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perusona  作者: 夕凪彼方
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perusona

まだ春の陽だまりが残る高校2年の夏、日が落ちるのが遅くなった帰りに2ーBと書かれたげた箱を開けて靴を取り出そうとしたとき一通の手紙が宙を舞った。手紙を開けてみるとそこには、放課後屋上に来てくださいと書かれていた。俺は疑い深いので、行くか迷ったが放課後は暇なので行くだけ行ってみることにした。

「ここか……本当いるのか?」

 俺は慎重に扉を開けた。するとそこには……夕日に照らされ、風になびく髪を抑えながら、誰かを待つようにして立っている一人の女の子がいた。俺はその子に近づいた。そして、その子が振り向いた時に思わず息をのんだ。短く切りそろえられたショートカットヘアーに、大きくまん丸な目、身長は150cmにも満たず、顔立ちはまだ幼さを残した美少女。そのすべてに見惚れていた。

「! 来てくれたんですね!」

「あ、ああ……君が手紙を?」

「はい! 三原 夏那(みはらかな)と言います! 先輩に伝えたいことがあって……高宮 (たかみやつるぎ)先輩、一目惚れしました! 好きです! 付き合ってください!」

「へ?」

 驚いた。こんなに可愛い女の子が自分のことを好きと言ってくれてだが……

「ごめん、君とは付き合えない」

「そんな……なんですか?」

「信用できない。何で俺を好きになったのかがわからない……要件がそれだけなら俺はもう帰る」

 そうだ、俺はイケメンではないし、身長も162cmと低い容姿が悪い俺を好きになるはずない。それに下手に信用して昔みたいに傷つくのはもうゴメンだ。

「待ってください! 先輩、私諦めませんからー!」

 そんな声を聞きながら俺は屋上をでる。階段を降り、再びげた箱へ向かいながら考える。

「さすがに、言い過ぎたかな……」

 いや、そんなことはないと自分に言い聞かせながら帰路につく。


次の日俺は普通に登校していた。考えた結果昨日のことは忘れることにした。それでいい。あんな美少女が俺に告白なんて何か裏があるにきまってる。そんなことを考えていたらあっという間に学校についた。いつも通りに靴を履き替えようとした瞬間——

「剣先輩! おはようございます」

 昨日の後輩確か……三原だったかな。が話しかけてきた。

「何の用だ?」

「好きを伝えに来ました!」

「帰ってくれ……告白は断ったはずだが」

 そういうと三原は頬を膨らませて少し怒った。

「言ったじゃないですか、諦めませんって! なので先輩、好きです! 付き合ってください」

「断る」

 その言葉を最後に俺は立ち去った。しかし、俺は三原の恐ろしさをこの時は理解していなかったのかもしれない。

 昼休み。

「剣先輩! 好きです! 付き合ってください!」

「断る」

 放課後。

「剣先輩! 好きです! 付き合ってください!」

「断る」

 それからはまさに地獄だった。

 来る日も来る日も三原は俺の前に現れては告白してくる。もう、いい加減うんざりしてきた。そこで、考えた。どうすれば三原は諦めてくれるかを。

「剣先輩! 好きです! 付き合ってください!」

「断る……そろそろ諦めてくれないか?」

「嫌です! 諦めません」

 手を横にぶんぶんと振りながら拒否してくる。

「わかった、じゃあお前の言うことを一つ聞いてやる……それでどうだ?」

「わかりました! では、付き合ってください!」

 こいつ絶対振られるってわかってやってるだろ。

「……それ以外で」

「え~そうですね……では、私とデートしてください!」

「そんなのでいいのか? ……一回だけだぞ」

「わかってますよー……明日休日ですし、明日にしませんか?」

 そういわれたので明日の予定を確認する。その結果、特に予定は入っていなかったので、三原の提案を了承する。

「わかった、明日だな」

「はい! 明日の十二時に駅前の時計台集合でどうですか?」

「わかった。じゃあ明日な」

「はい! また明日」

 そういってそそくさとその場を去る。


 次の日、俺は待ち合わせ場所に十分前に来ていた。意中の相手ではないが、待たせるのは先輩として気が引けたからだ。時計の針がちょうど十二時を指したときに後ろから声が聞こえた。

