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24 最強のシーカー


――Sランクダンジョン、【水面の月國】


128層。


ギルド『クラウン』第2部隊。


15人ものシーカーが3組へと分かれ、連携をしながら魔物を掃討していく。


それを高台から眺め、各班に指示を出しているのは第二部隊隊長。


獅神ししがみ 王貴おうき、19歳。


最強と呼び声の高いS級シーカーであり、スキル【結界陣 《SSSR》】を有する。


「順調ですね、隊長」


そして、その隣に立つは副隊長、明代あきしろ りん。A 級シーカー。


「まあな。逆にこの程度の魔物を難なく殺れないようじゃおしまいだけどな」


彼らが狩っているのはレートB【ギワハザミ】と呼ばれる巨大な蟹の魔物。硬い甲殻を持ち、倒すには関節を狙うしかない。


「――全てを焼き尽くす赤き炎よ、彼の者を焼き尽くせ!『ファイア』!!」


後衛のマジックキャスターが数十秒もの時間をかけ長い詠唱を終え、放った魔法。前衛のタンクがそれを絶妙なタイミングでよけ、『ファイア』はギワハザミへと直撃した。


魔法は詠唱中の魔力の込め方にもよるが、基本的にかなりの破壊力がある。が、


「くそ、やっぱり硬え!!」


ギワハザミの甲殻は魔力耐性が高く、魔法攻撃の殆ど受け付けない。


獅神は今の魔法攻撃をおこなったシーカーとその班のリーダーを指差す。


「あいつとあいつ、使えねえな。降格だ。この任務が終わり次第、後方支援組に回せ」


「え?……しかし、あの二人はRスキル持ちですよ、良いんですか?貴重な戦力ですが」


「どんなに良いスキルがあっても使い手がカスだと価値はねえ。ギワハザミの魔力耐性が高いのは見て取れるのにあの程度の魔法攻撃を行ったこと、そしてそれを許可したのにフォローもできない奴……どちらもゴミだ。死なねえうちに前線から下げる」


「なるほど、確かにギワハザミ相手には無謀な判断でしたね」


「無謀な判断?勘違いするなよ、俺は別にギワハザミに魔法を撃ったこと自体を否定はしてない」


「え?」


「撃つならしっかり殺せってことだよ。魔法はただでさえ魔力消費がでけえんだからな」


明代は心の中で思った。


……あのギワハザミの甲殻は、みたところ上級タンクの盾や鎧に使用されるレベルの硬度と魔力強化度。あれを破壊しろとか、やっぱこの人やべえな。


「そういや最近ニュースになってたな、あいつ」


「あいつ?」


「ほら、あれだよ……ウチの隊が救出に駆り出されそうになってた……『オラボの巣窟』の」


「あ、『氷龍の刃』ですか?檜室さん」


「そう、檜室!あいつこそその典型だよな。SRスキルを持ってはいるが、実力がクソだ。宝の持ち腐れ。まあ宝って程のスキルでもねえけどな」


明代の頬がひくひくと動き、ジト目で獅神を見る。


「あの、獅神さん……それ、公の場で言わないでくださいよ?大問題になりますから」


「言わねえよ。絡まれたらめんどくせえからな。餌はやらねえ」


「……餌。まあ、獅神さんが檜室さんについて何か発言しようものなら、多分あの方喜んで絡みにくるでしょうね。動画回しながら」


「配信者、インフルエンサーの旨味に目がくらんでやがるからな。シーカーの風上にも置けねえ。芸能人気取りの勘違い野郎だ」


「ダンジョン内での戦闘をまさか配信するまでいくなんて……法整備が整ってないからってやりたい放題なのは問題ですよね。まあ、それが無かったらあれほど人気も出なかったでしょうし、ギルドも大きくなってないと思いますけど」


