15 必死 ★
「なんだ!?スキルがどうした杏樹!?とりあえず、回復した分の魔力で俺の目を治してくれないか!!」
慌てて峰藤へと駆け寄る檜室。勿論、峰藤を心配する気持ちよりも自分の目を治して欲しい思いが2:8の割合で大きい。
「………………治せません……」
「え、は、え!?……や、いやいや、魔力はヒール1回分くらいあるだろ!?」
「魔力は確かに絞り出せばあります、けど……」
「けどなんだ!?早く治してくれないと、間に合わないかもしれないんだぞ!!頼む、俺の目を!!あとできれば顔の傷を!!」
峰藤が檜室の方へ顔を向けた。その表情は今までに見たことがないくらいあどけなく幼い顔だった。まるで不思議なものを見たかのような、キョトンとした表情。
「……できません……私のスキル、消えてしまったんです……」
「……」
……。
……。
……何が、なんだって……?
今、こいつはなんて……いや魔力はあるんだろ?
スキルが消えたとかそんな事いってる場合じゃない!
状況がわかってるのか!?
(……ん?え、あ……スキルが、消えた……って、ことは……あれ?)
って待て待て待て、早く早く、早く目玉を治さないとヤバイ。
ん、まて、スキルが消えたってガチ?
消えたって、ヒールかできないってことで、目が治せないってことか?
え、見えないまま?
片目もうダメ……なの?
「……ッ、は、……?、?」
(いやいやいや、そんなことありえねえ)
そう、ありえねえ、つまりこれは冗談。
冗談言ってる場合かよ、ってツッコミいれるところか?……や、配信切ってたんだ!今、笑いはいらない!
……え、あー……うーん、え、え?
なにこれ、訳がわかんねぇ、ヤバイ。え、これってもしかしてそういう意地悪的な?
さっきの仕返しっつーか、八つ当たり的なあれか?
「……あ、あの、どーしたら治してくれる?なんでもするから、だから、頼む!右目が視えないままなんて嫌だ!!頼むよ、報酬金とは別に、か、金を払おうか!?」
「……いえ、あの……」
「……あ、ああ、そうか!わかった、姫霧に土下座させよう!!ムカついてたんだろ?なあ、それなら許してくれるか!!?」
むっ、とする姫霧。
「は、はあ!?なに言ってんのよ!?」
「――うるせえよ、てめえ」
「ひっ」
檜室のストレスは限界を超えた。今まで聞いたことのない低い声と鬼の形相。初めて檜室から純粋な怒気をうけた姫霧は恐怖で言葉を詰まらせた。
「……先に俺に殺されたいのか、オマエは?」
「……っ、……ぃ……」
股下からツーっと流れるそれにも気が付かず、ただただ彼に怯える姫霧。
「もとはと言えば、てめえが……」
「……ぁ……ご、ごめ……ごめんなさ……」
「……あの、氷河くん……そんな事でもめてる場合では」
「ああ!?」
大量のオラボを縛り上げていた氷が溶け始めていた。
「……やばい……」
こうなっては今更砕いて数を減らす事もできない。魔力切れ、タイムオーバー。
(……い、いや……まだだ……!!)
「姫霧!!」
檜室の声にびくりと震え上がる姫霧。
「あと一発、その岩のバリケードに最大出力の『ファイア』を撃て!!!」
「……っ……!」
こくこくと青ざめた顔で頷く姫霧。タクトを構え、魔力を集中させ始めた。それと同時に檜室は岩のバリケードに氷の鎖を巻きつけ、凍らせ始めた。
「これなら魔力コーティングがあろうが、物理的に砕けるだろ!!」
「……あ、確かに。流石氷河くん……」
未だぼーっとしている峰藤。心ここにあらず、何かをひたすらに考えているようだった。
「おまえら!!バリケードを吹き飛ばしたら走るぞ!!中層へ入ってしまえばアイツラは階層の間にある結界で追ってこれない!!」
生きてここから逃げられる、そう三人が希望いだく。
「よし、凍らせ切った!!!撃て、姫霧!!」
「――『ファイア』!!!」
――ドッ!!!
檜室の思惑通り、全ての岩が一撃で砕け散った。が、その瞬間。
ボゴオオオンンン!!!
凄まじい爆発。
途轍もない衝撃と共に吹き飛ばされる檜室ら三人。
バリケードの岩に内包されていた爆発魔石が起爆したのだった。
「……が……」
「……っ」
「……」
そう、これはオラボのトラップだった。もし岩を破壊されたとしても獲物が逃げられないよう魔石が仕込まれていたのだ。
爆発の威力自体はそれほど高いものでは無かったが、三人とも爆心地から距離か近かった事と、魔力が少ない事もあり瀕死状態になってしまった。
爆心地に一番近かった姫霧は両腕が消し飛び、爆風で飛ばされ壁に激突。気絶して地べたに転がっている。
一番遠い位置にいた峰藤も、爆風で飛ばされ更に爆発で飛んできた岩の破片が腹に直撃し裂けた。内蔵の一部が飛び出て、おびただしい量の出血で意識が朦朧としている。
その中間にいた檜室は奇跡的に火傷だけで済む。
(……お、俺だけ……逃げられる!?)
しかし、爆破による煙が消えていくと共に希望は消える。
「……あ、あ……」
見渡すと檜室たち三人は、オラボの集団千匹以上に囲まれていた。一見しただけでも逃げ道がない事がわかる。
「……ひっ、いひぃ……!?」
手を前へ向け、【氷結創造】を放とうとする。が、魔力切れと恐怖心で微かな霜すらでない。
「……ああ、あ……あ、……」
オラボの集団の中から一体のオラボが出てくる。
そのオラボは立派な甲冑を身に着けていて、その風貌と振る舞いからリーダーなのだとわかった。
魔力が底をつき、脚が震え、僅かにも動くことができず座り込んでいた檜室。
オラボのリーダーが天高く振り上げた剣。あれが振り下ろされたその時、自分は死ぬのだと理解した。
「……ひっ、いやぁ、あああ!!し、死にたく、ない、うわああ、あー!!」
泣き叫ぶ檜室。声が裏返り、尿を漏らし、大粒の涙を流した。
「……よ、るなぁ……ひぁ、ああ……いやだあ!!やだよおお……こんなところでえ……!!」
オラボの集団がケタケタと笑い出す。あまりの滑稽で惨めな姿に剣を振り下ろすのを躊躇うリーダー。
「な、なんでもするから!殺さないでくださあ、お願いします……たのむ、なんでも、死にたくな……お願いだ……うああ、ああぁ〜!!」
大泣きする檜室。リーダーはその姿に呆れ返り、はあ、と溜息を吐く。
少し離れた場所からその光景を座り眺める峰藤。血がたりなくてぼんやりとする視界に檜室が映る。
土下座をする檜室。彼らにそれの意味が通じるわけもなく、剣が振り下ろされた。
(……あ……死んだ)
と、峰藤が思ったその時
――ギィイン!!
「……ぅ、え……ぁ?」
涙と涎で塗れたべとべとの顔を上げる檜室。するとそこには、
「……あ、あ……え……」
「やあ、檜室くん」
「……め、冥……!?」
椎名 冥が黒いダガーで剣を受け、立っていた。
「大変そうだね……助けてあげようか?」
そう言って椎名はにこりと微笑む。
――悪魔が微笑んだように見えた。
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