9 弱者と強者 ★
(――な、なんだ……何が起こった!?)
大童は気がつくと這いつくばっていた。冷たい岩肌の感触。頭を誰かに掴まれ、顔面を地面へと押しつけられている。
口いっぱいに広がる血の味。見れば鼻から大量の血液が流れてた。
「――ぶっ、ご……!?ぐあっ、なんだ、ごりゃあ!!?」
痛む顔。特に鼻が痛い。激痛だった。触れてみると陥没してしまっているようだ。
「ぐっ、ぎぎ、いでえええ!!!ぐぞがああ!!!」
「……あ、しまった。ちょっと力加減間違えちゃった。ごめんね」
「ああっ!?」
背後から聞こえた声は椎名だった。飛び起きる大童。
「でめえ、いっだい何じゃがっだ!?」
大童はまたひとつ違和感に気がつく。今ので前歯も何本か折れ、唇も裂けてしまっているということに。
「何って、体を入れ替えただけだよ……まあ、勢い余って地面に思い切り顔ぶっけちゃったみたいだけど。怪我、痛そうだね……大丈夫?」
大童を心配そうな顔でうかがう椎名。その表情が大童の感情を絶妙に逆なで苛つかせた。
「ああっ!?ふざげんなよ、でめええ!!……っで、あ?お、おまえ、ぞれ」
大童が指を差した。椎名の左腕。さきほど大童が折ったその腕はなぜか治っていた。
ひらひらと左手を振り、平気だよとでもいうように笑う椎名。
「どうかした?」
「……ッ、ッ、!?!?」
混乱しながらも、幾千の戦闘経験により反射的に身構えた。
大童の本能が、椎名に対して危険信号を灯していた。
(何された!?いや、そもそも本当にあいつがしたのか!?あいつは無能で能無し、スキル無しのゼロシーカーだぞ……纏ってる魔力も少ねえ、なのに!くそ、わけがわからねぇ!!と、とにかく……)
大童は背負っていた大剣に手を掛けた。魔力を一気に噴出するように全身へと巡らせる。戦闘態勢になる。
「やめてよ大童くん。元とはいえ、パーティメンバーだった君にそうあからさまに殺気をだされると悲しいんだけど」
「……でめえ、ざげやがっでええッッ!!ごろじでやる、でめえはもう、ひづようない!!」
「……」
自身の身長とほぼ変わらない巨大な大剣。前へと構え、大童は腰を落とした。
剣身に電撃が走る。
大童のスキル【雷電付与 《SR》】によるものだ。
バチバチと激しく光る電流。その付与された電撃は凄まじい破壊力が秘められており、並のシーカーであれば触れただけでも瞬く間に黒焦げになり命を落とす。
(ひひっ、最大出力!!!これでアイツを殺す!!!)
大童は椎名の出方を探る。動きに合わせ必殺の一撃を振り下ろすつもりだった。
「……ッ、はあ、はあ……ふう、は……」
ふいに目が合う二人。
その瞬間、大童は背筋が凍りついた。
椎名の顔に表情はなく無表情、だがその瞳は暗い底しれない闇を宿していた。冷たく、昏い、闇の色。
鋭い瞳でじっと見つめられる大童。
いままで見たことのなかった、椎名の冷たい目。
それが大童を心の底から恐怖させた。
そしてその恐怖が思考を狂わせる。
「う、うわあああーー!!?」
本来、敵に隙が生じ確実に勝てるという状況でなければ攻撃に行かないカウンタータイプの大童。だが、椎名に対しての得体の知れない恐怖心が、彼に無謀ともいえる特攻をさせた。
凄まじいスピードで椎名へと接近する大童。そのまま真上から大剣を振り下ろす。
その刹那、大童の思考が高速で巡った。
――椎名から感じたこの感覚、前にも……。
過る、レートSSSクラスの魔物。
奴らを初めて目の当たりにした時の、絶望感と強烈な死の気配。
(……あれと似て……いや、違う!!)
――ドガアアアン!!!
凄まじい破壊力。
【雷電付与】で強化された大剣に、大童の腕力と体重が乗り振り下ろされた一撃。
それにより、地面が吹き飛びまるで巨大なクレーターのような巨大な穴があいた。
辺りは地震のように揺れ、砕けた地面の岩が周囲に散弾のように飛び散る。
今まで放った中でも最高クラスの超火力。
「――……ッ」
しかし、それは椎名には当たっていなかった。
大童は背後に椎名の気配を感じていた。
まるで何事も無かったかのようにそこに佇んでいる、椎名の気配を。
(……避けたのが、見えなかった……魔力を纏い、身体能力が強化されている俺の目でも捉えられない、スピード……だと)
これまでSSSレートの魔物と戦った回数は十数回。
そのいずれもがパーティで対峙し、パーティでなければ万一にも勝てなかった化物。生き物としての格が違うと、相対する度に大童は思わされた。
だが、そんな大童だが、動きについていけなかったことはなかった。
だからこそいずれのSSSレートにも、今までダメージを与え倒す事ができていた。
(けど、そうだ、こ、こいつは……)
――ポタリ、と頬を汗が垂れ落ちた。
脚が震えだす。
大童は感じていた。
レートSSSクラスの魔物。
それらを遥かに超えた化物の、絶望感と強烈な死の気配を。
(それ以上のッ!!?……なん、なんだこいつはッ!!)