「先輩! すみません、少し遅れましたかね?」

「いや、ぴったりだ」

 そういって後ろを振り返る。そこにいたのは、薄く化粧をし、髪を編んでいる三原が立っていた。おしゃれのことはよくわからないが、いつもは身長が低いイメージがあったが、今、目の前の三原は、ハイヒールで身長を盛り、いつもの身長なら似合わないはずのコーデを着こなしている。

「どうですかね……先輩、似合ってますかね?」

「あ、ああ……いいんじゃないか」

「そうですか、良かった……それじゃあ行きましょうか!」

「わかった」

 今回のデートではプランを三原に丸投げしているため、何をするのかを俺は全くわからなかった。

 最初に行ったのは最近できたカフェだった。どうやら、若者に人気らしく結構繁盛していた。

「やっと入れましたね……先輩」

「そうだな……それで、ここは何が人気なんだ?」

「おしゃれなパンケーキが人気らしいですよ先輩!」

 どうやら俺とのデートのために色々リサーチしてくれたようだ。

「どうせならそれを食べるか」

「そうですねっ!」

 それから届いたパンケーキを一緒に食べた。ふわふわな生地に、甘さ控えめなシロップ。それに口直しの紅茶。全て一級品だった。

「次はどこに行くんだ?」

「先輩……楽しんでますね!」

「そんなことはない」

 口では言ってみたものの、実際かなり楽しんでる自分がいた。

「なあ、あの子可愛くね?」

「どれ? ……うわっ! ほんとだチョー可愛いー」

 周囲の人たちが三原を見て、そう話していた。

「隣の奴カレシ?」

「なわけないって、あんな地味な奴」

 ……聞こえてるんだけどな。それにしてもやっぱり周りから見ても可愛いんだな。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花だっけな。まさに相応しい言葉だな。

「おーい……先輩?」

「あ、ああ、どうした?」

考え事をしていたら三原が話しかけてきていた。

「もう、せっかくのデートなんですから集中してください!」

「すまん」

「次は水族館に行きます!」

「わかった」

 それから水族館に向かい、たくさんの魚を見た。中には少し気持ち悪いものもいたが、全体的に可愛くて癒された。その中でもイルカショーは別格だった。可愛いイルカたちが餌を食べるために頑張っているところが愛おしくてたまらなかった。後は……認めたくないが、楽しんでる三原も可愛いと思ってしまった。

 そんな楽しい時間を過ごしていると、あっという間に時間は十七時に迫ろうとしていた。

「先輩、今日は楽しかったです。先輩はどうですか?」

 珍しく真面目な顔で聞いてくる三原になんと答えるのが正解か一瞬考え、本当のことを言うことにした。

「俺も……楽しかったよ、正直こんなに楽しくなるとは思ってなかった。だからありがとう」

「いえいえ、そんな、私のわがままでしたし……先輩、また私とデートしてくれますか?」

「……気が向いたらな」

 そういうと嬉しそうな顔で笑っていた。夕日に照らされたその笑顔は俺の中で輝く一等星に見えた。


 次の日、俺は学校に着くと、いつも通り三原が話しかけてくると思い少し身構えていた。しかし、三原は昼休みになっても、放課後になっても俺の前に現れることはなかった。

 次の日も三原が現れることはなかった。

「こんなに気にするような間柄じゃなかったんだけどな……」

 本当に、俺の中で三原夏那という人物が大きくなってきているらしい。

 それから次の日も三原は現れなかった。流石に気になり三原の教室を覗きに行くことにした。すると、そこにいたのはクラスの男子と仲良さそうに話している三原がいた。耳を傾けると話している内容が少し聞こえてきた。

「そういえば、最近先輩のところ行ってないよな……喧嘩でもした?」

 男がそう尋ねる。

「いやいや、喧嘩なんてしてないよ! ……ただ、今は少し距離を置いているだけ」

「ふーん……まあ、別にいいけど」

 そんな二人の様子を見ていると胸が張り裂けそうな気持ちになった俺は、逃げるようにその場から去った。

 家に帰り、風呂に入りながら考える。あの男子と三原はどういう関係なのか、三原はいつまでたっても振り向かない俺に愛想がついたのかもしれない。など、考えれば考えるだけネガティブな感情が溢れてくる。

