表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/24

17 詰み ★


「……ひっ、や、やめろおお、うわああーー!!!」


椎名が檜室へと触れようとした瞬間、檜室は凄まじい勢いで地面を這いずり逃げ出した。


目は後で治る可能性はある。世界は広い。ヒーラーは峰藤だけではないし、時間が経った損傷でも治せるスキルはあるかもしれない。可能性という意味ではゼロではない。


だが、奪われたスキルが戻る可能性は無い。ましてや相当な恨みを買っている椎名に奪われてしまえば、未来永劫返してはくれないだろう。


「うわあああーー!!」


時間が経ち、多少回復した体力を振り絞り檜室は中層へと逃げていった。


それを無言で見送る椎名。


(……檜室は隠していたけど、使い切りの『転移魔石テレポストーン』を持っていたはず。ずっとアイテムの補充をさせられていたから知っている。……あれで一人地上に逃げるな)


「リリィ」


椎名が呼ぶと、


『はい』


彼の頭の中で、リリィの返事が響いた。



――



中層、平原地帯。大階段を上がり特殊な次元結界を抜けた先には大平原が広がる。


「ひぃい、あ……」


檜室は、もつれならがも走り近場にあった大岩の陰に急いで隠れる。


(……こ、これで……)


ポーチから取り出したのは『転移魔石テレポストーン


これはSランクダンジョンで稀に見つけられる魔石で、オークションにかければ数十億という値で取引される貴重なアイテムである。


(……こんな時のために持っといたんだ、勿体ないが仕方ない……!!)


魔石へと魔力を流し込む。淡く魔石が光だした。


「1層の出口に……!!」


転移したい場所をイメージし、集中する。魔石の光がどんどん強くなる。『転移魔石テレポストーン』は一瞬で任意の場所へ移動できるチートアイテムだが、一人用であり発動まで一分程の時間がかかる。


(本当なら出口じゃなく、もっと離れた場所に移動したいが……『転移魔石テレポストーン』はダンジョン内に漂う魔素を伝い移動させる石で、ダンジョン内の場所にしか移動できない)


体が霧のように霧散しはじめた。檜室はホッとする。


光が視界を多った数秒後、視界に飛び込んできたのは一層の出口。


「か、帰れる……!」


とにかく、帰りたい……家に、タワマンに帰って酒を飲んで……。


ダンジョンから飛び出すように脱出する檜室。


「!?」


するとそこには、


「……あっ、檜室さん!!」「おお、檜室だ」「生きてた!」「大丈夫でしたか!?」


数十人の人間が待ち構えていた。配信者、やじ馬、テレビ局、警察と救急車、そしてシーカーの救出部隊。


(あれは、Sランクギルド『クラウン』の……!)


「檜室さん、怪我は?他の人たちは?」


警官が話しかけてくる。配信者とテレビ局のカメラがこちらを向き撮影していた。


「……あ……えっと……その……」


なんて答えればいい?まさか仲間を見捨ててきたなんて言える訳がない……どうすれば、この状況を……くそ、あたまが回らない!はやく、この場を離れたいのに!!


「……その、あの……」


「?」


檜室がうつむき、どうしていいか分からなくなっていたその時、


「……檜室くん……」


誰かが自分の名前を呼んだ。その瞬間、集まっていた人間がざわつき出す。


(……この、声……嘘だろ)


恐る恐る自分の名を呼んだ誰かを確認した。


するとそこには、


「え、椎名じゃね?」「『無能探索者ゼロシーカー』の!?」「なんでここに!?」「まって彼は死んだんじゃ……」「行方不明だったよな!?なんでいるんだ!?」「椎名……」「うわー!これ数字とれるぞ!」「感動の再会ってやつか!?」


34層にいたはずの椎名 冥が、そこに立っていた。


「……檜室くん、よかった……また会えて……」


「……ぇ……ぁ……」


涙ぐむ椎名。だんだんと近づいてくる椎名に檜室は金縛りにあったように動けなくなる。


(……逃げたい、けれど……ここで椎名を無視して逃げたら…………)


はあ、はあ、と呼吸が激しくなる。


大衆の目と、おそらくはライブ配信中のカメラ。ここで椎名を拒絶すれば、それはたちまち日本……いや世界に広まりマイナスのイメージがつく。


【アビス】から生還した仲間を、無視した冷たいギルドマスターだと……。


どんどんと歩み寄ってくる椎名。


(……だが、しかし……あいつに触れられたら……)


