏でることができる。
練習すればするだけ、きれいな音を出せるように上達していくので、自分の成長も実感できてやりがいもあって楽しい。”
と。
何も予定がない日は、平均8時間は練習している。
彼女の瞳の奥には、熱い眼差しがある。
彼女の向上心は非常に高い。
それと同時に、純粋にハンドフルートを吹くことに喜びを感じているのだ。
端から見れば、彼女は持ち物が少ないミニマリストだ。
自分の部屋にはモノが非常に少ない。
彼女には高校から付き合っている彼氏がいる。
その彼も初めて彼女の部屋を訪れた際は、あまりの簡素さに驚いていたほどだ。
お出かけの際も必要最低限のモノしか持ち歩かない。
そしてどこに行くときもいつも同じリュックを使用している。
物欲やモノに対するこだわりはほとんどない。
雑な買い物も滅多にしないのだ。
決して我慢しているわけでもない。
本当に必要だと考える物事にしかお金を使わないだけである。
お金の使い方が非常に丁寧なのだ。
お金を使うことで幸せをもたらすことは、一時的でしかないということを理解している。
彼女が常に大事にしていることが2つある。
それは夢と人とのつながりである。
彼女にとっての夢とは、ハンドフルートをもっとたくさんの人々に認知してもらい、演奏を通して多くの人々に感動を届けること。
その夢をかなえるための普段の地道な努力こそが、自分の生活を豊かにしてくれることに気づいているのだ。
そして人とのつながりも同じくらい大切にしている。
普段、彼女は一人の時間を過ごすことが好きなので、一人でいることの時間が多い。
それでも、家族や友達・恋人との絆は大切にしている。
たわいもない話で盛り上がり、一緒にご飯をおいしく食べる。
たとえ離れていても、自分のことを陰ながら応援してくれたり、こまめに連絡をくれる。
そんな彼ら・彼女らの存在によって、自分は楽しく生活できているという自覚があるのだ。
今年の夏休みには、一人でヨーロッパを旅する予定だ。
彼女にとって、大学生最後の旅行となる。
期間は2週間である。
今回はイギリス、フランス、ドイツ、イタリアの4カ国を回る予定だ。
旅行を楽しむのはもちろんだが、ハンドフルートの魅力を伝えることも目的としている。
その様子を撮影しながら、SNSで発信できるのも楽しみにしている。
今までは友人と一緒に海外旅行をしていたが、一人では今回が初めてだ。
何しろ距離があり、滞在期間も長いからである。
大学に入学して以来、自分でお金を貯めて、国内も海外もいろんな場所を旅行してきた。
ふらっと一人旅することも多かった。
彼女はいつも身軽で、リュック一つで旅行している。
スーツケースを転がした経験もない。
前回、友達と海外旅行した際は、その様子に非常に驚いていた。
今回の旅行もリュック一つの予定である。
最低限のコスメやヘアケア類、衣類、スマホ関連のモノだけを準備し、他は特に大きなモノはない。
宿泊するホテルには、あらゆるアメニティがそろっているからだ。
彼女は、自分にとって必要なモノを見極めている。
もし何かあっても、現地で購入すればいいというラフな気持ちでいるのだ。
海外に行けば、英語の壁がある。
しかし、彼女にはかなりの英語力がある。
留学経験はないが、大学で無料で参加できる国際プログラムに参加している。
全て英語で、様々な国際問題について議論するなどの、実践的な授業がたくさんあるのだ。
先生も英語圏の人が多く、留学生も多い。
高校のときから英語は特に好きで、大学3年生の時まではTOEICの勉強も続けていた。
今ではYouTubeでCNNやBBCニュースを見たり、海外生活の様子を英語で理解して楽しんだりしているくらいである。
彼女は塾にも全く通わずに、全て自分で独学で勉強してきたのだ。
高校でも大学でも図書館で勉強し、わからないことは学校の先生や友達に聞いたり、ネットで調べて解決してきた。