「はあ……嫌われたくないな……っ! 俺はなんでこんなこと」

 無意識に口から漏れた言葉に自分でも驚いた。

 このまま風呂に入っていると、駄目な気がしたから風呂を出ることにした。


 次の日、今日もどうせ来ないんだろうと思っていると、げた箱の後ろから元気な声が聞こえてきた。

「先輩! おはようございます!」

「………………」

「ちょっと、なんで無視するんですか!」

 少し怒った様子で、でも少し悲しそうな声で聞いて来た。……ああ、俺はこれを待っていたんだな。

「いや、最近お前が来なかったから幻聴だと思って……それで、なんで最近来なかったんだ?」

「! お、そこ気になりますか……じゃあ、作戦成功だ!」

「作戦?」

 俺は意味不明なことを言われたので、思わず素っ頓狂なリアクションを取ってしまった。

「はい! 『押して駄目なら引いてみろ』作戦です!」

「はあ、くだらない」

 口ではそういうものの、実際は効果てきめんだったためこれ以上は何も言わないようにしよう。

「それで、先輩早速なんですが……いいですか?」

「? いいぞ?」

「それでは……剣先輩! 好きです! 付き合ってください!」

「……断る」

「! 今少し迷いましたね? これは大きな進展です!」

 少しの迷いを三原に気取られてしまった。これ以上はボロが出ると思った俺は颯爽とその場から去った。

昼休み、三原はいつも通り俺のところへと来た。

「先~輩そろそろまたデート行きませんか?」

「ああ、いいぞ」

「へ? ええー!」

 俺の意外な回答に驚いたのか、意外そうな声を出す。

「先輩! 大丈夫ですか? 熱でもあるんですか? 私が看病しましょうか?」

「鬱陶しい……前が楽しかったからまた行ってもいいと思っただけだ」

「えへへ~嬉しいです! ……では、来週の週末でどうですか?」

「構わない、だが、俺から一つ条件がある」

 そう、今回ばかりは条件があった。自分の気持ちを伝えるために。

「今回のデートプランは俺に決めさしてほしい」

「? 別にいいですけど……なんかありました?」

「いや、別に何もないが……そんな気分なだけだ」

「わかりました! では、お願いします!」

「ああ、日程は決まり次第連絡する」

 それだけ言い残し俺は三原から離れた。今回のデートは必ず良いものにしようと思いながら。


 今日はデート当日だ。一応プランは練ってきたけど、三原が満足してくれるか少し不安だ。

「今日は頑張るぞ」

 小さく呟き家を出る。待ち合わせ時間の十分前には着くようにして三原を待つ為に早足で待ち合わせ場所に向かった。

「よし、十分前に着いた」

そう安堵したのも束の間、すぐ横から聞きなじみのある声が聞こえてきた。

「先輩! 早いですね」

 声が聞こえた方に顔を向けるとそこには、おしゃれをした三原が立っていた。前と全く違う服を着てきていたのでびっくりした。前回は可愛い系だったが、今回はお姉さん系のコーデだった。耳には雫のイアリングし、手首にはジャスミンの花のブレスレットを付けていた。

「似合ってるよ……可愛いと……思う」

「っ! 本当ですか1 嬉しいです」

「じゃあ行こうか」

「はい!」

 最初はお腹が空いたのでご飯を食べに行くことにした。前のデートではおしゃれなカフェに行ったが、今回は食べやすくて、種類が豊富なレストランに行くことにした。

「着いたぞ、ここが最初の目的地だ」

「わあ……大きいですね」

「そうだな、メニューも豊富で味も評判がいいんだ」

「そうなんですか! ではお腹が空いたので早速入りましょう」

 そういって、俺たちはレストランの中に入った。店内は洋風な飾り付けがされており、雰囲気もファミレスとは違い落ち着いていた。

「先輩は何食べますか?」

「おれはこの『ラムステーキとニンジンのグラッセ』にしようかな……三原は何にする?」

「悩みますね~……決めました! 私はこの『タラとツナのアクアパッツァ』にします」

「じゃあ、店員を呼ぶぞ?」

「はい! 大丈夫です」

 それから運ばれてきた料理を見て俺たちは絶句した。

「なんだ……これ」

 目の前にあったのは、切られたラム肉の上に、恐らく赤ワインメインのソース、それにステーキペレットまでついてきて見た目は百点だ。そして、三原のアクアパッツァも届いたようだ。

