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23 命拾い


「これからいつでも好きに使ってね、冥くん」


『気持ち悪い!何なんですかこいつは……殺したいです!許可を!』


(ダメだってば!こいつを使えば玲華を救えるかもしれないんだから)


『むむ、む……』


リリィが悔しそうな声で呻っていた。気持ちはわかるけども。


僕は席を立つ。


「……今度は裏切らないでね」


にこりと圧をかけ笑う。


「ええ、もちろん」


それに対し杏樹もほほ笑んでみせた。うっとりとした目で見てくる彼女に、これ以上はリリィがヤバいと思い僕はすぐに立ち去った。


何か進展があれば連絡が来るだろう。


(……とりあえず、当面は金稼ぎかな)


もし解呪のスキルを持っているシーカーにいい返事が貰えたとしても、対価がなければ処置しては貰えない。


『【暴食】でその解呪のスキルを喰らえばよいのでは?』


(それは乱暴過ぎるよ、リリィ。僕の【暴食】の存在が知られてしまうリスクがあるでしょ。それに、なんでもかんでもそうやって奪う事はしたくない……なんの罪もない、人の人生を奪うような檜室達みたいな真似は)


『そうですね。すみません、冥様』


しゅんと落ち込んだような声のリリィ。言い方がキツかったかな……うーん。


(リリィ、そこのスーパーであんぱん買って帰ろうか)


『わはぁ……!はいっ』


あんぱんで機嫌がなおるちょろい悪魔。助かるな。


……さて、買い物終わって帰ったらギルドの依頼書でも見てみるか。できるだけ高額の依頼がしたい。


となれば物資の回収系になるな……良いのあるかなー。



――



「……なんだか、不思議な感じだな」


俺、小金 颯太は病院をでて青空を仰いだ。隣には同じく検査入院していた日野 涼介と仲道 明美。二人とは『氷龍の刃』でパーティーをくんでいたメンバー。


――約二週間ほど前。


第5部隊に所属していて、ある日きた任務通達にしたがい、『オラボの巣窟』にて増え始めたオラボの掃討を任された。


だが、始まってみてわかった。それは、たった三人のパーティでは、到底達成できない任務だった。


増えたオラボは報告されていた情報よりも多く、かなり高い知能を有していた。しかもそれによりダンジョン内には彼らの小国が形成され、ゴブリンを養殖し奴隷として扱っていたのだ。


本来、数の多いゴブリンと、数は少ないが個々の力が大きいオラボが争う事で種のバランスがとれていた『オラボの巣窟』


だが、俺達が侵入した時点でゴブリンは狩られ尽くし、その一部が奴隷にされオラボに使われていた。


その奴隷にしたゴブリンに子を産ませ、洗脳。都合の良い手駒として使っていたようだった。


反乱を起こせないように餌を満足に与えず、ギリギリの状態で飼われたゴブリン。


繁殖力が強く、飢餓や過労で死んでもまた増やせる。


知能の高いオラボにより、築かれた国。


俺達が1層付近で討伐したゴブリンは、弱々しく武器もなかった。あれはゴブリンを俺達に当てて実力を測っていたんだろう。


そうして、中層へとかかるころ奴らは姿を現した。


物凄い数の武装したオラボ。俺達は抵抗虚しく、奴らの巣へと連れ去られた。


たどり着いたのは88層。抜け道が掘られており、層と層の間に本来あるはずの結界もなぜか破壊されていて素通りできる状態だった。


作られた檻への投獄。


手足を拘束され、三日。一切の食べ物も口にできず、どんどん体力がなくなっていく。捕らえられた時に魔力は殆ど使い切っていたので最早隙を見て逃げることもできない。ただギルドからの助けを待つだけだった。


一週間後。俺達、魔力のあるシーカーは普通の人間とは違い、生命力が高い。なので、食事も水もなくとも一週間は生きられる。だが、運が良くて一週間。


(……ギルド、は……檜室、さんは……もう……)


微かな希望を見捨てられたのでは無いかという絶望が塗りつぶし始めた。


日野も仲道もうつ伏せになり動かない。特に仲道は女性だから男の俺達よりも体力的にヤバいだろう。


オラボが檻をあけ、中に入ってきた。


(……部屋のオラボの数が……少ない……?)