それでも高校でも大学でも成績は優秀だった。
実際に、就活もある程度上手くいき、第二希望の会社ではあるが、内定をもらうことができた。
来年の春から外資系企業に入社することが決定しているのだ。
旅行まであと1か月。
普段通りの生活をしている。
旅行だからといって、特に何か特別な買い物をする必要もない。
絶対に忘れてはいけないのは、スマホとパスポートくらいだ。
母親に関しては、長期の旅行ということもあり、娘のことをかなり心配している。
しかし相反する感情として、いつも堂々と立ち振る舞う娘を見て微笑ましく思う。
関わりが深い人たちには、旅行のことを告げている。
海外に旅立つ前に、ご飯やカフェでたくさんお話をした。
いよいよ、旅行前日だ。
母親は、荷物に関してそんなに少なくて大丈夫なのかと心配していた。
普段よりも若干大きめのリュック一つだけの荷物だ。
しかし、笑顔で大丈夫だと返答した。
母親は、そんな娘を誇らしく思う。
母親として心配性なところはあるが、娘がしっかりしていることは知っている。
今夜は、娘が大好きなオムライスを振舞った。
とてもおいしそうに食べる娘を見て、元気が出てきた。
そして旅行当日を迎えた。
前日に持ち物準備は念入りに行っていたので大丈夫だ。
朝8時に家を出発し、成田空港まで電車で向かった。
成田空港に到着し、チェックインも無事できて余裕をもってロビーで待機していた。
いよいよ出発時刻がやってきた。
不安や寂しい気持ちもあるが、同時にワクワクする気持ちも大きい。
飛行時間は約12時間。
飛行機の中では、映画を観たり、考え事をしながら過ごしていた。
機内食は、チキンライスとハンバーグがメインディッシュで、そのほか野菜やデザートにハーゲンダッツもついていた。
飛行機の中では特に酔うこともなく、快適に過ごすことができた。
そしていよいよイギリスのロンドン・ヒースロー空港に夕方4時頃に到着した。
日本と全く違う空気で、新鮮な気持ちを味わうことで、とてもテンションが上がり、ホテルへと向かって行った。
今回イギリスで訪れた場所は、すべてロンドン市内だった。
観光の目玉はビッグベン、ハリーポッターのスタジオツアー、そしてシャーロックホームズの聖地巡礼である。
ロンドンには4日間滞在し、その後フランス→ドイツ→イタリア
へと移動した。
しかし、今回の目的は、観光地を巡るだけではない。
観光地周辺の人が賑わう場所で、ハンドフルートを演奏した。
その姿に驚く外国人は山ほどいた。
日本での活動と同様の反応である。
吹き続けるたびにますます多くの人が彼女の演奏に夢中になり、拍手が湧き起った。
写真や動画を撮る人たちもたくさんいた。
彼女は英語が話せるため、観光地を回るたびに英語で自己紹介をしながら、演奏活動を続けた。
ホテルでは、欠かさずSNSにその様子を発信することも怠らなかった。
ひたすら観光地を歩き巡り、演奏をし続ける旅になり、毎日疲れていた。
しかし、その活動は彼女にとって非常に有意義だった。
思い出に残る、非常に楽しいツアーだった。
目的地はすべて観光することができ、各地の料理も楽しむことができたので非常に満足のいく旅行である。
最後は、レオナルドダヴィンチ国際空港でお土産を買って、成田空港へと戻った。
帰りの飛行機の中では、映画を観ながら、うとうとしていた。
12時間かけて成田空港に到着した際には、眠気もあったが、同時にテンションが上がった。
日本の空気が懐かしい、日本の空気はやはりいいなと感じる。
家に到着した際は、母親はほっと安心した様子だった。
旅行の写真や動画を見せながら、エピソードをたくさん話した。
その日はあまりに疲れて、半日以上眠っていた。
無事、海外旅行は終了したのだ。
彼女の夢は、ハンドフルートに関わることだが、卒業後に外資系企業に就くことはすでに決まっている。
