27 捕獲
レートでSSあるって事は、確実にS級シーカークラス。しかも、その中でもかなりの強さ……なんでまたこの低ランクダンジョンに?っていうか、どうやって最下層に現れた?スキルか?
(……リリィ、何が目的だと思う?)
『わかりません。ただ、かなりのスピードで階層を上がってきているので、下層エリアボスを狙っている訳ではないようです』
ダンジョンには結界が張り巡らされている。それを通り抜けられる魔法は存在せず、また世界的にみてもそんなスキルは発見されてはいない。
……表向きは。
強力なスキルを持つシーカーは兵器と同列。切り札を隠すように、世界各国は自国の強力なシーカーを裏で育てているという。
公表されていないだけで空間を渡るスキルを持つものがても不思議はない。……現に僕も【運命の黒い糸】を使って結界を抜ける事ができるし。
(リリィ、侵入者を調べて来てくれ。何が目的なのか)
『わかりました。……冥様は?』
(僕はここで皆と行動を共にする。もし万一侵入者の狙いが彼らだとしたら、守らないと)
シーカーの行方不明の原因に、ダンジョンでの遭難がある。迷宮で迷う、魔物に殺され喰われる、ダンジョンブレイクに巻き込まれ死亡、魔力ポケットに入り込み出てこられなくなる、異世界へ道が通じ戻れなくなった……そして、誘拐。
シーカーはその魔力を生み出すという性質ゆえに存在自体にエネルギー原としての価値がある。そして、シンプルに戦闘員として利用価値も。
……誘拐され、見つかった時には奴隷としてダンジョンへ潜らされていたという事件も数年前にあった。或いは紛争地域へ派遣される傭兵へ育てられていたという例も。
――椎名の脳裏に杏樹の顔が過る。
(……得体のしれない侵入者だ、用心するに越したことはない)
『わかりました、行って参ります』
(頼んだ)
自分の影にいたリリィの気配が消えた。ダンジョンの影へと潜り移動したのだろう。
「……椎名先輩?」
いつの間にか隣に来ていた仲道さん。小首を傾げ、不思議そうに僕の顔をのぞいていた。
「え?」
「考え事ですか、先輩」
「いや、そう言うわけじゃないよ。……そろそろ、戻る時間かなって」
「あ、そうですね……そろそろ行きましょうか。戻るのも時間かかりますし。協会の方に連絡入れておきます」
……早めに上層へ、できるだけ出口近くまで戻った方がいいな。
もし戦うとなったら、相手はレートSSクラスだしダンジョンが崩れかねない。皆が巻き添えになったらまずい。はやくこの子らをダンジョンの外へ連れて行こう。
「あの椎名さん」
「ん?」
小金くんが小さな声で話しかけてきた。
「なんか……妙な感じしませんか。空気中のが濃くなってきてるような」
「……」
侵入者の進行速度が速い……もう60層くらいまで上がってきてる。空気中の魔力濃度が高まってきているのは十中八九それが原因だな。この3人の中で一番強い小金くんが魔力を察知したか。
「魔力溜まりの噴き上げかもしれないね」
「ああ、成る程……ダンジョン内の溜まった魔素が風の流れで上がってくる」
「そう、それだね」
「……すみません、俺……心配性で」
『オラボの巣窟』の事件を考えれば無理もない。本来難易度の低い任務が、唐突なイレギュラーで窮地に陥る……そんな経験をしたばかりなんだから。
「ううん、大丈夫。……むしろシーカーはそうあった方がいいよ」
「そう、ですかね」
「シーカーとして生きるなら、心配性で慎重なくらいが丁度いい。慢心や油断は命取りだから」
「……はい」
そう、油断は命取りだ。僕の【暴食】は確かに強力だけど、万能ではない。スキル同士の相性もあるし、それ次第で負けることも十分に考えられる。
だから、今はこの子らの安全を第一に動かなければ。
(……侵入者が僕みたいに力を隠しているタイプかもしれない。レートSS以上の力を持っている想定で動かないとな)
――
――60層、大岩地帯。
無数の岩岩が聳え立つ巨大な空間。天は高く、ダンジョン内だが青空がある。雲にみえる白い霧と天の岩肌に埋もれている魔鉱石が強い青光りを放ち、空にみえる。
「……」
そこに、きょろきょろと周辺をうかがう一人の男。リリィにより察知されたSSレート相当の侵入者だ。
スパイ映画のような黒尽くめのスーツに、プロテクター等の装備を着込んでいる。
(……私の視線に気付いてる。かなりの手練れです)
岩影から様子を伺っていたリリィ。
……私の視線に感づくまで、彼は物凄い速度でダンジョン上層を目指していた。まるで一つの目的地へ向かう様に……。
鉱石は下の階層へ行けば行くほど豊富だ。それに目もくれず上がっている様子から、目的は鉱石ではない。
さらに階層ごとのボスも放置している。なので素材等の魔物狙いでもない。
となると残るは、上にいる人間。つまり、冥様とパーティの3人。
(……やはり人攫い?)
