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14/27

14 奥の手 ★


背後に現れたゴブリンの集団。その数はゆうに200を超えていた。


「――姫霧、最大出力!!」


先ずは一発、姫霧のスキル【魔女ノ血】で最大強化した特大の『ファイア』を撃ち込む。


――ドゴオオオオンンッッ!!!


200いたゴブリンが一瞬で跡形もなく吹き飛んだ。


(……これは、罠か)


下層へ通じる大階段が岩によって封鎖されており、左右に逃げ道もない。大方ゴブリン達の作った罠だと檜室は予想する。


……ゴブリンの知能は高い、これくらいの罠は考える、か……?


檜室はいいようのない嫌な予感がしていた。


(……ここまででみたゴブリンは総勢1000匹ほど)


『オラボの巣窟』と呼ばれるここは、その名の通り【オラボ】と呼ばれる魔物の住処だ。


オラボはゴブリンと姿がよく似ていて、しかしゴブリンよりも強い。両種の違いは体表の色、ゴブリンがくすんだ緑いろでオラボは黒ずんだ赤色。知能レベルもオラボの方が高く、最大の特徴は両腕にある大きな盾のように変形した鱗。


(この『オラボの巣窟』では、本来そのオラボにゴブリンは捕食され数が少ない……なのにこれ程の数が存在しているということは、何かしらの要因でゴブリンの方が勢力的に優勢になっているということ)


「姫霧!階段に積まれた岩は破壊できるか!?」


「え、これを!?一撃じゃ無理だよ!!」


「姫霧の残り魔力全て……それとコレを使えば出来るか!?」


檜室が残りの『魔力液ポーション』を出す。


「!、それなら、まあ……た、多分?」


「やれ!!死に物狂いで中層への道をあけろ!!」


本来であれば檜室達の実力的に難なく切り抜けられた場面。しかし、魔力不足気味の現状と三人の関係性による精神的疲弊がゆっくりと余裕を削り始める。


「また来ました!今度は約300のゴブリン、更に後方に大きな魔物の反応……ゴブリンロードかと!」


峰藤が地面に手をつき、魔力を薄く広げ敵の数を感知している。魔力を大きく消耗するそれを発動する事は、峰藤の魔力残量を全て使い切ってしまうのを意味していた。だが、敵の動きを把握しなければ後手に回りやられてしまう恐れが高いので仕方がなかった。


(……くそ、ヤバイ……『魔力液ポーション』は峰藤のヒール用に取っておくんだったか!?い、いや、しかしこの岩のバリケードを破壊しなければ何処にも逃げられない……)


姿を現した大量のゴブリン。間髪入れずに檜室達へと走ってくる。


(!?、コイツら、武装してるだと……!!?)


今接近してこようとしているゴブリンは簡単な鎧で身を固め、手には武器を持っていた。槍、手斧、ショートソード。


このダンジョンでみてきたゴブリンは武器は持っていても鎧はつけていなかった。しかもその武器も攻撃力の低い棍棒が殆どでだいたいが素手。


「ちっ!」


――パチン、と指をはじく。


ここで檜室は【氷結創造】で大量の氷の鎖を創り出す。スキル発動から1秒もかからず300匹全ての敵を縛り上げ、氷漬けにする。


(このまま砕いても良いが、これをバリケードにして時間を稼いだ方がいいな)


凍りつくゴブリンたちをバリケードにしさらなる増援を阻む。これまでの戦いの中で培った経験による思考の瞬発力、戦術。


「姫霧!まだか!?」


「まだ、あと半分くらいかな!?」


「急げ!!いくらこいつらが雑魚だといっても今の魔力不足状態で囲まれるのはヤバイ!!」


「けど、なんか変なんだよ!この岩、壊しにくいっていうか……」


「なに!?」


「……魔力でコーティングされてますね」


峰藤がいう。


「コーティング!?なぜ!?」


「その答えはこの状況をみれば明らかでは……おそらく私たちはこのダンジョンに入ってからずっと狙われていた。最初の方、戦ったゴブリンが弱っていたのはもしかすると捨て駒だったのかも」