「なんですかこれは……」

 俺と似たような言葉を吐いた三原の方を見てみるとそこには、真ん中に大きなタラが置かれていて、それを囲むように色とりどりの野菜が並べられていた。どちらの料理も食べなくてもわかるほど見た目が良かった。

「ま、まあ、味が大事ですし……いただきます」

 そういってタラを一口サイズに切り、それを口に運ぶ。その瞬間、三原の肩が震えた。その様子からよっぽど美味しいんだなと思い、俺も挨拶をしてラム肉を口に運ぶ。

「うん! うまい」

「本当に……美味しいです! 先輩ここに連れてきてくれてありがとうございます」

「喜んでくれたなら良かった」

 それからしばらくして、俺たちは運ばれてきた料理を完食していた。

「ふう、美味しかったですね!」

「そうだな」

 他愛のないやり取りをしながらお会計を済ませ外に出る。

「それで先輩! 次はどこに行くんですか?」

「次は動物園に行こう」

「いいですね! 私、コアラみたいです!」

 三原のテンションが上がって話が弾む。その会話がとても楽しい。三原といると元気がもらえる。そんなことを考えていたらいつの間にか動物園に着いていた。

「着いたな……ここだ」

「わあ……大きいですね」

「そうだな、最初は何見る?」

「最初はパンダ見たいです!」

 いかにも女の子らしいチョイスに内心可愛いと思いながらも、その意見に同意してパンダを見に行くことにする。

「やっぱりでかいですね」

「……でかいな、久しぶりに見たけどこんなにでかかったか?」

「こんなものじゃないですかね……次は向こうに行きましょう!」

 それから俺たちは動物園を満喫した。楽しみながらも俺は一つの決断をし、タイミングを見計らっていた。そして休憩途中に覚悟を決めて三原に話しかける。

「三原、今いいか?」

「はい? なんですかあらたまって」

「お前の好意にこたえられない理由を話そうと思って……」

「! やっぱり何かあったんですね……聞かせてください」

 とうとう話す時が来てしまった。俺は緊張で手汗がびっしょりになった手を握りしめながら話し始める。

「……俺さ、昔結構友達もいてさ、好きな人もいて充実していたんだよ。そんなある日、友達にそそのかされて好きな子に告白することにしたんだよ」

「……そそのかされた?」

「ああ、俺の好きな人が俺のことを好いてくれている、と言われて。俺はそれにまんまとハマって告白しちゃったんだ……そしたらさ、全部嘘だったんだ。俺の友達も、好きな人もグルで俺のことをハメて、バカにしていたんだ。それ以降俺は、人を信じれなくなり交友関係も断った。そんなことがあったからさ、人を信じれなくなったんだ……だから、お前の気持ちにこたえられないんだ、臆病でゴメン」

 ……俺は確かにこいつが好きだ。だから、理由もなしに告白を断り続ける訳にはいかなかった。

「私は先輩を裏切ったりしませんよ!」

「そんなのわからないだろ」

「そうですか……先輩は私とのデート楽しくなかったですか?」

「っ! 楽しかった」

 そうだ、俺は三原とのデートは楽しい思いでしかなかった。

「そうでしょう……では、失礼して」

 そういうと三原は俺を抱きしめてきた。

「なん、で……こんなことを?」

「先輩、辛かったでしょう……周りを信用できなくなって、そして、そんな自分を嫌いになったりもしたかもしれません。でも、今先輩の前にいるのは昔の人たちではなくて、私です」