「まあ、配信事態は別に否定しねえけどな。俺もスキル持ちの戦闘は観たいし。ただ、金稼ぎの為だけにやってるのが腐ってやがるって言ってんだ」


「確かに、儲けが第一のギルドと言われてますからね。色んなところで」


「だが、不思議だよな……そんなところに何故あのサイコパスが留まっているのかが」


「サイコパスって、S級の峰藤さん?」


「ああ。あいつは本当にヤバい性格してるからな。よく制御してられるな、檜室は……その点だけは凄えと思うぜ」


「まあ、どこのギルドも入れようとはしなかったですからね。S級シーカー、SSRスキル持ちのヒーラーなのに」


「化物みたいなスペックを化物みたいなデメリットが上回るからな。周りをS級で固めた状況とかじゃない限りアレを使おうとは誰も思わねえ」


「獅神さんにそこまで言わせる存在が、なぜあのギルドで上手くいってるのか……あ、そうだ。不思議といえばもうひとつ」


「なんだ?」


「最弱のシーカーが見つかったらしいですよ」


「……ああ、F級の無能力ゴミか」


「でも不思議じゃないですか?遭難したのあのアビスですよ?ウチのギルドも300層までしか到達できてないあのSランクダンジョンで3週間も生きてたなんて」


「3週間……運良く魔力ポケットにでも取り込まれて生きぬいたんだろ。というか、ウチのギルドが300層までしか到達できてねえのは満足に攻略できてねえからだ。あそこは檜室のギルドが担当になってる区域……攻略には奴の許可が必要だが、あーだこーだいって許可を中々だしやがらねえ。おおかた自分らの進行度に追いつかれたくねえんだろ、くだらねえプライド持ちやがって」


「あー、まあ……ありえますね。檜室さんが今までやってきたことを考えると」


あはは、と明代の乾いた笑い声。


「けど、実際どうなんです?」


「なにが?」


「ほら、デビュー時期も同じで年齢も同じ、ずっと言われてきたじゃないですか。最弱の椎名と最強の獅神。そんな長い付き合いの椎名さんが生きていて、こう……なにか思うところがあるんじゃないですか?」


「ハッ、眼中にねえよあんなの。ま、これを機にシーカーを辞めろとは思うがな。スキル無しの無能力ゴミじゃどの道いずれ死ぬ。また救出だなんだと始まったら迷惑じゃねえか」


「なるほど、確かにそうですねえ(この人マジでつめてー……けどカッコいい)」


――ズッ……


ギワハザミがあらかた討伐され、各班が状況確認を行っている……その時、グニャリと空間が歪んだ。まるでブラックホールのような丸く黒い靄が現れ、広がる。それに困惑するシーカー達。


獅神が魔力を纏い始めた。


「……ホントにきやがった」


獅子らの隊が受けた任務は、増えすぎたギワハザミを一定数間引くこと。そして、このダンジョンで度々みられるイレギュラーな事態の原因を特定、排除することだった。


そのイレギュラーな事態というのが、今起こっている異空間からの魔物の乱入である。


「本部へ……こちら明代。『緊急クエスト』発生、これより獅神隊長が駆逐にあたる」


――ズズズ、とその黒い靄の中から魔人が現れた。


人間の3倍もの身長、体中にギワハザミの甲殻を纏い片手に大きな杖のような笛を持つ。


大きな1つ目、長い鼻、赤黒い肌。そして、禍々しい魔力。


「……あ……ひ……」


シーカー達はその魔人の放つ圧倒的な魔力に呼吸が出来なくなる。


【魔人ヒルデルダ】レートS++……本来深層に住む魔物で、この階層には存在しない。


魔人は笛を吹いた。すると、どこからともなくギワハザミがまた大量に現れた。


「な、……え!?」


数千匹ものギワハザミの群れ。それが一斉にシーカー達へと襲いかかる。


魔人の魔力が付与されたギワハザミはもはやレートAを上回る強さである。


「うわああ!!?」「やばい、死……」「きゃああ」


――ガキィイインッ……!!