自分の夢や目標をかなえることはもちろん大事だが、ハンドフルートだけで生計を立てていくのは堅実ではないと十分に理解している。
現に、まだまだ発信力が弱い部分もあり、大きな広がりは見えていない。
将来的にハンドフルートで食べていけるかどうかの保証はないのだ。
それでも、彼女の生き方には全くブレがない。
将来的にハンドフルートが仕事にならなかったとしても、ハンドフルートを多くの人に知ってもらい、感動を伝えていきたいという想いは変わらない。
彼女にとって、社会人になって優先すべきは一家の大黒柱になることである。
彼女には父親がいない。
幼いころに、病気で亡くしているのだ。
それ以来、母親の手一つで育てられてきた。
日中は働きながらも、夕方以降は彼女たちの世話をしてきた。
母親はどんなにつらい状況でも、苦しさを彼女たちに打ち明けることはなかった。
彼女や弟に怒ったり、八つ当たりすることもほとんどなかった。
彼女たちの前では、笑顔でいることがほとんどだ。
彼女は他の家庭と比べて、毎月のお小遣いが少ないこともわかっていた。
家族で外食することもあまりなかった。
その代わりに、家で少し豪華な料理をパーティ気分で楽しむといった工夫をすることが多かった。
お金が少なくても、母親なりに工夫して家族での生活を豊かにしてくれたのだ。
そんな母親をずっと見てきている。
お金がなくても、幸せな状態を作れることを、実は母親から自然と学んでいたものである。
母親は子育てが非常に上手なのは確かだ。
彼女はそれを体験しているので、彼女にとって母親は誇りなのだ。
だからこそ、彼女は学校生活を頑張ることで母親を喜ばせたい、就職したら早く一家の大黒柱になって恩返しをしたいという気持ちが根底にあった。
大学受験においても第一志望の公立大学に無事合格し、大学の費用をかなり抑えることができた。
母親に金銭的な負担をかけるのは大学を最後にしようと、ずっと前から決めていた。
社会人になればハンドフルートに携わる時間は確かに減るが、就職することには非常に前向きだ。
第一希望の会社は叶わなかったが、それでも彼女の志望していた会社だ。
彼女が勤める会社では、英語でのやりとりが多くなる。
なので、会社への就職は非常にワクワクしているのだ。
社会人になれば仕事とハンドフルートの両立を主軸とした生活を送ることになる。
いわば、学校の延長のようなものだ。
学校がいわゆる会社で、部活・サークル活動がハンドフルートにあたる。
そういったイメージのライフスタイルを心がけている。
大学ではすでに単位をすべて満了している。
あとは大学のゼミで卒業論文を書くだけだ。
すでに制作段階である。
テーマは、生き方についてだ。
なぜたくさん稼いで、贅沢な暮らしを向上させることが一つのビジョンになっているのか。
たくさん稼いで、ぜいたくな暮らしぶりをしている人でも、幸せでない人はたくさんいる。
そういった現代の社会構造のあり方についてである。
お金が少なくても、豊かになれる方法はたくさんある。
ハンドフルートを通して、彼女自身が立証済みだ。
本当に好きなことを一つだけ見つけて、夢中になれること。
そして人との絆を大切にできていること。
とてもシンプルだ。
この2つが整っていれば、人は成長し、豊かになれることを伝えていきたい。
彼女は自分の人生に非常に前向きだ。
自分軸があるからこそ、生き方に迷うことは少ない。
彼女にとって、それが夢と人とのつながりだ。
夢を持ち、夢に向かって努力することは生きる上での希望である。
夢を叶えるために、一日を丁寧に過ごしている。
そして、人との絆である。
彼女は決して友達が多いわけではない。
内向的なタイプなので、むしろ少数だ。
だからこそ、一人一人の友達を大切にしている。
そんな友達や家族・彼氏・その他ゆかりのある人との絆は、彼女にとって宝物なのだ。