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31 覚悟



(…………け、けど、つ、強さと勝ち負けは別だ……)


ロイは脚の揺らぎが収まったのを確認。一方ずつ椎名へと近づいていく。


――あらゆる勝負事において、絶対的な強者は存在する。が、しかし……絶対的に勝てる者は存在しない。


相性、運、知略、様々な要因と原因が複雑に絡み合った果てに勝負が決まる。


(……敵の能力の、ぶ、分析……相性……撤退するかを決めるの、は、そ、それからだ……)



椎名はしゃがみ込み、リリィの頬を撫でた。


「……ありがとう。皆、一層の扉まで連れていけたよ」


呼びかけてもリリィは目を覚まさない。


「…………そ、そのこ、は……もう、目を覚まさない……よ……」


ロイはリリィが欲しかった。そして、目の前にあらわれたこのSSSレート相当のシーカーも。ロイ達はある計画の元、戦力になる、または戦力になり得そうなシーカーを集めていた。


(……か、彼が……いれば、もう……集めなくても、い、いいかも……)


そう思わされる程の力をロイは椎名に感じていた。


――ズズ、ズ


ロイは背後に【蛇竜呪鬼(ドラヴァラーダ)】を出現させた。


(……ほ、捕獲……してみせる……)


「!」


ふと椎名に影がかかり、上空を見上げた。底には天高くから飛びかかろうとしているエビルオークが。


避けようとする椎名。だが、左右からもエビルオークが1体ずつ迫ってきていた。手には鎖、檻、上のは大槌。


――ドオオンン!!


振り下ろされた大槌により地面が吹き飛ぶ。瞬時に飛び上がり大槌を躱した椎名。


派手に舞う土埃の中から、3体のエビルオークがあらわれる。一番早く椎名の元へ到達した大槌のエビルオーク。空中にいる椎名めがけ、その凶器を振り抜いた。


と、思いきや、大槌があたらない。エビルオークが持っていたのはただの棒だった。先についているはずの大槌が、いつのまにか切られ消失していた。


「――!!?」


椎名はエビルオークへ向かって飛んだあと、躱すと同時にダガーで斬りつけていた。そしてそれは、


――ズルッ


大槌のエビルオークの首がズレ落ちた。


武器を破壊すると同時に既に首を落とし処理していたのだ。


それを目の当たりにした他2匹のエビルオークは、口をあけ咆哮をうとうとする。


エビルオークが厄介なのは身をすくませる咆哮。なので、いつも椎名はパーティ戦では霧状の麻痺毒の込められた魔石を投げて吸引させることでそれを防いでいた。


安物の麻痺なため、声を出づらくする程度の麻痺効果。決して敵の動きを阻害できるレベルではなかったが、咆哮を止めるにはそれで十分だった。


檜室と姫霧がそれに対応できなかったのはそのためである。ただ、椎名は戦闘開始時には必ず相対する魔物の特徴と対処法をメンバーに伝えてはいた。


『咆哮?はは、心配性だな……そんなもの使わせるまもなく俺達なら倒せる』


と、そんな調子で彼らは聞く耳を持たなかった。


――ドドッ


エビルオークが口を開く瞬間を椎名は狙っていた。口めがけ投げ入れた麻痺毒の魔石。これはいつも使っていた霧状の麻痺魔石。


衝撃で割れ、口から麻痺煙が噴き出す。


「ぐっ、ごお……が」「ごふっ、ぐる」


咆哮が放てず慌て混乱するエビルオーク。


(……す、すごい……彼、かなり……た、戦い慣れている……!!)


ロイの作戦はエビルオーク、ロイ、SSSレート蛇竜呪鬼(ドラヴァラーダ)へ注意力を分散させ、散漫させること。


そして意識外から咆哮を打ち、椎名を行動不能にし、落下した先に植えてある彼岸花の花粉で、リリィと同じ様に眠らせようと目論んでいた。


(……作戦は、し、失敗……だけど、花はもう既に咲いた……そのまま落下してくれば……彼は、ね、眠る……!)