「……俺たちの魔力を削るため、か?」


「みてください。氷河くんの凍らせた魔物を」


「ああ、この武装したゴブリン……え」


「多分、この子達が本命だったんでしょう。腕に大きな盾の鱗……この300匹の魔物は全てゴブリンでは無く、【オラボ】です」


「なに……」


檜室は戦慄した。勿論、ゴブリンやオラボのような魔物は知能が高いことを知っていた。しかしここまで戦略的に狩りをおこなうとは思いもしてなかった。


「かなり頭のいい個体がいるみたいですね、オラボの中に」


「やばいよ、檜室くん……あと全力だと『ファイア』2発しか撃てない」


「……ッ」


「!、また更にオラボが200匹!!」


「ひ、檜室くん!!」


――ッ、〜〜るっせええ、なあ!!


檜室は鎖で氷漬けにしたオラボを凍結し続け、更に凍らせたオラボを氷の盾にデザインしスキルを発動させ続けている為、多くの魔力を持続的に消耗していた。


(くそ、あと200……ま、まだ大丈夫だが、このままじゃ俺の魔力も……)


チャット欄ではリスナー達がコメントを連投していた。


『ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ』

『これは放送事故!?』

『配信中にシぬってヤバイな』

『まえに何度かあったよね』

『これはもうどうにもならんくね?』

『せめて配信切ったほうが』

『他の配信者がヤバイなw』

『ダンジョン配信規制はいるかも』

『ばかかお前らそれどこじゃねえ』

『うはw氷河くんおわりかw』

『姫霧ちゃん』

『がんばれ』

『無理だろあれはw』

『つかすげえなゴブリン』

『オラボな』

『やばい』

『しぬなー!!』

『氷河くんなら切り抜けられる』

『S級とA級2人やぞ』

『ここ中級ダンジョンなんすけど』

『ここでやられたら恥』

『逆にみたいかもww』

『シーカー界の恥になるのか!?』

『これはゼロシーカーさんよりも恥ずかしいのでは』

『ポーション使ってるから魔力管理が下手くそだったってことね』

『氷河が戦ってたら普通に魔力保ってたよな?』

『戦犯氷河じゃんwなにしてんwリーダーww』

『しぬしぬやばい』

『えええまだゴブリンでてくんの!?』

『いやオラボな?』

『檜室はなあチキンだから……あ、鶏に失礼か』

『かわいそうな峰藤さん』

『杏樹様なんとかして』

『S級頑張って!』

『姫霧もう魔力なくね?』

『数の暴力おそるべし』

『オラボ頭良すぎて草』

『これレイド案件になるのかな』

『檜室たちが全滅したらSレイド』

『おおじゃあS級シーカーあつまるんか!?』

『アリスちゃんみたいなあ』

『S級の天使様アリス』

『龍くんも来てほしい!』

『あいつの戦い方カッコいいからなー』

『でもやっぱ最強のS級シーカーは獅神』

『獅神は格が違うね』

『あー、獅神王貴か!人類最強の』

『最弱の椎名、最強の獅神』

『獅神には誰も勝てんw』

『おいw檜室たちを応援しろww』

『これだからアンチはゴミ』

『ここぞとばかりに沸くなw』


――ッ、ッ、……くっそゴミリスナーどもがあああ〜!!!


この緊縛している場面でも檜室はコメントをチェックしていた。それはもう病的なもので人目を気にする余り常にコメントが気になって仕方がない状態になっていた。


一方、姫霧もまたコメント欄をみてテンションがだだ下がる。この命の危機においてアンチコメントの精神にあたえる影響と威力は更に増していた。


「――っ、ふ、『ファイ、ア』……あっ、?」


――シュウゥ……


姫霧の唱えた『ファイア』が形を成さなかった。精神の揺れが魔力の流れに影響しコントロールをみだし、魔力だけを消費し炎はでずに終わる。要するに失敗、無駄打ち、不発。


これは姫霧がA級シーカーに上がってから初めてのことだった。


(……な、な……てめ、え……てめええええ!!!『魔力液ポーション』を使っておいて、不発してんじゃねえええぞおおおクソ女あああ!!!)