マーキングされ、スキルが奪われる。


世間体かスキルか、檜室にとって究極の選択。


(どうする、どうしたら、スキルなくなれば終わる……けど、椎名を拒絶して一度悪いイメージがつけばとれなくなる……アンチがここぞとばかりに叩く、俺を恨むやつらも徹底的にやってくる……けどスキルが、スキル……くそ、くそ、くそおおお)


椎名が目の前へ。腕を広げ、微笑む。


「……本当に、合いたかったよ……檜室くん」


「……っ、……ぅ……」


周囲の人間にはこれが感動的な光景に見ているのだろう、涙を流し拍手をする者までいた。


しかし檜室からすれば感動とは真逆、絶望だった。


――死神が、微笑んでいる。


(……はッ、心臓が……痛ッ……)


椎名が腕を広げ、抱きついてこないのは選ばせているのだと理解した。


――ドッドッドッドッドッドッドッ


心臓が激しく鼓動し、まるで重機のように頭に響く。


にこにことしている椎名 冥。


『どちらも地獄、どの地獄に行くかはオマエに選ばせてやる』……そんな言葉が彼の笑顔から聞こえてくるようだった。


究極の精神状態。限界をとうに超えたストレスとメンタルは、檜室に涙を流させた。


(吐き気が、呼吸が……苦しい、息が上手くできな)


ど、どうしたら……


どうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだどうしたらゆるしてゆるしておねがいしますすみませんでしたたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて


あああああ


いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ


あがっ、がががが


あーーーーーーーーーーーあ、あああああっ


たすけてだれかだれかたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてあああああっ、いやだ


ががが、ががが、ぎぃ


あがが……が、あ……い、や、だ


――……い、やだ……


ぽろぽろと頬を伝う雫と、くしゃくしゃになる表情。


「よかったね、檜室くん……くすん」「まさか生きててくれたとはな」「そりゃ泣くわ」「ぐす……」


【氷龍の刃】感動の再会、ライブ配信とテレビ中継はまたたくまにSNSのトレンドにあがり、話題となった。


抱きしめ合う二人。


「……親友だもんね、檜室くん」


耳打ちする椎名。その言葉の裏にある、脅迫的なものを檜室は強く感じていた。


――逆らえば、どうなるか……わかるよね?


そう言われた気がした。


「……ッ、……ぁ……ぅ……」



『檜室泣きすぎw』『良かったね』『そんなガチ泣きするんか』『演技じゃね?』『あれはマジで泣いてるだろww』『鼻水汚えw』『檜室くんw御尊顔がww酷いことにwww』



――マーキング、完了。


(……これで、いつでも檜室こいつの人生を終わらせられる)






『つうか姫霧とかは?』『そういやどーした』『え、死んだん?』『見捨てられたか?』『なんで檜室だけ脱出してんだ』『あれれ』『檜室説明せい!』『ま さ か』『さすがに見捨てないやろw』『まさか……ね』『檜室ぼろぼろですやん』『つーかなんでここに椎名おるんや』『確かにw』『まあ生きててよかったわな』『檜室真っ黒』『あいつ絶対見捨てただろww』『え、二人中で死んでるの?』『だとしたらサイコパスw』『仲間死んでるのに笑顔で椎名くんと抱き合ってるとかやべー』『笑ってたか?』『なんか顔が引き攣ってたような』『殺したんかー檜室ちゃん』『サイテー。しらんけど』『絶対やると思ってましたよ』『さすがに生きとるやろ』『え、生きてるなら救助お願いしない?』『抱き合ってる場合か』『確かにww』『おまwざけんな姫霧返せ』『遭難者もさがしたらんとよ』『檜室くんはよ救助頼んで』『峰藤と姫霧もすぐ戻ってくんじゃね?』『かもね』『雰囲気に流されてますなあ』『感動』『脳内お花畑かよw』『檜室くんww』『つか、あの、遭難者は……?』『な ん だ こ の 展 開 は』『つーかよくわからんけど椎名ってアビスで生き残ってたとかやばくね』『それな』『しかもノースキル』『対して高ランクスキル持ちの檜室さん達は低ランクダンジョンで死にかけ』『うおすげえ視聴者数wニュース配信チャンネルとは思えないw』『おおやばw同接30万てww』『バズれてよかったね檜室くんww』『おめw』『ワロタ』





【重要】

先が気になる、もっと読みたい!と思っていただけたら、ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★評価、をよろしくお願いします。執筆へのモチベが上がります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