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26 アンノウン


「17時間もの間、周囲に魔力を広げ、しかも維持していられるって……いやいや、そんなのふつう魔力が保たないですよ椎名先輩!!魔力を体外に纏って維持するのも難しいし魔力消費激しいのに……」


「……だいたい魔力を周囲に広げられるってだけでかなりの技術スキルが必要だろうからな……でも、実際やって見せてるし。峰藤さんみたいな大きな魔力量ももたないのに……椎名さん……すげえ」


地面に拡げている僕の魔力を3人が眺めている。限りなく薄く張っているので、魔力を目に集中して見ないとわからないだろう。


(でも、ちゃんと見えてる……3人とも才能があるんだろうな)


……そういえば、これ、あの人に教えてもらったんだよな。それで、出来るようになって初めて杏樹にやって見せたら、すごく驚いて褒めてくれたっけ……。あれって、てっきりお世辞的なものだと思っていたけどこの3人の反応的に違うっぽいな。


(……なんか懐かしいな)


そういえば、これをやろうと思ったのってヒーラーである杏樹の負担を減らそうとしてだった。いつも杏樹が魔力広げて魔物の探知をしながらダンジョン探索してたから……魔力を極力使わせないように僕がやろうって。


「……僕には『スキル』が無かったからね。これ最初はウチのパーティでは峰藤さんがやってたんだ、魔力での周辺探知。けど、できるだけ負担を減らそうと思って、僕が教えてもらったんだよ。ヒーラーの魔力が尽きて怪我を治せなくなるとまずいからね。でも僕なら魔力が尽きてもそれほどパーティに影響はない。そもそも『スキル』がないから魔力の使い道も殆どないし……だから魔力の有効活用で僕がやり始めたんだ」


「……いや……まあ、確かにそれはそうで、言ってることはわかりますけど……」


「でもそもそも椎名先輩の魔力量じゃ出来るはずなくないですか?少ないですよね、魔力保有量?」


(まあ、今でこそ魔力の総保有量は杏樹の大体30倍くらいあるけど……確かに昔は少なかった。けど、それでも僕は同じ様に魔力を運用できていた)


「まあ、そこはかなり練習したからね。どう魔力消費を極限まで抑え効率的に対外魔力を維持し続けられるか、考えて実践して出来るようになった。……『スキル』がなくて役立たずって言われてたから、その分は他を努力しないとって思って、かなり頑張ったよ」


「……努力で、できるものなんですか……」


「うん、まあ時間と根気は必要だけど」


あの頃、役立たずのままだといずれ捨てられるかもしれないという強い不安があった。だから『スキル』ではなく他の事を死に物狂いで努力した。


魔力操作、魔物やダンジョンの情報収集、戦闘面でのパーティフォロー、メンバーの動きの癖やどう思考し動くのかも把握して円滑にパーティが戦えるように努めた。


……ま、努力虚しくダンジョンの奥地に捨てられたんだけど。


「あの、それ……よければ、私に教えてもらえませんか」


「え?」


「椎名先輩の今の戦闘でわかりました。今の私に足りないもの。パーティの『回復師』としての限界を、私はここまでだと決めつけていました……けど、やれる事はまだあるって。その魔力による周辺探知、私に教えて欲しいです」


「……いいけど、教えてもできるかはわからないよ?僕、人に教えるのだってしたことないし……」


「それでも教え欲しいです。私、頑張ります。努力、します。……今よりも、他にもできること増やしたいんです」


「!」


この目、あの頃の僕と似てる。自分にどこか無力さを感じていて、でも必死に現状を変えようとしている……。


「……そっか、わかった。けど、今は任務中だから、終わってからでよければ」


「!、ありがとうございます!お願いします!!」


満面の笑み。この子笑うとこんな顔するんだな。任務の緊張からか、ずっと真剣で微笑むこともなかったからギャップが凄い。良い意味で。


「仲道、それにこの任務中、魔力探知以外も学べる事はあるんじゃないか?」


小金くんがそういうと日野くんが首をかしげた。


「それ以外って?」


「戦闘中の動き、ポジショニング……どうしてこの位置にいるのか、とか。敵の注意を引いて間接的に前衛に貢献するやり方……そういう技術も椎名さんをみて勉強できる部分じゃないか?」