「うわあああーー!!!」
大童は恐怖を打ち払うかのように横薙ぎに大剣を振り抜く。
――ガシッ!!
「ッッ、ッ!!?」
椎名はそれを今度はよけるでもなく、受け止めた。しかも片手で、難なく。
全力のフルスイング。威力もさっきの一撃と遜色はないだろう。
「なんで止めれんだよッ!!?」
「……単純にスピードが遅くて、威力も無いからだよ」
――ビシッ、と大剣の刀身に椎名の指が食い込む。
つまらなそうに椎名はそう吐き捨て、大剣を掴んでない手を振り上げた。そして、手刀で大剣を真っ二つに打ち折った。
「――!!?、は、はあああ!!?」
顎が外れそうな勢いで口を開け驚く大童。
「……こ、この大剣は、特注の超かてえ鉱石から作られて……しかも、俺のスキルで強化して……な、なのに!?」
慌てふためく大童。椎名が呟くように言う。
「……タイマンだと、大童くんは魔物のBレートに毛が生えたくらいかな。せっかく高性能でレアなスキルがありながらこの程度……はあ、つまらないな」
半分に折れた刀身の先をポイっと捨てる椎名。まるで子供が玩具に飽き、興味を失ったかのように項垂れる。
「て、めえ……な、なんつった……!?」
椎名としては別に煽ったつもりはなく、正直な感想を言っただけだった。が、それは大童の逆鱗に触れ感情が激しく波立った。
椎名はそれを見逃さず、今度は、
「大童くん、宝の持ち腐れだね?」
ちゃんと煽ってみせた。
しっかりと意図を込めて、大童を馬鹿にしてみせる。
にやつく椎名のその顔をみた瞬間、条件反射的に頭に血が上る。
今まで格下であった椎名に馬鹿にされた、その事実がこのが圧倒的不利にも関わらず大童の怒りのボルテージを跳ね上げる。
「ざけんな、てめええ、調子のってんじゃねえええ!!!」
大童の全身に電流が流れる。これは大童の最強技であり奥の手だった。直接体に【雷電付与】のスキルをかける。
これにより通常の3倍もの身体能力が向上し、さらに武器無しでの戦闘も可能にする。
電撃を纏う拳の破壊力は、さきほどの大剣による攻撃にも勝るとも劣らない。デメリットは使用後、麻痺して暫く動けなくなる事。
振り上げた拳が椎名に迫る。
だが、彼はやはりよけない。
――パシッ
と大童の拳を難なく受け止めた。そして、
「折るよ?」
「――まっ、」
――バキィイッッ!!!
掴み伸び切った腕を、椎名は真っ直ぐ上へと蹴り抜いた。
大童の太い腕が大きくひん曲がる。
「――ッ、ッ、あ……〜〜〜ッ、ぎゃあああああああ、あああ――」
326層中に響きそうな途轍もない絶叫。折れてしまった腕を抱え、うずくまる大童。
それを見下ろす椎名。
「魔力の扱い方が雑すぎる。動きも単調、直線的すぎて読みやすい。戦う相手としては本当につまらないよ君は。はあ……大童くん、今までなにやってきたの?」
「ひっぎぃ、あ……ぎ、ぎぎ、ぐぅうあ……」
「……ああ、痛みで話しどころじゃないか」
「……ず、ずみばぜん、ゆるじで」
「!」
土下座をする大童。
「はは、何を謝ってるのかな大童くんは」
「い、いままで、のこど……を」
「今までのこと?なにも謝ることなんてないじゃないか。大童くんは間違ってないよ、なにも」
「……」
「えーと、なんだっけ……あ、そうそう、弱肉強食だっけ?うん、本当にその通りだよね。弱者は強者に喰われる、それが自然の摂理。可哀想だけど仕方がないんだよね」
その時、椎名の顔をみた大童は心底恐怖した。
「この場合、僕が強者で大童くんが弱者……」
歪な、悪魔的な笑みを浮かべる椎名のその表情に。
「だから、僕に喰われても仕方がない…でしょ?」
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