エビルオークをコントロールし、椎名の動きを止めようとするロイ。


1体のエビルオークには椎名を拘束させようと鎖を振らせ、もう1体には持っていた檻を足場にさらなる跳躍で椎名へ迫らせる。


鎖を難なく躱す椎名。接近してきたエビルオークが椎名へと手を伸ばす


――ヒュパパッ……!!


……が、ダガーで両腕を切り刻まれ、首を狩られる。


次に、鎖のオークにダガーを投擲。凄まじいスピードで放たれたダガーは、額にあたり深く突き刺さった。


椎名は両腕と首の無くなった死体を足場に蹴りつけ、鎖のエビルオークへ跳躍。ダガーを回収と同時に首と両腕を斬り落とした。


(……は、な!!?)


椎名の途轍もない速度とその異常な動きに目を剥き固まるロイ。


――ダンッ、


鎖のエビルオークの体を蹴りつけロイへとまた跳躍した。


「……!!?」


――ギィンンッ!!


ロイは蛇竜呪鬼(ドラヴァラーダ)をコントロールし、尻尾で椎名の攻撃を弾く。


(……くそ、彼岸花が……せっかく、咲かせたのに、……)


そこでロイがふと気がつく。


(……こ、こいつの動き、妙じゃないか……?)


エビルオークを処理した流れでこちらへの攻撃に転じるのは理解できる……が、側にはSSSレートの魔物がいる。普通は近づいてこない、どんなS級シーカーでも単独で戦えるわけがないからだ。


更にいえば、彼岸花の能力。永遠の眠を与えるその花粉は勿論、蛇竜呪鬼(ドラヴァラーダ)には効かないがロイには効く。


その為、ロイは安置である自分の領域へと相手を近づけさせない為、意図的に蛇竜呪鬼(ドラヴァラーダ)を側に置いていた。


「……お、おまえ……もしかして、わかって……」


「……」


くるくるとダガーを手で回す椎名。


椎名はリリィに【運命の黒い糸】を使用している。そのため、リリィの状態異常は椎名へと伝わり花粉での眠りは手の施しようが無いことを自身の感覚として体感していた。


なのでリリィを救いに出ていっても意味がない事を理解し、本体であるロイの情報収集に頭を切り替えた。リリィを助けるにはロイを倒さなければならないから。


そこから感覚共有による情報収集を始めた。ロイがリリィへと近づいてきたとき、彼岸花が消えたのを目撃。そして戦闘中、視界の端でとらえたロイの周囲に彼岸花が咲いていなかった事と、花を消してから近づいてきたことを照合し、ロイの側が安全地帯である可能性を導いた。


(……まあ、土埃と魔力に紛れ込ませてようが、彼岸花の種が飛ばされれば見逃さないけど)


椎名はこれまでその観察眼でパーティを守ってきた。檜室らが初見の魔物にも対応できていたのは、彼の微細な魔力流動をも見逃さない観察眼とそこから導きだされた対処法のお陰……つまり、殆どが椎名のサポートがあったからだった。


「……ぐっ、く……」


守護するように、蛇竜呪鬼の体がロイを中心にとぐろを巻く。その時、魔力性質が変化したのを椎名は見逃さない。


蛇竜呪鬼の周囲の地中から無数の角のような物が突き出してきた。


ズガガ、ガガガガガッッ――!!


跳躍しそれを躱す椎名。魔力性質を瞬時に分析する。


(……脈打つような魔力の流れ方、赤紫の色味と、ほのかに香る甘い匂い……邪竜特有の猛毒液がこの角から分泌されている)


ダガー付のワイヤーをロイへと放つ。蛇竜呪鬼がそれを尾で弾く。


「――!!」


弾いた先、ダガーに刺さっていた物を確認したロイは青ざめた。


それは魔石、そしてその魔石から無数に生えていた彼岸花の花々。


(……な、んで!?……この、魔力……これは、本当に……!!蛇竜呪鬼の、花!!)