「……確かに。あ、もしかして椎名先輩、腰を低くして動いてたのって私の視界を遮らないように?」


「ああ、うん。危機的状況になった時、『回復師』の対応速度の差で負傷者の救命結果が大きく変わってくるから……仲道さんが即時判断できるようにね」


「……そこまで考えて……すごいです、椎名先輩……!」


「……そうかな?」


今まで必死にパーティへ貢献することばかりを考えて行動していた。だから僕がやれること常に思考し続け、どんどんやるってのは普通で……これも考え抜いて実践してきた結果の動きだ。


というかシーカーならそれが普通だと思ってて、これくらいは誰でもやってるものだと思ってたんだけど。


(……もしかして普通じゃないのか?)


これまでは檜室の命令で他のパーティにも参加する事が出来なかった。だから僕のやっている事がこんなに評価されることだとは思わなかったな……。


「……椎名くんて、もしかしてすごい人かな……?」


日野くんが怪訝な顔で小金くんに聞いた。


「今の話を聞く限り、俺はかなりすごいと思う。現にビッグラットは、普段の討伐よりかなりスムーズに終わった。3人の魔力消費も殆どないし……」


「……そうだよな、確かに言われてみれば。椎名くんが入ってフォローしてくれて、すぐに戦闘が終わったからあまり魔力使わなくて済んだって事か……すげえな、椎名くん……」


……くすぐったい。そう言われるとどう反応していいか分からなくなるな。


「あの、とりあえず時間が惜しいからさ、話は任務の後でにしよう」


「あ、すみません!よし、先へ進もうか!」


ギルドから直接行くダンジョンは例外だが、基本的に協会からおりてくる任務にはタイムリミットがある。それを過ぎると携帯に連絡があり、応答がない場合は救助がはいる。


リミットをこえると任務失敗で報酬は減額、救助が発生した場合はその分の費用がかかってくる。しかも高額。……だからなるべく早く任務を達成したい。


(まあいざとなったらリリィに協力してもらって無理やりにも達成させるけど)


『!、お任せください冥様』


(うん、頼りにしてるよ)



それから1時間後。目的地へと到着。鉱石を掘り、専用のリュックへと入れていく。


「……ん?」


となりで日野くんがツルハシを振り鉱石を掘り始めた。


「なんで日野くんが掘るの?それは僕の仕事で、日野くんたちは護衛が仕事でしょ」


「いえ、やらせてください!今日は色々と勉強させて貰ったんで、魔力の使い方とか!……ほっ!よっ!」


ガツン、ガツンと日野くんのツルハシが鉱石を砕く度、青白い魔素の光が煌めく。


「……そっか」


「はい!今まで知らなかったです、椎名くん……いや、椎名さんの凄さ!すみません、生意気な口きいちゃって」


「……あ、いや別に、はは」


ここに来るまでの道中、日野くんがアドバイスを求めてきたので魔力操作について教えてみた。人のスキルについてどうこう言うのもあれなので、とりあえず基本的な意識しているポイントを少し。それは、


