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19/24

19 好機


「はふっ、は……ずるっ」


久しぶりのカップウードル醤油味をすすり、久しぶりのその味に涙が出そうになる。


「はあ、めっちゃ美味い……」


僕、椎名 冥は昨日の夜、3週間ぶり(厳密にはダンジョン内であーだこーだ色々あって実質3ヶ月ぶり)に【深淵のアビス】からアパートへと帰宅した。今は昼間で、小さなテーブルをリリィと二人で囲んでいた。ちなみにリリィはあんぱんをもくもくと食べている。


彼女はあんこ入りのパンを食べたことが無かったみたいだけど、尻尾の動き的に気に入ってもらえたっぽい。嬉しそうにふりふりと揺らしていた。


『――と、言うわけで、今回は俺たち三人でD級ダンジョン攻略をしていきたいと思います。皆、応援よろしく』


昔、妹が貰ってきた型落ちのテレビを眺める僕とリリィ。そこに映っているのは『氷龍の刃』のライブ配信であり、得意げに檜室が笑いながら手を振っていた。


オラボの巣窟か……三人といえど、D級の低レベルダンジョンだし普通にクリアするだろうな。一応A 級二人にS級一人ってメンバーだし。


(大童はマーキングの位置情報的に病院か?杏樹に腕治して貰えばいいのに……あ、僕が陰口をバラしたから檜室達を信用できなくなって近づけないのか?)


ふっ、と思わず鼻で笑ってしまう。


本当にバカだなぁ、大童は。杏樹に頭下げて治してもらえば無駄に金も時間もかからなくていいのに。


通常医療で折れた骨を治すとなったら、いくら魔力があって自然治癒力の高いシーカーでも結構な時間がかかる。大童の骨は綺麗に折ったけど、あの感じなら多分1週間くらいかな。


(……杏樹の【生命の樹枝】のヒールなら一瞬なのに)


ちなみに【深淵のアビス】で大童に折られた僕の腕が一瞬で治ったのは、【暴食】スキルスロット、3【不死の女王】にある機能の一つ、『自己再生』の力である。


持ち主だった【ヴェルンブラクシス《SSS++》】は途轍もない生命力と再生力を有していた蛞蝓の魔物。ダメージを与えても膨大な魔力を使用し瞬時に修復する奴だった。


この【不死の女王】の『自己再生』はそれを再現している。なので、例え腕を欠損しても魔力がある限り数秒で元に戻せる。


(……ま、その分かなりの魔力を消費するんだけど)


ちなみに莫大な魔力を必要とする『自己再生』だが、これにより魔力が尽きる心配はほぼ無い。僕のスキルで生み出した無数の蛞蝓魔物ヴェルモリウスがアビスのダンジョン内で魔力を延々と集めていて、今も供給され続けているからだ。


(それに、リリィの中にもかなりの魔力が溜めてあるし)


……まあ、それでも魔力はもっと必要だけど。


アビスの下層で多くの魔物と戦った。その中にはこの力をもってしても負けそうになるほどの強敵が多く存在した。


おそらく今貯めてある魔力もSSSレートの魔物とやりあえば尽きてしまうくらいの量だろう。


(……もっと、強くならないと)


そう、僕はもっともっと強くならなければならない。この先、シーカーとして生きて行くのなら、莫大な魔力も強力なスキルもまだまだ必要だ。


(……玲華が目覚めても、彼女に苦労させない生活ができるように。もっと強くならなければならない)


とはいえ、シーカーランク上げるのも嫌なんだよな。『無能探索者ゼロシーカー』って呼ばれバズってた頃も思ってたけど、目立つのはいくらメリットがあってもデメリットが上周り割に合わない。


確かに僕の【暴食】がシーカー協会で認められればA級どころかS級シーカーになれると思う。でもそうなれば一気に話題となって面倒ごとも一気に増えるはず。


現在のF級から一気にS級。スキル無しから超レアスキルを得たシーカー。


おそらく外を出歩くのにも人の目を気にしないといけなるだろうし、下手すれば変なやつも寄ってきたりするはず。普通の生活が出来なくなる。


そうなれば玲華にも苦労をかけるだろうし……。


さらにS級シーカーという地位にも面倒事が多くある。そこらの下手な兵器よりも力を持つA級以上のシーカーにはそれぞれ監視がつく。ダンジョン以外の場所では衛星カメラで監視され続け、危険な行動にでないか見られ続けられるのだ。


S級ともなればその上更に直接人を付けられる。政府のA級相当のシーカーが日常的について回り、常に行動記録を付けられる。もう人権なんてないようなもんだ。


ちなみに杏樹にもそれは付いていて、街での買い物や食事に付き合った時にそのことを知った。邪魔するなと杏樹が言っていたから少し遠くから監視していたが、あれでは気が滅入ってしまうなと恐ろしくなった記憶がある。


それにS級は緊急招集だってあるみたいだし、他にも面倒なことは多いっぽい。S級しか入れない特殊なダンジョンもあるらしいけど、生活を犠牲にしてまで入りたくはない。


(……だから、ベストはこのままのF級でSランクダンジョンへ出入りできる『氷龍の刃』に在籍しておくこと)


