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4.ふたりの朝


 疲れているときほど眠れないのは、いったい何が原因なのだろうか。

 カーテン越しにしらじらと明けていく空を見上げてため息が出た。


「涼さん、おはよう」


 朝の空気のように澄んで、やわらかな声。

 まだ少し眠いのか、あどけないこどものような笑みを浮かべて寝室のドアから顔をのぞかせた。


「これ、今日中に奥寺さんに出さないといけなくてさ」


 言い訳が口をついて出る。

 開いたままの文書はどれだけ時間が経っても一字だって入力していないのに。


「そうなんだ。大変だね」


 気遣うような視線を感じた。

 振り切るために、集中しているふりをする。


「朝ごはん、食べる?」

「ん」

「ちょっと待ってね」


 彼女は家事の手際が良い。

 初めて料理をふるまわれた時を思い出した。

 とても感動したのは、いつのことだったか。


「おまたせ」


 ほどなくしてカップスープとトーストとコーヒーを載せたトレイを携えてキッチンから現れた。

 細心の注意を払ってローテーブルに並べ、涼介の隣に腰を下ろす。


「ありがとう」


 こまごまと刻まれた数種類の野菜とベーコンがたっぷり入ったミネストローネ。

 萌らしい、気遣いにあふれた朝食。

 二、三口スプーンですくって喉に流し込んだが、ことりとテーブルにおろす。


「・・・涼さん?」


 限界だ。


「どう・・・」


 皆まで言わせず腕を引いて、そのままラグに押し倒す。


「ん・・・」


 唇をふさいで、パジャマの上から身体をまさぐる。


「まって・・・」


 細い指先が抗おうと肩を押してきた。

 時間がないことくらい解っている。

 お互い、身体の奥底に疲れがたまり切っている。

 だから。


「したい」


 低い声で囁くとと、あっけなく陥落した。


「り・・・」


 甘い息を舌でからめとる。

 何も、言わせない。

 何も、聞きたくない。

 気持ちいいことだけ、追おう。


「萌」


 従順な身体。

 俺が作った、俺のためだけの萌。


「好きだよ・・・」


 スープの、味なんてしない。

 食べたくない。

 今は。


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