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33 繋がり


……獅神。ダンジョンに侵入してきたのは察知していたけど、こんなに早くここまでたどり着くなんて。


「……」


「聞いてるのか?ここで何をしていた?」


彼は僕と面識がある。声を出すのはマズイ……まあ、獅神が僕の事を覚えているかは怪しいところだけど。


……逃げるしか無いな。


獅神のスキルは確か結界系のSSSR。前に明代くんが酔って教えてくれたから知ってる。


(多分、もう周囲に見えない結界が張られてるはず)


獅神の結界には二種類ある。金色のダイヤモンドのような個を護る小結界と、広範囲を護る巨大な結界。


(この周囲を漂う魔力の微細な流れの変化……見えない結界は間違いなくある)


魔力を眼に集中してよく見なければわからないくらいの薄い魔力の膜。だが、凝縮された魔力によりSSSレートの魔物ですら破壊できないほど強固。


結界には術式が組み込まれていて、獅神の意思で起動する。見たところ雷の魔法かな……。



――魔力が、揺らいだ。



バチィイイッ――!!


「!?」


飛んできた雷撃を紙一重で躱す椎名。


それを目の当たりにした、獅神の眼の色が変わる。


獅神は日々退屈と戦っていた。鬱屈とした毎日。スポーツ、ゲーム、ネット、あらゆる娯楽を試しても人並み以上に出来る彼は人並みには楽しむ事ができなかった。


そんなある日、授かったスキル【結界陣 《SSSR》】


あらたな娯楽に挑戦する権利を得た彼は、ダンジョンへ。


命を賭けたその遊びは、これまでに味わったことの無いスリルと快感を齎し、どんどんとのめり込む。


だが、それもつかの間だった。極めた【結界陣】は強すぎた。


敵を一瞬で葬る圧倒的な破壊力。いかなる攻撃をも防ぐ強固な盾。


全力で戦えるのはダンジョンの魔物だけ。パーティ戦を前提とされた退屈な戦いは獅神から楽しみを奪い、与えられた《SSSR》スキルというチケットは皮肉にもまた退屈な日々へと逆戻りさせた。


誰か、全力で殺りあえる奴は……。


彷徨う亡霊のように、あるはずの無い相手を探していた。


奥底から沸き立つ飢えが、未練がましく。


そして、


(……俺の雷撃を、避けた)


あくまで動きを止め捕らえる為の軽い電撃。だが、そのスピードは例えS級シーカーであろうと到底避けられるものでは無かった。


(……攻撃の直前、雷撃を通す為にあらかじめ引かれる魔力の軌道線を読んでいなければ……人間の反応速度では避けることはできない。つまり、こいつは俺の魔力が視えている……!)


極限まで凝縮した獅神の魔力は、手練のシーカーでも判別不可能な程見えにくい。


故に、魔力線引きそこへ雷を伝わせ放つ魔法は予備動作無し、ノーモーションの回避不可、必中必殺の一撃に周りからは見えていた。


だが、椎名は、


(……成る程、そういう攻撃の仕組みか……なら他にも応用が利くな――)


常日頃から磨いていた魔力コントロールにより、敵と相対する時に魔力の流れを視る癖。


(この手の手法で攻撃する魔物とも戦ったことがある……うん、大丈夫だ)


【深淵のアビス】での数え切れない実戦経験により、獅神のスキルに対抗することができた。


「はは、はは……!!」


「……?」


突然笑い出す獅神にギョッとする椎名。


(……な、なんだ?)


「今の雷撃、よく避けられたな?すげえよ、オマエ。これを初見で食らわなかったのは人間ではオマエが初だぜ」


「……」


獅神の興味が完全に椎名へと向く。


「――そんじゃあ、コレはどうだ……!?」



バチチチッ――!!!



――と、その時。


「ちょ、ちょっと獅神さん!!」


明代が割って入った。


「やめてください!その魔力量の雷撃は死にますよ!!」


「死なねえよコイツは!!邪魔だ……」


視線を外したその刹那、そこに椎名の姿はもうなかった。


「なに!?」


「え……あれ、あの黒尽くめの……き、消えた!?」


(……どうやって消えた!?スキルか魔法なら魔力の揺らぎで察知できるはず……)


辺りを見渡す獅神と明代。僅かな魔力の残滓すら、何処にも無かった。


(……移動したのではなく、消えた……瞬間移動系、時空間干渉系……いや、だが、俺の雷撃を避けたあの動体視力、魔力観測力は、かなりの戦闘経験を経た近接戦闘系じゃなければ……)


「……く、くく」


「え……し、獅神さん?」


――くく、はは……美味そうな獲物を見つけたぜ……。


自分と対等に殺し合えそうな相手の出現。


獅神は、これまでの生きてきた中でも、最高といえる喜びと興奮を覚えた。


――アイツを見つけ出して、必ずこの俺が喰らう。



――



「……っと」


一瞬で部屋の中へ戻る椎名。そこには蛞蝓が一匹。


緊急避難用に部屋に置いておいた、【不死の女王】で生み出したヴェルモリウスである。


【黒い運命の糸】をこの蛞蝓につけ、影を移動してきた。


(……糸は3本しか出せない……これで上限だけど、杏樹につけてるのは外せないからな)


獅神にもつけておきたいと一瞬思ったけど……解除しなくてよかった。緊急避難用が無かったら逃げるのかなり面倒なことになっていたからな。


そもそも獅神の影を踏むのも難易度が高すぎる。ていうかそれどころか、あれじゃ近づくこともできないよな。


(……結界を展開するスピードが尋常じゃなく速いし。魔力操作の廉度が神がかってる……)


布団へ抱えていたリリィを寝かせる。


腰のポシェットから魔石を取り出す。


蛇竜呪鬼(ドラヴァラーダ)の彼岸花の魔力が収まっている魔石。


今、リリィの能力は機能を停止している。その為、影のアイテムストレージは使えない。


……リリィを抱え両手が塞がったまま、魔石を守りながら獅神から逃げ切るのはかなり難しかっただろうな。


(明代くんが気をそらしてくれて良かった……なんか、いつも彼には助けられてる気がする)


「……とにかく、妹の眠りの原因である呪が特定できた」


かなりの豪運だ。まさかこんなタイミングでその大元である魔物と出会えるだなんて。


そういう意味では、彼らの襲撃に僕は感謝すらしている。


(……杏樹に連絡しておくか。あ、いや、その前に小金くん達のところへ行ったほうがいいか)



――



対魔物捜査科、取調室。


「……なるほど、君等は3人パーティでダンジョンで炭鉱作業をしていたと」


「はい……あ、いえ、4人です」


「4人?ん……あと1人いるのかい?」


刑事が小金へと聞き直す。


「はい……あ、え!?現場に居なかったですか!?『氷龍の刃』の椎名さんなんですけど!」


「え、あー!あの『無能力探索者ゼロシーカー』の!いやあ、報告には無かったけども……」


「……も、もしかして、まだダンジョンの中に……?捜索してください!」


「いやあ、けどなあ……ダンジョン内にも誰も居なかったって報告にあるし。ですよねえ、A級シーカー殿?」


刑事が後の立会人に声を掛ける。


「……あのダンジョンに椎名くんがいたって?」


明代 凛がそう小金に聞き返した。



【重要】

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