「――隙だらけ、だぞ」


「なっ」


いつの間にかロイの背後に現れた椎名。蛇竜呪鬼とロイに触れ魔力を吸い上げる。


「――ぐっ、あ!?」


無数の毒角が魔力不足により消失、ロイは魔力不足により立てなくなり倒れた。


(……蛇竜呪鬼、【暴食】で能力を奪おうとしたのに……弾かれた?……まあ、いい。魔力は喰えた)


椎名は動けないロイの腕を後に回し、背にのしかかる。ミシミシと鳴るロイの腕の関節。


「さて、話をしようか……なぜシーカーを狙う?」


「…………そ、その……まえに、ひとつ……いい、……かな……」


時間稼ぎを狙うロイ。だが、


「なぜシーカーを狙う?」


「……ッ、ッ……!!」


圧倒的な殺気を以ってそれにこたえる椎名。こちらの質問にのみ答えろ、そういう意味を込められたオーラがロイを包む。


(……けど、な、なぜ……こいつは、蛇竜呪鬼を、オートではなく僕が操作……しているのを……)


蛇竜呪鬼をロイが操作していることを椎名が確信した理由。


それは、ここまでの戦いで蛇竜呪鬼をオートで戦わせられるような個体ではないのがわかったから。


毒角や彼岸花など、ロイ自身が巻き込まれかねない広範囲能力をもつ蛇竜呪鬼はどうみてもオート向きではない。


そして魔物を懐かせるテイマースキルの可能性。自分を巻き込むような攻撃をさせず蛇竜呪鬼に戦わせているパターンもあったが、テイマースキルは自身よりも魔力量の低い魔物しか適応しない為、人の保有できる魔力を遥かに凌駕するSSSレートをテイムするのは不可能だと判断。


故に、蛇竜呪鬼へ接近してもロイが反応し命令を下さない限り安全だと考え、接近し魔力を奪っての無力化。


使役者のロイの魔力を奪えば魔力で操っていたであろう蛇竜呪鬼は動かせない。さらに蛇竜呪鬼自体の魔力も奪い行動不能にするダメ押し。


(……そ、それと……あれ、は)


ダガーの先にあった魔石から生えた彼岸花。目の前に転がるそれを目の当たりにし、ロイは驚愕する。


(…………な、蛞蝓の、魔物……あれは、ヴェルモリウス……の、幼体……!?)


ヴェルモリウスは魔力を吸い上げ、放出することができる。エビルオーク戦で椎名はヴェルモリウスを1体地面へと落としていた。


そのヴェルモリウスに彼岸花の魔力を蓄積。自分の元に出現させた別ヴェルモリウスへ魔力を送らせ、その個体をワイヤー付きダガーの先に括り付けておいた魔石へ込める。


ロイへとワイヤー付きダガーを投擲。弾かれた衝撃でヴェルモリウスが出現、吸い込んでいた魔力を放出。花状の魔力の塊である彼岸花が出現。


ただし、魔力性質は同じでも花粉を飛ばす能力は蛇竜呪鬼の力なのでできない。ただ、彼岸花形の魔力を再現するだけである。


ロイの視線の先で、体中に彼岸花を咲かせた蛞蝓ヴェルモリウスが、すやすやと眠りに落ちていた。



(…………この僅かな、戦闘で、こんな……)



ロイは、椎名との圧倒的な戦闘経験の差を痛感する。


――パキッ


「……ぎっ、がああっ!?」


ロイの小指が折れた。


「ほら、早く答えて……君は誰なの?」


冷徹な声色。椎名はロイを拷問し始めた。目的の為には手段を選ばず、迷ってはいけない、奪う覚悟は【深淵のアビス】で地獄を見た時に決まっていた。だから壊すことに躊躇はない。


(……ダンジョンで杏樹にやられた時、身を以って体感したけど【生命の樹枝】があれば永遠に拷問ができるんだよな……本当に便利なスキルだ)


壊して、治して、壊して、治す……情報を吐くまで延々と続ける。


先に攻撃してきたのは君なんだ……なら、やられる覚悟もできてるはずだよね?


――ベキィッ


「…………ぃ、ぎっ……あ、……あぁあーーッ!!!」





【重要】

先が気になる、もっと読みたい!と思っていただけたら、ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★評価、をよろしくお願いします。執筆へのモチベが上がります。

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