檜室はかなり僕を警戒していたし、普通にはギルドへ戻れないよな。どうにかあいつが逃げられないような状況に上手く追い詰めて復帰できないかな。


「冥様」


「……ん?」


「やはりこれは悪魔の食べ物です」


「これ?って、あんぱんのこと?」


リリィの頬に付いているあんこを指でとってあげる。頬を拭われ目をすぼめるリリィ。


「……はい、この『あんこ』という食べ物は悪魔的おいしさです」


「悪魔にそう言わせるとは、それは本当に悪魔的に美味いんだろうな……あ」


リリィの頬から取った指先のあんこ。パクリとリリィがそれに食いついた。


「こら、行儀悪いだろ」


「……んむ」


ジト目でこちらをみてくる。


「そんな目でみてもダメだけど」


「……」


「……う……わかった、わかった。もう一個あげるからその目やめなよ」


「むふーっ」


目を輝かせ尻尾をパタパタさせるリリィ。よほどあんぱんが気に入ったらしい。


買い物袋から取り出したあんぱん。手渡すと押し戻され拒否された。


「?、……ああ」


あんぱんの袋をあけて再度手渡す。するとすんなり受け取りパンをほおばりだした。やはり、袋をあけろという意味だったか……あれ、僕一応主様だよな?主様とは一体。まあ、可愛いから良いけど。


口が小さいからか食べるのが遅いリリィ。


(……ま、ダンジョンでの食事はリリィが作ってくれてたしこれくらいはするべきか)


あいも変わらず眠たそうな目で、あんぱんを味わっている。


そんな彼女を横目に檜室たちの配信を眺める。


……なんか、ギスギスしてるな。


特に姫霧と杏樹が。檜室はそれに気がついてるっぽいけど、あまり触れないようにしている……いや、杏樹の肩を持ってるな。


これ姫霧の性格的にかなりストレスが溜まってるんじゃないか?


ケアしないとマズイんじゃ……いや、マズイよな。さっきからストレスのせいで魔力コントロールに影響が出てる。上手く出力できてないから余計に魔力が消費されてて、これじゃそろそろ魔力無くなるんじゃ……。


相変わらず檜室は安全第一で前に出ないし。装備からしても檜室が前に出たほうがいいのにな……姫霧がやられたらどうするつもりなんだろう。って、あコメントでもツッコまれてる。


(……僕がここにいたら、そうだな。前にでて魔物のヘイトを僕が一瞬稼いで、姫霧への攻撃をそらし彼女に一息つかせる……すると彼女が僕に『じゃま!』か『余計なことするな!』と怒鳴り散らしてストレスがはけるから魔力操作にも余裕ができる。これでメンタルをリセット。彼女は1回吐き出せばもとに戻り冷静さを取り戻すはず。……あとは杏樹、できる限り魔力回復させるために戦闘に参加させない。見る限りかなり『魔力供給』をさせられ残量が少なくなっていて、余裕もなくなってきているはず。だから少しでも魔力を回復してもらうために瞑想してもらう。そのためには杏樹の周囲に気を配り守らないといけない……それも僕の役目。警戒しつつ、敵がきたら杏樹に報せる……って、)


……まあ、誰がどうなろうともう関係ないか。


ぼーっと眺めていると、このパーティの雑さや粗がよくわかる。他の上級Sランク、いや下手すればAやBランクギルドの上手い人たちがみるとわかってしまうような下手な戦い方………あそこにいないのに何故か僕も恥ずかしくなってくる。


パーティの連携はリーダーの指示によって大きく変わる。どれくらい変わるかというと、リーダーの指示次第で低ランクのシーカー達が格上の魔物ですら狩ることができる程に。


(……檜室、後方で視野を広く保っているのに自分の安全の事しか考えれてないから、視野を確保してる意味が無い。これこそまさに『無能探索者ゼロシーカー』……せっかく良い杏樹姫霧せんりょくを持っているのに。ゼロになにかけてもゼロってことかな)


「……ん?」


ふと気がつく。


いや、まてよ……このまま杏樹の魔力貯蔵庫の魔力が尽きれば、奥の手を切るんじゃないか?


「冥様?」


「ごめん、リリィ。多分これチャンスくるかも」


「!」


――ふと、配信が切れた。


(これは……杏樹が配信を切らせたか)


【運命の黒い糸】、『感覚共有』発動。


目を閉じ、杏樹に繋がる。


すると視界が共有され、杏樹のみている光景が広がった。魔力量の感覚、疲労度的にもかなりヤバい事がわかる。


(……多分、何かやるな……あ、ていうか今杏樹やるような事言った)


「……リリィ、そろそろ移動するから影に入っておいて」


「はい」


残りのパンを平らげ、リリィが僕の影の中へ溶け込む。


「それと向こうに行ったら、僕が檜室の影を踏むからそのタイミングでリリィは猫になって彼の影に忍び込んで」


「……」


「嫌そう!」


影の中にいるリリィがちょっとムッとしたのが伝わってきた。


「……なぜ奴の影に?」


「多分、檜室は安全を確保したら一人で逃げようとする。てか絶対逃げる。鞄に『転移魔石』入れてるはずだから、絶対にそれ使う。……だから、彼が外に出たタイミングで影からでて僕が移動できるようにしておいて欲しいんだ。多分、ダンジョンの外にはマスコミや他の配信者が集まってる……これを利用しないては無いからね」


「……」


「あんぱん買ってあげるからさ」


「はいっ」


いやすげえ良い「はい」が出たな。なんとも現金な奴だ。


「……あ、きた!杏樹の魔力が大きく揺らいでる……【暴食】発動させたらすぐ行くからね!」


「はいっ!」


うーん、気合の入った良い返事!あんぱんの力すげえな!


――そうして、僕らは杏樹の影へと移動した。




【重要】

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