6 喰らうのは
スキル名が告げられた後、カードは消え周囲の景色も元に戻った。
「……これが、スキル覚醒……」
体に魔力が漲っているのを感じる。スキルが覚醒する前と後では全く別の体のような感覚。
自分の体を纏う魔力は、薄くぼんやりとした青色だったのが……今は赤黒いオーラになっている。
(……なんか、禍々しいけど……大丈夫なんだよな、これ……)
「勿論、大丈夫ですよ主様」
「……あ、そう。それなら良いんだけど……って、え?」
突然声が聞こえ、そちらを見ると黒猫が座っていた。
「……」
「……」
目が合い固まる一人と一匹。
瞳が紅く毛並みの良い小さな黒猫……だが、途轍もない魔力を内包している事がわかる。
だが、敵意がない。さっきのようなガルヴィーダのような殺気が微塵も感じない。
むしろ、なぜか好意的な何かを感じる。
危険性も無さそうなので、黙っていても仕方ないし僕は猫に問いかけることにした。
「今の、ひょっとして……君?」
「はい、私です主様」
「喋る猫……」
いや、レートの高い魔物の中には言葉を喋るやつもいると本やネットに書いてあった。この魔力量であればなんら不思議なことではないか。
「厳密にいうと私は悪魔です」
「ええっ、悪魔って……あの悪魔族!?」
「はい、主様」
「……さっきからその主様って、もしかして僕のこと?」
「ええ、そうですよ主様」
「……ええ」
「付け加えさせていただきますと、私は主様のスキルの一部でもあります。故に言葉にされずとも主様の御心を理解する事ができるのです」
「スキルの一部……え、スキルの?って、いうか僕の心を読んだ!?」
「はい、主様の意識に接続してますので。不快であれば接続を切りますが」
「いや、別に……というか、それよりも君は僕のスキルの一部って言ってたけど、どういうこと?」
「簡単にいえば、私は【暴食】のスキルを扱うための説明用端末です」
「説明用、端末……」
「はい。主様が顕現させた【暴食】は他のスキルとは違い複雑な面が多々あります。なのでそれを補うために私のような端末が付属しているのです……少し、【暴食】のスキルについてご説明してもよろしいでしょうか」
「……お願いします」
「では、スキル【暴食】についてご説明します。まずこのスキルは3つの能力から構成されています。①【悪食】②【発動】③【供給】」
悪食……発動、供給……?
「①【悪食】というのは相手のスキルを喰らう事をさします。どちらかというと奪い取るというほうがイメージしやすいかもしれません」
「奪い取る?って、え?……スキルを奪えるの?」
「はい。奪い取る事ができます。それを喰らうと表現しております。ただし、相手のスキルを喰らうには条件があります」
「条件って?」
「それは喰らいたいスキルを有している対象に触れてマーキングをすること」
「マーキング……?」
「自分の魔力を付与するのです」
「それだけ?」
「はい。魔力が付与されマーキングされた状態になれば、喰らう事ができます」
……簡単すぎないか?それでスキルを奪えるって。
「そうですね、簡単で強力なスキル。それが【暴食】という能力なので」
あ、心読まれた……恥ずかしい。
「恥ずかしくなどありませんよ。主様に恥ずべきところなどひとつもありません」
う、うーん。
「……えっと、②の【発動】は?」
「その言葉の通りです。喰らったスキルを使用する事ができます。ただし、使えるスキルはスロットにセットされたものだけです」
「スロット?」
「主様の中には7つのスキルスロットがあります。そのスロットにスキルをセットして初めて喰らったスキルが使用できるようになります。そしてもう既にご理解されてると思いますが、スロットが7つなので扱えるスキルは最大7つです」
「7つのスロットが埋まったら、もうスキルは喰らえない?」
「いえ、スロットにセットされたスキルを破棄し空きを作ることで新たにスキルセットが可能になります」
「なるほど……」
……あれ……ってか、まてよ?