 そういって俺の頬に手を当ててくる。

「私は先輩のどんなところも好きです! 嫌いになんてなるはずがありません! みっともなくても、カッコ悪くても、そんなところもひっくるめて先輩が好きなんです。もし、私のことが少しでも好きなら遠慮はしないでください。……昔の話をしてから先輩、今にも泣きそうな顔してます。だから、今はいっぱい泣きましょう、そして、過去のことなんか洗い流してやりましょう! 私は過去ではなく、今の先輩を見ていますから」

 そう、優しく言われると駄目だった。今まで流して来なかった分の涙があふれて止まらなかった。

「おれ、ほんとうに、すきで、……うぐっ、あぁ、うああああ」

 そんな俺のみっともない泣き姿を見ても三原は幻滅しなかった。むしろ、俺を愛おしく撫でてくれた。そして、泣いて、泣いて、ようやく俺は泣き止むことができた。

「ありがとう……三原、何も言わずにそばにいてくれて」

「いえ、大したことはしてないですよ……それよりも、もう大丈夫ですか?」

「ああ、もう、大丈夫だ……それにしてもお前結構母性あるんだな」

「ふっふっふ、そうでしょう、そうでしょう……惚れましたか?」

「ああ……惚れた」

 関り始めたころとは比較にならないくらいに俺は三原夏那という人物に惹かれていた。

「それじゃあ……先輩」

「その先は俺に言わせてくれないか?」

これは男として譲れなかった。

「三原、俺と付き合ってくれ」

 そういって手を伸ばす。

「はいっ! ……て言うと思いました?」

先ほどまで、慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた三原だったが、今は口角が限界まで吊り上がり、目を大きく開いていた。それはまるで悪魔のようだった。

「は?」

「アハ、アハハハハハハハハハハ……あーおもしろ、まさか、先輩みたいな地味でなんのとりえもない人が、可愛くて誰からも好かれる私と付き合えると思いましたか? 身の程を弁えてくださーい(笑)普通に考えてありえないでしょ。それに、あんなありきたりなデートで楽しいって、どんだけ対人関係に飢えてたんだよって笑いを堪えるだけで精一杯でしたよ。」

 え……なんて?……

「あー思い出しただけで面白い! それに私はずっと退屈でしたよ……本当に何が楽しかったんですか? そんなんだから好きな人や友達から裏切られるんですよ。被害者面してたけど、先輩も悪いですからね」

「三、原?」

 目の前の光景が理解できなかった。三原は俺のことが好きで? え、なんだっけ?

「それにしても私、名演技でしたよね? 泣きじゃくってる先輩を抱きしめながら、みっともないところも好きですっ、なんて普通に考えてみっともないところ好きになります? どんな脳みそしてるんですか?」

「なんで、こんなこと……」

「簡単ですよ、面白いからです! 先輩みたいな人を騙して遊ぶのがね」

「そん、な……」

「それじゃ先輩、バイーバイ、もう二度と会うことはないだろうけど! アハハハハハハハハハハ」

 その瞬間俺は絶望して、膝から崩れ落ちた。一体何が起きたのか……三原夏那とは何だったのか、今までのデートは何だったのか、今までの好きは何だったのか。あれが三原夏那の本性なのだとしたら、俺は誰に恋をしたのだろうか。色んな考えが頭の中をぐるぐるさまよっていた。

「うっ」

 突然気持ち悪くなってうつむく。

「大丈夫ですか?」

 通行人が心配そうに声をかけてくれる。……でも、この心配が嘘だったら? わからないわからないわからない。もう何も考えたくない。これから俺は何を信じて生きて行けばいいんだ? 裏切られ、また裏切られ、その繰り返しだ。人間なんて所詮こんなものだ。そう思うと俺は。その通行人を無視して帰路に就く。もう、いい。誰も信じない。だが、三原夏那だけは許さない。絶対に絶望させてやる。すると、路地に一つの雑誌が落ちていた。そこには……カッコよくなって好きな人を振り向かせよう! と書いていた。

「これだ……カッコよくなって、学校中の人と関りを持って、三原を振り向かせて、俺を最大限好きにさせてから振ってやる……あいつには俺が感じた絶望の百倍を感じさせてやる」

 そう心に決めて俺は『三原夏那絶望計画』を立てることにした。



 



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