――……ッ、ギリィッ……


怒鳴り散らしたくなる衝動にかられるが、配信中であるため踏みとどまる檜室。


『不発!?』

『おいおいおい』

『A級シーカーが失敗してんのウケるな』

『檜室くーんどーすんのー』

『なにその顔wwバカ面wwマヌケかよww』

『アンチうっせえ』

『まーアンチ多いチャンネルすから』

『人の命かかってんだよ?』

『不謹慎すぎるわ』

『最低』

『いやいやww檜室らにも疑惑あったろww』

『疑惑?』

『コロしの疑惑ね』

『あー、ゼロシーカー行方不明の』

『置き去りに来てヤッたのかもって噂』

『は?なわけ』

『アンチはそうやって冤罪をうむ』

『やめろ』

『アンチいいかげんにしろ』

『はいはい反応しちゃダメ』

『これもう通報してる感じ?』

『通報してもシーカーの応援すぐには集まらないよ』

『シーカー不足だもんなあ』

『なんですぐ死んでしまうんシーカー』

『そら魔物と戦ってるからやろ』

『おまえらやってみろ秒でひき肉』

『檜室くんなんとかしてくれ』

『氷河本気出せオマエA級だろ』

『これは歴史的瞬間では』

『歴史的汚点』

『いやもっと上手く魔力つかえよ』



……殺してえ……ッッッッ!!!


今配信を観てるやつら全員殺してえ!!好き勝手言いやがって!!

スポーツの観戦じゃねえんだぞ!?負けたら死ぬんだぞ!?簡単に言ってんじゃねえよ!!


指示厨もアンチも全員くだばれ――


「――氷河くん前っ!」


「え」


姫霧の不発、チャット欄に気を取られていた檜室。前へと顔を向けると、オラボの氷のバリケードの隙間から現れたオラボがナタを振りかぶっていた。


(――死っ)


――ズギャッ!!


「……ぐっ!!」


反射的に後退しそれを躱す。だが、一歩間に合わず額をかすめ更に右目を切られた。


「てめ、え……!!」


――ズドオッ!!


檜室はカウンターで氷の剣を形成。オラボの顔面を貫いた。


「ひ、檜室くん!?大丈夫!?」


更にぞろぞろと湧くように氷漬けオラボの隙間から侵入してくる。


「……ッ、は……いっでえ」


檜室はたまらず痛みを軽減するために低級の麻痺魔法を痛み止め代わりに発動。これは持続的に魔力を消費する。


ぼたぼたと垂れ落ちる鮮血、冷や汗、滲み出す焦り。


(…………くそッ……いつもなら、冥のやつに手当させるのに……ッ、……手当用の包帯も……薬も、何もかも、あいつの鞄か……いちいち、苛つくぜぇ)


袖で血液を拭い拭き取る。


切られた……眼球が損傷して視えない。


(……ヤバい……これは、ヤバい……)


ジリジリと消費されていく魔力。しかも普段使い慣れていない魔法の為、上手く発動できず燃費が悪い。かといって峰藤や姫霧にそれをつかう余裕は檜室以上に無い。


(……あと200後衛に控えてる。更に大型のが1匹……さっきはゴブリンロードかと思ったけど、多分これもオラボか)