もしかして、これを使えば……。
「はい、あの裏切者共から【悪食】を使いスキルを奪い取れます」
「……奪われたら、その人はどうなるの?」
「スキルが使用できなくなります。そして、スキル覚醒に伴いかかっていた身体強化も解かれ、著しく魔力が低下します」
「?、なにそれ」
「スキルには強大な力が秘められています。なので、スキル覚醒の際にはそれに耐うる体へと肉体が作り変えられるのです。要するに魔力が増え肉体が適応し、体が強靭になります」
「肉体が作り変えられる……もしかして、僕の肩の怪我が治っているのも」
スキルを得た後、ガルヴィーダに噛みつかれた跡も、爪で裂かれた形跡も無くなっていた理由はそれか。
「はい、肉体が作り変えられた影響ですね」
……これまで、疑問だった。なぜ同じ魔力持ちのシーカーでありながら彼らと違い僕は魔力も少なく肉体強度が弱かったのか。
弱い魔物と戦った際に受けたかすり傷すらも時として致命傷になり、魔力もすぐに尽き疲労困憊で倒れることもあった。
(……そうか、そうだったんだ……)
スキルには、それ自体に魔力増加や肉体強化のバフがある。だからスキルを得られた奴と持ってない者には天と地の差が生まれていたんだ。
これは、スキルを得られるのが普通であるからこそ、知られてない事実かもな……。
「……③の【供給】っていうのは?」
「はい。それを説明するまえに、ひとつ①についてももう少し説明させていただいてもよろしいでしょうか」
「うん」
「①【悪食】はスキルを喰らう能力だと言いました。しかし、その能力はそれだけではありません」
「それだけじゃない?」
「スキルを喰らう能力には魔力も同時に奪い取るという追加効果も発生します」
「スキルを奪うと魔力も一緒に奪い取れるってこと?」
「そうです。対象が保有する7割程度の魔力量ですが、奪い取れます」
「いや……7割程度って、十分すごいっていうか……それだけでもSR級のスキルだと思うんだけど……」
「はい、そうですね」
「えっと、ごめん話を逸らしちゃって……それで?」
「はい。その奪いとった魔力は私に蓄積されます。その貯め込んだ魔力を引き出し使用することができる能力、それが③の【供給】です」
「なるほど……【悪食】でスキルを奪い、【発動】でスキルを使用、【供給】で魔力を引き出す」
これはかなりヤバイスキルだな。この3つの能力だけでも相当な力をもつ上に、相手のスキルを奪い取る事ができるなんて。
スキルは戦闘の要、これが無ければ魔力のみで戦うしかなくなる。しかもその魔力すら奪えるなんて……敵を無力化しつつこちらは強くなれる。
「ん?そういえば、これって魔物に使うとどうなるの?」
「魔物に使用した場合、魔力の7割とその魔物の特徴的能力が奪えます。たとえば、先ほどのガルヴィードだと……」
「待って」
――グルルル、と唸り声が聞こえてきた。
洞穴の入り口付近にガルヴィーダの姿が。さっきのスキル付与に驚き逃げた個体だろう。
それも1匹じゃない。今度は数十の群れを引き連れ現れた。
「……僕のことを獲物だと完全に認識したか」
スキル付与の光を警戒しているのか、いきなり襲いかかってくることはなかった。ゆっくりと僕を取り囲み逃げられないように位置取りをし始めた。
(……不思議だ)
なぜか怖くない。
あいつらに暴行を受けたとき、ガルヴィーダに襲われた時、恐怖で頭がおかしくなりそうだったのに、今は全然それがない。
いや、もしかしたら……おかしくなってしまったのかもな。
僕はもう狂ってしまったのかもしれない。
――死角からガルヴィーダが飛びかかってきた。
……この世は弱肉強食、弱者は強者に喰われる。
椎名は反射的にガルヴィーダを躱す。そしてそのまま腹を蹴り上げた。魔力で強化したその蹴りの威力は凄まじく、簡単にガルヴィーダの骨を砕く。
ベキベキ、と洞窟内に響く粉砕音。
ガルヴィーダは宙を舞い、地面へと叩きつけられた。
内蔵が潰れたのか、口から大量の血を吐き出し痙攣している。
「……すごい……」
一撃、たったの一発でSレートの魔物を瀕死にしてしまった。
(……僕は、強い……)
――全身から立ち昇る、赤黒い禍々しいオーラ。
……僕は、スキル【暴食】を手にし強くなった。
弱者は強者に喰われる、弱肉強食が全てだというのなら――
「……次は、僕が喰らう番だよね?」
【重要】
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