『――魔物の体をみる?』


『そう、魔物の体を纏う魔力をみる……といってもただみるんじゃなくて、魔力の流れを観察するんだ』


『魔力の流れ……』


『例えばこのダンジョンに入ってすぐのビッグラット戦。最初、突進してきたビッグラットがいたよね?』


『はい』


『あのビッグラット、突進するまえに脚に魔力が集中していたんだけど……わかってた?』


『……え、そうなんですか?全然気が付かなかったです』


『あれは地面を蹴り駆け出すために魔力を脚に集中していたんだ。魔物には体に纏った魔力に大小あれどこの偏りが現れる。それをみれば先の行動を予測できる』


『魔力の偏りで行動を予測ですか』


『うん。さっき僕が地面に薄く張った魔力をみたよね?あの要領で、つぎ魔物の体に流れてる魔力を観察してみて。行動の動き出しが魔力の偏りとタメでわかるはずだから』


『……動き出しが、魔力の偏りとタメでわかる……はい、わかりました!やってみます!』


――敵の動きが魔力でわかる、ということは行動を予測し先手が打てるということ。つまり、


『――おらああ!!』


ビッグラットの飛びかかりを躱し、首を斬り落とした。


『おお、凄いな日野!?』


『椎名くんの言うとおりだ!!魔力の流れで動きがわかってカウンターが入れられたぜ!!はは!!椎名くーん!!やりました!!』


『うん!すごかったよ!流石だね、日野くん』



(……あの時、敵の動きが予測できていたから、前もって武器に多くの魔力を込め威力をあげられていた。その結果、魔力消費の大きなスキルを使わずに敵を処理する事ができたんだ)


だから今僕の手伝いをしてくれてるのも体力が有り余ってるからなのかもな……。


というか、この子達ポテンシャルはかなりあるよな。日野くんも魔力の流れさえ読めればこれくらいはできて当然というか。他の2人も鍛えればかなりの……


「……あの、椎名先輩」


「ん?」


振り返ると、仲道さんがピンクの水筒を持ってそこに立っていた。


「疲れてませんか?お水、足りてますか?私の飲みます?」


「あ、大丈夫……ていうか、採掘中くらいゆっくりしてて。また帰り護衛任務あるんだから」


「……はい、えーと……じゃあ、これを」


「!」


飴を手渡された。


「甘いので、少し疲労が和らぎますよ」


「……ありがと」


「えへへ」


……黒蜜きなこ飴。せっかくだしありがたくもらっとこう。


しかし、ちょっと空気感おかしいな。これ、もしかしてヤバいか?


明らかに僕に対する態度が変わってきてる気が……日野くんも僕のことさん付けしてくるし、仲道さんも優しい。小金くんも何かと教えを乞う傾向が……。


この子ら、さっきから僕のすることなすこと凄い凄いっていうけど、それってどのくらい凄いんだ?


ガチで凄いならやばくないか?変に噂にならないよなこれ?


(……)


僕はいやな予感がして、隣の日野くんに話しかけた。一生懸命採掘しているのに申し訳ない。


「……あのさ、日野くん」


「はい!なんですか?」


「日野くんもそうなんだけどさ、小金くんと仲道さんも僕のやること凄いって言ってるでしょ?それってどのくらいのレベルで言ってるの?」


「どのくらいのレベルで……?うーん?それはわからないですけど、かなり凄いと思いますよ!みたことないですもん、椎名さんの戦い方!」


「……いや、それはそうかもだけど……そっか、うん」


だから具体的にどの程度なんだそれは……。


「これまで檜室さんパーティのライブ配信は大体、檜室さんや大童さん、姫霧さん、峰藤さんがフォーカスされて映されていたんで、椎名さんがこんなに凄いことしてたなんて誰も知らないと思いますよ!」


「……ああ」


まあ、確かに。僕もライブ配信のアーカイブを見返して反省する事があるけど、僕は全然映ってないんだよな。あれ、どうやって撮ってるんだろ。僕の映像少なめとかAIで設定されてるのかな。


「なんでマジで感動です!あのパーティ、全員バケモン級のすげえ人たちなんですね!いや『氷龍の刃』の一員として鼻が高いですよ、俺!!」


「お、おお」


日野くんは『氷龍の刃』がよほど好きなんだな。


しかし……さて、どうしたものか。僕のこと、この3人には秘密にしてもらうか?


目立って面倒が増えるの嫌だし。


けど、まてよ……これから他のパーティとも組んで任務する事になるってのを考えると、それも遅かれ早かれか?


まあ【暴食】のスキルを持ってる事を知られなければ、そこまで面倒な事にはならないかな……?


うーん。


『冥様』


(……ん?)


『何者かがダンジョンに侵入しました』


(え?……協会の人?いや、僕らが任務終わるまでダンジョンに入るわけないよな。セーフティだし)


『上からではありません。唐突に最下層……160層に現れました』


(……え)


『レートはSS相当です』


(……えっ)


『人間、おそらくシーカーかと』


(……え!?)





【重要】

先が気になる、もっと読みたい!と思っていただけたら、ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★評価、をよろしくお願いします。執筆へのモチベが上がります。

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