「……え?」「あ、へ」「……!」


が、ギワハザミは何かに阻まれ、シーカーを襲えなかった。


シーカー達とギワハザミの間に現れた金色に光る結界。


まるでカットされた巨大なダイヤモンドのような形のオーラ。


「……あ……たい、ちょう……!」


いつの間にか彼らの前へ現れた獅神。ポケットに両手を突っ込み、にいっと笑う。そして一歩ずつ魔人へと近づいていく。


すると魔人もまた笑みを浮かべ、笛を吹いた。ギワハザミへの命令。ターゲットが獅神1人に向いた。


ギワハザミとは思えない速度で獅神へと接近する群れ。そして、巨大なハサミで攻撃を始めた。


だが、そのハサミは獅神へとは届かなかった。またしても金色の結界に阻まれる。そして、


「……雑魚に興味はねえ」


――バチィ……ッッ


獅神が言った直後、閃光が走り数千匹のギワハザミが吹き飛んだ。どこからともなく放たれた雷撃。それは獅神からではなく、四方八方から無数に放たれた雷魔法だった。その途轍もない威力を内包する雷の槍は、強力な硬い甲殻をもち魔人により強化されていたギワハザミを一瞬で砕き、焼け焦げた塵へと変えた。


数千もの魔物が、獅神の攻撃で1秒とかからず全て消滅した――。


「…………す、すげえ……」


シーカー達の絶望が覆る。圧倒的な力を圧倒的な力で潰す。希望が湧き彼らは目を輝かせ始めた。


明代の喉がゴクリと鳴る。


(……SSSRスキル【結界陣】による、無詠唱の超火力雷魔法。そして無尽蔵かと思わされる程の莫大な魔力と、異次元の身体能力強化……これが世界最強と謳われるS級シーカー、獅神 王貴)


こんな化物が人間の中に存在するなんて……こうして自らの目で、この光景を目の当たりにしなければ、到底信じられるものではない……まさに雷を放つ神の如き力。


獅神が魔人へと近づいていく。


「……魔人ヒルデルダか……この空間を歪め移動する力はこいつの能力じゃない。オマエ、もしかして誰かに召喚されたのか?」


魔人は力の差を理解し、怯える。


自分のほうが大きな体をしているのに、魔人には獅神のほうが巨大な化物に見えていた。


「ぐ、ぐおおおお!!」


殺らなけれ殺られる。魔人は杖を獅神へと振り下ろす。だが、その瞬間――


「……つまんねえな、オマエ」


確かに獅神はそう言った。1秒にもみたない刹那の時。彼は「はあ」と溜息を吐き、


――ドオオンン


巨大な落雷が落とされ、魔神は消滅した。


王の座すギルド『クラウン』。基本的にライブ配信を行わない為、獅神の戦い方を知るのはごく僅かである。



――



都内、某所。数年前にできた低級ダンジョン、【グランダ鉱山】


この場所では貴重な鉱石が採れるのだが、割と強めの魔物が稀にでてくる。そのため、定期的にシーカーにその任務が振られることがある。


ただ、魔物の数もそこまで多くなく平均的にはレートEくらいであり、ダンジョンのランクは低くつけられている。


そして、報酬のいいそんな任務に僕、椎名 冥は来ていた。


一見するとバリケードに囲まれた工事現場にしか見えないけど、その中心には立派で大きな転移門が立っている。


「おはよう御座います」


「あ、おはようございます」


門の前にいたのはスーツ姿の男性。シーカー協会の人で、この依頼を取り扱っている担当者だ。


「『氷龍の刃』所属の椎名 冥様ですね。許可証をお願いします」


「あ、はい」


僕はギルドで発行された許可証を提示してみせた。


「確認しました。では今しばらくお待ち下さい」


「はい」


今日参加するのは僕の他に三人。僕含め四人パーティで鉱石を掘りに行く事になっている。


(……やっぱり家にいたほうが良かったんじゃないの?暇じゃない?リリィ)


影の中のリリィへ声をかける。


『いえ、冥様のお側にいるのが私の役目ですから』


(でも、暇でしょ。家でゲームでもしてた方がよかったんじゃないか)


『ゲームならここに』


(え、持ってきたの?)


『ウィッチの『魚類の森』楽しいです』※ウィッチ、ゲーム機。


(……そっか)


暇そうにしてたら可哀想だと思ったけど、なんか影の中で遊んでるからいいや。


そうこうしているウチに残りの三人が現れた。男性二人に女性一人。彼らは元々三人パーティで、そこに僕が加わる感じだ。


「おはようございます」


「「「おはようございまーす」」」


僕が挨拶すると三人も返してくれた。


……ん?


しかしそこで僕は気が付く。


あれ、この人達……どこかで見たような。


僕の脳裏に『オラボの巣窟』での一件がフラッシュバックした。



……あ。





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