その時、
「……はあ、し、仕方ないか……ああ、やだなぁ……」
侵入者が震える声で呟くようにそう言った。
……?
侵入者の言葉に疑問符がつく。が、その直後その意味をリリィは理解した。
「――!!」
岩の陰に隠れる少女、その背後には3体の蜘蛛がいた。大きさはリリィの2倍程、脚の一部が鎌状になっている。
【ハンティングスパイダー】レートS+
3体の蜘蛛はリリィの逃げ道のないよう囲み、尻から糸を放出した。網状のネットを宙で形成。彼女を捕らえようとしているのは明らかだった。
だが、リリィは最小限の動きでその隙間を通り抜ける。網目の粗い部分を瞬時にみつけた彼女は、すり抜けるように糸を躱した。
「……!」
その瞬間、蜘蛛3体が倒れ込む。それぞれの額には黒いダガーが突き刺さっていた。リリィが自分の影から創り出した武器である。
「……あ、ああ……僕のコレクションが……ひどいよ、君!」
いつの間にかすぐそこまで来ていた侵入者。膝をつき、頭を抱える様にリリィは戸惑う。
「……何を言ってるのですか、先に仕掛けてきたのはそちらでしょう。この蜘蛛から貴方の魔力を感じます。貴方がこの魔物を操っていたのは明白です」
「……それは、そうだけどさ……はあ、やだなぁ……この間も、魔人1体やられちゃったし……コレクションがどんどん減っていく……散々だよ。……はあ……もう、いい加減、こんな仕事辞めたい……はあ」
「……良くわかりませんが、辞めればよいのでは?」
「え?」
約十秒ほどの沈黙。リリィは時間が惜しいのでさっそく本題へと入る。
「貴方の目的はなんですか?なぜここに?」
「……あ……あ、えっと……狩りに、かな」
「狩り?何を狩ろうというのですか?」
「……今回は、人、だよ……レアな能力者がいるみたいで、ね……」
「それは上の階層にいるシーカーのことですか」
「……そう、だね……僕は、人には興味ないんだけど、これも仕事だから……って、あれ」
「?」
「君、だれ?……魔力の流れ、的に……人じゃない?」
「私は悪魔ですが」
「あ、あ、悪魔!?うそ、ホントに!?……い、いや、この魔力の質……確かに、魔物とは違う……ええ、すごい!?」
唐突に元気になる侵入者。リリィはそのテンションに若干引き気味だった。
(……変な人間)
「……あの、君さ……よければ、僕のコレクションに、なってよ」
「は?」
「僕、君がすごく欲しい!一目みたときから思ってた、君の造形は素晴らしい……可愛らしく、少女の姿でありながら、悪魔の禍々しい魔力が流れていて……そのバランスがとても絶妙に、妖艶で美しく、魅力的だ……!今までみてきた、どの魔物よりも……綺麗で……素晴らしい」
「!、ふ、ふふん。それはそうでしょう、主様のお側に置いていただく以上美しくあらねばなりませんからね。それは当然です」
「……うん、うん……ああ、ダメだ……とても欲しい、コレクションに加えたい!!」
「!」
侵入者の魔力が跳ね上がる。警戒するリリィ。
「……え、ダメ?……や、やだよ、こんな超希少な、レア……仕事中だから、ダメ?だけど……無理!」
「?」
耳を抑え誰かと会話している様子の侵入者。リリィはこの隙に猫になり椎名へと連絡をとろうと試みる。※人間の状態では離れていると意思疎通が出来ないため。
――が、その瞬間。
背後から巨大な手がリリィを捕らえた。
小さな体を丸ごと収める程の巨大な手、周囲に聳え立つ岩をも遥かに越える体躯。
【アルドラの巨人】レートSS+
二本の大きな角と一つ目、体表の青色が特徴の大男。凄まじい怪力と高い知能を持つ、Sランクダンジョン【水面の月國】250層の住人。
彼らは手のひらから魔力を分解する特殊な粘液を分泌する。
「……もう、終わった……悪魔、捕獲……へへ……」
【重要】
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