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3 弱肉強食


……追放、って?


「……あ、その顔ってあれかな?理解できてないんじゃなくて、絶望の表情ってやつ?であれば良し!非常に良いね!」


檜室くんのセリフに爆笑する大童くんと姫霧さん。大童くんは腹を抱え、姫霧さんは身を捩る。


……いや、意味がわからない。


なぜ、どうして……?


(……あ)


そうか、これは……冗談だよね?


「……は、はは……やめてよ、檜室くん……こんな冗談って」


「冗談?」


凍りつくような冷たい目。それで僕は理解した。これが冗談なんかではないということ。


「……ほーんと、オマエはバカだなぁ」


今まで冷たいと思ったことは何度かあった。けど、今の檜室くんは、それらをこえて冷徹に感じた。


「まあ、バカは好きだけどさ。扱いやすくてコスパ良いし、ちょっと優しくすればなんでもするからな。それにオマエみたいに無駄に数字を持ったバカはより旨味があって良い……まあ難点は頭の悪さにムカつくストレスに耐えなきゃいけないってところだな」


「うんうん、頑張ってたよね檜室くん。イライラしっぱなしで可哀想だったぁ……ほら、雑用。謝んな?今までごめんなさいーってさぁ」


姫霧さんはそう言って髪を鷲掴みにし、俯いた僕の顔を上げさせた。


「これが最期になるんだから、皆にちゃんとごめんなさいしなね?」


「……さ、さいご?」


大童くんが「ちっ」と舌打ちし、


「はあ、だから言ってんだろーが?オマエはここで追放、置いてくってよ!だから、最期!てめえはここで死ぬんだっつーの」


怒鳴るようにそう言った。


……あ、ああ……。


いや、まって!し、死ぬ!?


僕、ここで死ぬ!?


大童くんに死ぬと言われ、自分の置かれた状況をはっきりと理解した。こみ上げてくる恐怖が心拍数をあげ、吐き気になる。


「……い、いやだ……そんなの、いやだ、死にたくない!」


「あはっ、あはは、いーい顔!ゾクゾクする!ふふ、はは」


顔を赤らめ興奮する姫霧さん。唇を舐め見せたその歪な笑い顔に背筋が凍る。


「ほらほら、命乞いしてごらん?必死さがたりないよ〜?雑用ちゃんっ」


「はは、そーだぜ?てめては必死さがたりねえ!だからここでこんな目にあってんだよ!無能ヤローが!」


「……お、お願いします、お願いします、殺さないでくださ……」


――ゴッ、と衝撃が走り視界が揺れた。


「――ッ、あ……ぅ?」


ポタポタと膝に落ちる血液。流れ落ちたそれが鼻血だと理解するのに数秒かかり、殴られたのだと追って理解した。


「だから、必死さが足んねえよ」


大童くんの低い声が心を圧し潰す。臓物が締め付けられるような怖さが体をぶるぶると震わせる。


「おら、しっかりお願いしろや」


「……おね、が……」


それから僕は大童くんと姫霧さんに暴行を受け続けた。

鼻が折れ、唇は切れ、額が割れ、血飛沫が僕を縛る氷を彩った。


「待って」


そこで、救いの手が伸びた。


「……ぁ……ん、じゅ……」


遠巻きにみていた杏樹が彼らの凶行を止めてくれたのだ。彼女は僕の元へと歩み寄り、「ヒール」を唱えた。


僕の傷が全て塞がり、朧げだった意識も戻って来る。


……なぜ、ここまで止めてくれなかったのか。


その思いが無いと言えば嘘になる。けれど、彼女もこのパーティで難しい立場にいる。


下手に止めて自分に飛び火する危険性を恐れたのだろう。逆の立場で考えれば僕もきっとそうしたと思う。それを非難することはできなかった。


助けてくれたという事実。それだけで良い。命が助かったこの結果だけで。


「……あ、ありがとう、杏樹」


「ううん、いいの」


杏樹は僕のことをなぜか慕ってくれていた。このギルドにも僕のことを知り、それをきっかけに入ってきたらしい。


普段から僕に気を遣ってくれていた杏樹。雑用の手伝いをしてくれたり、お金が無くて昼食を抜いている僕に、お弁当を作ってきてくれたり良くしてくれていた。


たまに彼女の誘いで二人で特訓なんかして……基本的に無表情の彼女が微笑むと、普段のパーティ内での苦しみも薄れていくのを感じていた。このギルドでやってこれたのは彼女がいたことも大きい。


こうしていざという時にかばい助けてくれる。


『……杏樹って、呼んで?』


彼女がいたからここまで、やれてこれた。


僕の頬を撫で微笑む杏樹。彼女はくるりと僕に背を向け、三人に言った。


「……さあ、サンドバッグが治りましたよ。続けてください♡」



……あ……。



…………え……?



