2 追放
僕、椎名 冥がこのパーティに加入した時のことは今でも覚えている。
『無能力者、スキルが無いからってなんだ……君には君の良い所がある。俺たちのパーティ、『氷龍の刃』に入らいか?』
そう檜室くんが手を差し伸べてくれたあの日。
今でこそ総メンバー300人近い大型ギルド『氷龍の刃』だが、僕が加入したときはまだ10人くらいの小さなギルドだった。動画配信も始めたてでYooTubeのチャンネル登録者も8万人くらい。
ダンジョン系の配信しているチャンネルでは比較的少なく、まだ他の三人もいなかったあの頃、僕は彼にスカウトされた。
17歳をすぎ、もう18になろうとしていた頃、魔力持ちだというのにまだなんのスキルや魔法も発現せず未登録の僕。もちろんそれは個人情保護法、魔力体質者保護法で護られ基本的には他人に知られる事はない……だが、それは不思議とどこからか漏れ出し噂になってしまった。
スキルを持たない魔力持ち【無能探索者】
当時まだシーカー登録もしていなかったけど、マスコミがインパクトを持たせるためにつけたその名前は大ヒット。
僕はその界隈では一躍有名な人間になった。それはもちろん決してよい意味ではなく、悪い意味で。
ネットでは馬鹿にされ、学校では陰口を叩かれ、イジメのような事もされた。
魔力持ちはそれだけで国から優遇されお金が支給される。なので国からお金を貰っているのに、スキル無し=無能というイメージがついた僕は誹謗中傷の的となっていた。
それは命を断つ事を考えるほど辛かった。
魔力持ちはそのスキルのランクやシーカーの等級に応じて支給額が決まる。
なのでスキルが無く、シーカーですら無かった僕が得られたお金は雀の涙程度で、決してそれらの誹謗中傷に見合うものでは無かった。
……けど、それでも、そんな僅かな支給額でも僕には重要なお金だった。
数年前、両親が失踪し、さらには二人が残した多額の借金があった家ではそれは生活をする上でギリギリ。更に借金を返済していくとなれば火の車どころではなかった。
けど、なんとかダンジョンでのバイトをして死に物狂いで頑張ってきた甲斐もあり、妹を高校に入れる事ができた。
『お兄ちゃん、今までありがとう。これからは私もバイトするから、二人で頑張ろうね』
心の支えは妹だけだった。なんとか妹の為に、借金を返し苦労をさせないようにしたい。頑張らなきゃ、そう思っていた矢先、妹が謎の昏睡状態に落ち目を覚まさなくなった。
そんな時に現れたのが、彼だった。
落ち込む僕に手を差し伸べ、微笑むSRスキルの持ち主。檜室 氷河。
僕の『ゼロシーカー』の噂を聞きつけきたらしい。
「そうか、誹謗中傷を……それは辛かったね。俺も少なからずそういった事をされているから、君の気持は痛いほどわかる。想像するだけで、俺も身が引き裂かれそうな気持ちだ」
カメラの前、僕以上に悔しそうな表情でそう語る檜室くん。初めて僕の気持を理解してくれる人に会えた気がして凄く嬉しかった。
「けど、それに負けてはいけない。それをバネにするんだ、椎名くん」
「バネに?」
「そう、バネに。妹さんへの想い、辛く苦しかった過去……それを全て糧に、君は強くなるんだよ」
「そんなこと……できないです。だって、僕は『ゼロシーカー』スキル無しの無能力者で……」
「できる!俺を信じてくれ!必ず君の真価を見つけてみせる!!」
檜室くんは涙を流し、手を差し伸べた。
「……『氷龍の刃』に、入ってくれないか椎名くん。俺と一緒に強くなっていこう」
こんな無能の僕を肯定的にみてくれたのは、妹以外で初めてだった。これを逃したら、もうチャンスは無いと思った。
両親の残した大きな借金、妹の入院費、普通にやっていたらそう遠くない未来にどこかで終わる。
それに何より、僕の可能性を信じてくれている檜室くんについていきたい。
「……よろしく、お願いします」
だから僕は彼の手を握った。
「こちらこそ、よろしく!今日から僕らは、親友だ!」
そのライブ配信は同接22万、アーカイブ再生回数2673万回になり、そこから飛躍的にメンバーが増え人気も出た。
……懐かしいな。
けど、なぜ僕はこんなことを今思い出してるんだ?
ここはダンジョンの中。少しでも脚を引っ張らないように気を引き締めないと。
「……」
三人の後を歩く。
……妙だ。
ぼんやりとする視界。
意識が……微睡む。
……眠気、が……。
――
「おい、雑用」
大童くんの声。
「……ぅ……」
頬を叩かれ、目を開ける。
すると三人が僕の顔を覗き込んでいた。
「……あ、ご、ごめん……僕、意識が」
「いや、大丈夫だ」
檜室くんがニコリと笑った。僕はホッとする。また機嫌を損なわせたら大変だ。……けど、久しぶりだな。僕にあんな顔をするのって基本的にカメラの前だけなのに。
「……え」
そこで気がつく。自分が氷の鎖で椅子に縛り付けられている事に。
(……そういえば、ここは何処だ?)
魔力によって光る光苔がそこら中に生えている、岩に囲まれた空間。こんな場所初めてみた。
魔素混じりの空気からしても、ダンジョンの洞穴であることは間違いなさそうだけど。
「……これ、な、なに?……動画撮影かな?」
自分に巻かれた鎖をみて僕は聞いた。
すると「ふふ」と檜室くんが鼻で笑う。大童くんと姫霧さんがクスクスと笑っていた。その二人の奥にいる杏樹は無表情で僕を見ている。
状況を飲み込めない僕はただただ目を丸くするだけだった。
そんな僕に檜室くんが「はあ」とため息をひとつ吐いてこう言った。
「……これだから、無能の『ゼロシーカー』くんは」
……え?
「やっぱり察しが悪いね。まあ、いいや……どうせここで君とはお別れだし」
「……」
僕は何が起きてるか全く理解できなかった。
「……お別れ、って……なに?」
檜室くんがにっこり笑う。
「君はいつまでたっても無能だからね、使えないからここで捨てる事にしたんだよ。俺のギルドに君は必要ないんだ」
クスクスと姫霧さんが笑っているのが聞こえた。
「……」
言葉の意味を咀嚼できない。……いや、したくないし、分かりたくない。
「ちっ」
大童が舌打ちをして僕はびくりと体を震わせる。
「ったく、んだよまだわかんねえの?仕方ねえ無能だなぁ……まあ、馬鹿にもわかりやすくいうとだな」
にやにやと彼は嗤う。
「オマエをここで追放……つまり放置するっていったんだよ」
……は?
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