檻の外をみるといつもならわんさかいたオラボが少なかった。狩りへいったのかそれともイレギュラーな事態が発生してそれへ向かったのか。わからないけれど、逃げるなら今がチャンスだった。


しかし、脚に力が入らず這いずることもできなかった。完全に体力が尽き、疲弊しきっていた。


「……や、やめ……て」


仲道のか細い声が聞こえ、目をやる。


すると彼女の衣服を脱がせようとしているオラボの姿が。


「……な、く……そ」


手を伸ばしオラボの衣服につかみかかる。だが、顔面を蹴り飛ばされ、数メートル吹っ飛んだ。


鼻が完全に潰され、どす黒い血液が口から溢れた。


魔力が完全に切れた今、魔力でのガードができない。ただの人間が魔物に攻撃されればこうなるのは必然だった。


しかしこれは軽傷な方だ。魔力を纏う魔物の攻撃を魔力のない人間が受ければ、下手すれば今の蹴りで顔が胴からちぎれ飛んでいる。


「……ひっ…………ぃ、……ぃ………ぁ……」


オラボは興奮しているのか、鼻息荒く仲道に覆いかぶさる。裸にされあおむけにされる仲道。オラボの長い紫の舌が仲道の体を舐る。


「……や…………た、たすけ……」


ぼろぼろと涙が溢れだす仲道。俺はなんとかしなければと立ち上がろうとしたが、脚に力が入らない。


仲道の体をまさぐり、にいっと笑みを浮かべたオラボ。


「……ぁ……ぃ、ゃ……ぁ……」


掠れた悲鳴が、小さく鳴った。





――スパンッッ





――瞬間、オラボの『頭部』が消えた。


(……え……!?)


宙を舞うオラボの頭……それが、地面に落ち転がった。


仲道は目をまん丸に見開き、それを目で追っていた。


――ドッ


そして首無しのオラボが蹴り飛ばされ、壁に激突。首からブシュウと血が噴き出しずるりと骸が地に横たわる。


(だ、だれ……!?)


いつの間にかあらわれた黒い外套をきた誰か。彼はフードを深く被っていて顔が見えなかった。けれど、仲道を助けてくれたことと、彼女に衣類をかけてあげていたことから味方であることがすぐにわかった。


「……遅くなってごめん。僕は『氷龍の刃』のメンバーで、君たちを捜索しに来たんだ。生きてて良かった」


深紅と漆黒のダガーを片手に佇む、黒い外套の男。どちらかといえば不吉で暗いイメージの風貌。だが、俺には神様のように思えた。


「……ぅ……っ、く……あり、がとう……ございます……死ぬかと、おも……ふっ、ぅ……」


涙があふれ出した。もうここで自分の人生が終わるのだと覚悟していた。けど、生きられると思ったら、とめどなく安堵の気持ちが溢れ出し、俺は泣いていた。


もう水分も出尽くしたと思ったのに。


「もう大丈夫。帰ろう……『ヒール』」


――三人はヒールをかけてもらい、彼に先導されダンジョンの外へ出る事ができた。


道中には凄まじい数のオラボがいて、中にはかなりの戦闘力の個体もいたが、黒フードの男はいとも簡単にそれを撃破していった。


揺らめく漆黒の影が、道を切り拓く――。


おそらく戦闘力でいうなら、彼はA級……いや、S?そう思わされる程、俺達とは次元の違う動きでオラボを狩っていた。



「……あの人、誰だったんだろうな」


日野が同じ事を考えていたようで、ぼやくように口にした。


「救世主みたいだったね」


仲道が頷く。


「……ホントにすごかったな、あの人。けど、体格的にも檜室さんや大童さんじゃなかったよな……」


「そもそも、大童さんは行方不明だし俺等が助け出された時には檜室さんも目に大怪我して入院してたろ」


「そうだね、助けにこようとしてくれてたみたいだけど……でも、じゃあ本当に誰なんだろう」


「しかもヒールが使えていたよな。ウチのギルドでヒールが使えるとなると……峰藤さんだけ」


「でも、峰藤さんは女性だよ。あの人は男の人の声だったし」


「……だよな。うーん」


三人は首を傾げる。ギルドに問い合わせても該当しない黒フードの男。


「……いつか、ちゃんとお礼がしたいね」


そう仲道が笑った。命の恩人である彼に、いつかお礼がしたい。俺も強くそう思った。



――



――23:48



「――よし、と……行きますか」


――【深淵のアビス】436層


リリィのスキルで創り出した黒い外套。袖に腕を通し、同じく創り出した漆黒の刀身に深紅がさすダガーを握る。


隣に立つは、ゴスロリ少女リリィ。あんぱんで腹ごしらえをして元気いっぱいだ。口端につくあんこを拭ってあげる。


「任務がない時間も稼いどかなきゃな」


「はい、冥様」


魔石掘りに二人は駆け出した――。





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