オラボ達の動きを魔力で察知している峰藤。魔力約4割まで低下している檜室、1割もない姫霧、そしてヒールも使用できない程魔力を失った自分。


このパーティはかつて無いほどの危機に見舞われていることを峰藤はっきりと意識した。


「氷河くん」


「!」


峰藤の雰囲気が変わった――。


「……死にたくなければ、今から私の言う通りにしてもらっていいですか」


現れたオラボをまた氷の鎖で氷漬けにする檜室。残り魔力残量、3割を切る。


「どうすれば、いい」


『おいおいリーダー指示されてらw』

『プライドねー』

『うけるなこれは』

『ww』

『峰藤リーダーすね』

『案外そっちのがいくね?』

『わかるわかる』

『檜室は器じゃないよな人を束ねる』


「……まずは配信を切ってください」


「!」


指示された檜室は瞬時にドローンの撮影をオフにする。


「つ、次は……!?」


「あとは、私がこれからする事を秘密にすると約束してください」


「わ、わかった」


「は?なによアンタ?そんな事偉そうに言う前に、さっさとやりなさ……」


――ゾクッ


視線を受けた姫霧は、それ以上言葉を紡げなかった。


「……もし他言すれば、お二人とも命はありませんから」


空気が張り詰めるほどの殺気を放つ峰藤。冷たい笑みが姫霧の軽口を黙らせる。


(……できれば、誰かに見られている状況でこれは使いたくなかった……けど、もう仕方がない。後で破れば死ぬ『禁言』の呪術を2人にかけてギルドは抜けよう)


【生命の樹枝 《SSR》】には三つの機能がある。


①『魔力貯蔵庫マナタンク』魔力の蓄積。

②『肉体修復ヒール』厳密には回復魔法ではないが、触れた対象の怪我を治す。

③『魔力供給』自分のもつ魔力を分け与える。


そして、もう一つ。これは完全なる奥の手であり、峰藤が人には知られたくはない隠された4つ目の機能。


(……何か、胸騒ぎが……)


ずっと感じていた、謎の感覚。


何故か、奥の手を使ってはいけない……切り札を切ってはいけない、それはダメだと峰藤の本能が訴えているような気がしていた。


得体の知れない不安が迷いを生む。


(……でも)


「み、峰藤!?どうした!!」


しかし使わなければどの道、オラボに殺される。今の彼女には、奥の手を切る以外の選択肢は無かった。


「……『世界樹の祝福』」


――ズズ、ズズ……!!


Sランクダンジョン、【世界樹の迷宮】の最下層。そこにあるダンジョンを形成する核である1本の巨大な樹木、『世界樹』


莫大な魔力を生み出し続けるその『世界樹』へと一時的に接続し、無限ともいえる魔力を引き出すことができる。


タイムリミットは三分。勿論デメリットもあり、それは肉体の限界以上に魔力を引き出せば体が崩壊して死ぬ事と、使用後は反動で数時間動けなくなり魔力回路の酷使で魔力自体を扱えなくなる。


――ズズ、ズズ……!!!


「……な、なんだこの魔力はッ」


噴き出す蒸気のような金色のオーラ。


峰藤は持っている杖をヒュンヒュンと振りオラボへと構えた。


「……」


峰藤の凄まじい魔力量に言葉を失う檜室と姫霧。


(……ああ、そうね……こんなひりつく戦況は久しぶりだわ……)


ぞろぞろとまた大勢のオラボが隙間をぬってこちらへと侵入してくる。


「…………血が、滾る……ふふ、ふ……」


――ビュオオッ!!


峰藤が好戦的な笑みを浮かべ、凄まじい勢いでオラボの群れへと突っ込んでいく。


その姿は、まるで獣。


峰藤が杖を振るたび、まるで紙くずのようにオラボが屠られる。どんどんとバラバラの肉塊にされていくオラボの群れ。


「アギャ!?」「グゲェ!」「ブゴッ……!?」「ギャァ!!」


――ボゴッ、グシャ、ドゴッ!!


「……す、すげえ……これなら、余裕で勝てる!!流石はSSRスキル持ちだ!!ははは!!」


と、その時。


「――……ッ!?」


フッ、と峰藤の魔力が急激に低下。


金色のオーラが霧散し、動けなくなる。


(……まだ、1分も経ってないのに……なぜ……!?)


峰藤は力が抜け、がくりと膝をついた。


「杏樹危ねえ!!!」


動けない峰藤に襲いかかろうとしていたオラボを、檜室が紙一重で鎖で凍らせた。ハンマーが頭に当たる寸前でピタリと止まる。


「どうした杏樹!?」


峰藤はふと何かに気がつき、手の平をみる。


「…………あれ……」


座り込む峰藤はただただ目を丸くし、呆然とする。






「………………私の……スキルが…………?」





【重要】

この先どうなるの?もっと続きが読みたい!ざまあして欲しい!と思った方は、ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★評価、をよろしくお願いします。


執筆へのモチベが上がり更新を頑張れますので!!m(_ _)m


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