「うん、そう簡単に壊しちゃつまらない。いつもありがとな、杏樹」


檜室が杏樹の事を下の名前で呼んだ。今まで一度もそうは呼んでなかったはずなのに。違和感と気持ち悪さが、喉奥からこみあげ吐き出してしまう。


「……うっ、おええ、あ」


「う、汚っ……」


飛び退く姫霧。


「あらあらあら、どーしたの冥くん?ご気分が優れませんか?」


いつものように優しい口調。だがいつもよりも饒舌でどこか嬉しそうな声色。


「ダメですよ?これからもっともーっと、あなたはひどい目にあうんです!満足するまで終わらせませんからね♡」


「……なんで……」


「なんで?なんでとは?」


「……どうして、僕に優しくした……」


「ああ、そういう。私ね、あなたのこと好きなんです。とってもとーっても大好き♡」


「……」


「惨めで滑稽で、騙されてることもわからず尻尾を振り盛る小動物のようなあなたが、私は大好きだったんですよう♡」


「……」


「そして、私はそんな大切なものを壊すことに快感を覚えるんです。自分が丹精込めてお世話した、大切な生き物を苦しめいたぶり、壊す……これが最高に興奮するし気持ちいい♡」


「……ふざけ、な……」


「ああ、いい!いいですね!その愛情が憎悪に変わっていく瞳の色合い!!素敵、素敵よ冥くん!!」


なでなでと頭を撫でる。僕はそれに抵抗して頭を振った……が、後ろから大童が首を掴み動けなく固定する。


「可愛い♡あー、可愛い♡可愛いいい♡」


「……ころして、やる……」


「無理無理、そんなの無理ですってば!自分が誰か殴られすぎて忘れちゃいました?無能力者、無能、ゼロシーカーって呼ばれたゴミですよ?例えここから逃げ延びたとして、私たちを殺せるわけないじゃないですかぁ♡やだおバカさんで可愛い♡」


「はあ……やれやれ、体の傷は治せてもバカさ加減は治せないみたいだな」


首をよこにふる檜室。


「これはいくらS級の私でも治せませんよ!バカは死ななきゃ治らないっていうのは真理です。まあバカはバカだから死ぬし死ぬしかないのがホントのところですが……この点においてはバカである冥くんの勝利です。私、悔しいっ、ふええ」


鳴き真似をする杏樹。それをみた大童が首を絞め上げてくる。


「てめえ、杏樹を泣かせんじゃねぇよ!!」


「……ぐっ、が……」


「なーんて、嘘ですよぅ雷豪くん♡」


「あ、嘘かぁ〜あはは」


……あぁ……。


ふと気がつくと宙に浮く撮影用ドローン。


「ここからが本番だ。思う存分、泣き叫んで皆を楽しませてくれ」


檜室がにこりと笑った。それは最初にパーティに入ってくれと言ったあの時の笑顔と同じ顔だった。


「……これだけ、聞かせて欲しい」


「ん?いいよ、冥土の土産だ。なんだい?」


「……僕が、ここで死ぬのは……雑用としても使えなかったから……なのか」


彼は即答する。


「あー……まあ正直なところ、君は雑用はちゃんとやっていたよ。実際すごく気が利いたしとても助かっていた」


「……なら……」


「けどそんな奴は他にも居るからね。君の唯一の利点は数字を持っていたところだけだったんだ。要するに客寄せパンダ。でも、もう君じゃ飽きられて再生回数を稼げなくなってきてしまった……だから、他のメンバーを入れたほうがそれ自体がネタになるし数字にもなるだろ?いいタイミングだと思ってさ……ま、簡単に言えば君はオワコンってことだよ」


うんうん、と自分の言葉に頷く檜室。


「ん?……あ、ごめん。でも……そうか、まだ君はオワコンではなかったな」


にこりと嗤う。


「君がダンジョンで死ぬことでまだ少し数字が稼げる。更にそこからの別企画、亡き仲間の為に奮起するギルド『氷龍の刃』!敵討ちの為のダンジョンクリア!感動的ストーリー!って感じのコンテンツも考えてあるから、それで数字を稼ぎ終わったら君はやっとオワコン認定かな?まあどの道君はここで死ぬんだけどね。はは」



……ああ、僕は……。



「ひとつ良いことを教えてやる。この世は弱肉強食、弱者は強者に喰われるんだよ」



……弱者は……強者に……喰われる。



【重要】

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