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12 オラボの巣窟



『オラボの巣窟』11層、洞窟エリア。



「ゲギャ」「ギギ」「ギャギャ」


――凄まじいスピードで駆け寄ってくる小鬼。


「――『氷結創造』」


檜室は一瞬にしてその15匹のゴブリンを氷の鎖で縛り上げる。


「姫霧!」


「はあーいっ!」


元気よく可愛らしさを意識した返事。タクトの様な小型の杖を動けなくなったゴブリンの群れへ向け、


「――『ファイア』」


と、これまた可愛らしさ重視の口調で魔法を放った。


スキル【魔法ノ血《SR》】で強化されたその魔法は、低級魔法である『ファイア』を辺り一帯の地形ごと吹き飛ばしてしまうレベルの威力に昇華させた。


一体の生き残りもなく、消し飛んだゴブリンの群れ。


「よし、良いぞ姫霧」


「ありがとぅ、檜室くん!もっともっとがんばるね」


「……杏樹、姫霧に魔力供給を」


「はい、わかりました」


申し分のない魔法火力。だが、檜室は少しだけ不満があった。それは、姫霧の持つ武器がタクトだということ。大杖系の武器の方が強力な術式が付与されているものがおおく、タクト系より遥かに強い。


なので以前一度それに変えてくれと話したことがあった。


『これから俺たち『氷龍の刃』は、AランクやSランクダンジョンに挑戦する。そこに蔓延る魔物はこれまでのランク帯にいた魔物とは次元が違うんだ……だからもっと火力がほしい。大杖を装備してくれないか?』


『えー、大杖のデザインって可愛くないの多いもん。火力なら雷豪がいるし大丈夫だってえ』


当時、そして現在ではキャスター系シーカーの中でタクト系の装備が流行っていた。小型で持ち運びが楽、デザインも可愛らしい物が多く、なのでお洒落の最先端を走っている姫霧には火力よりも見た目の方が大事だった。


(……雷豪は、あれから連絡がつかないところを見ると、多分……おそらく、死んだんだろう。だからこれからは姫霧の魔法が火力面でかなり重要になる……なんとしてでも大杖に持ち替えさせないと)


今までの経験で檜室は理解していた。姫霧は優しくするとつけあがる……だから、下手にでてはいけないと。


(本来ならばおだて、その流れで話しを持ちかけたほうがいい……だがこの女にはそれが通用しなかった。この俺が気を遣い下手にでてお願いをしたにも関わらずだぞ。今思い出しても腹立たしい)


「……魔力供給、完了しました」


「ん。あんがと」


魔力供給が済むや否や、姫霧はふいと峰藤から顔をそむける。


(……あいつ、なんなんだ?杏樹に対して態度悪すぎるだろ……杏樹がこのギルドの要だとわかってないのか?)


この『氷龍の刃』は実情的には峰藤有りきのギルドだった。理由は彼女がいなければSランクダンジョンに入れないから。


Sランクダンジョンへ入ることが許されるのは、S級シーカーがいるパーティだけ。


(もし峰藤の機嫌を損ねたりして抜けられたら俺たちはSランクダンジョンに入れなくなる……そうなれば、再生数もフォロワーももう伸びなくなる……つまり終わるんだぞ!?)


姫霧はすれ違いざま檜室に微笑む。


「ほら、先にいこーよ檜室くん」


(……この女ァ……俺の気も知らねえで……)


怒りが弾けそうになる檜室。そんな彼を落ち着かせるように峰藤が肩に手を乗せた。


「氷河くん、早く行きましょう。遭難者の方が私たちのことを待っています」


「……そうだな」


この任務は政府から依頼されたシーカー捜索クエスト。数日前にこの『オラボの巣窟』を探索していた低ランクシーカーパーティが行方不明になっており、あるツテで檜室がこの依頼を取ってきたのだ。


『オラボの巣窟』はDランクダンジョン。


(こんな中級のダンジョンで遭難とか、どんだけの雑魚パーティだよ……けどまあ、数字になるから美味しいんだけどな)


どんどんと奥へと進んでいく。事前にシーカー協会へ提出されていたダンジョン攻略計画書を携帯でダウンロードし、それを峰藤が確認しながら彼らの足取りを辿る。


――1時間後。


「……あと1回の魔力供給が限界ですね」


3回目の休憩時、峰藤がそう告げた。


「え、まじでー?」


「……」


げげーっ、とオーバーリアクションでのけぞる姫霧。それはリスナーを意識したものだったが、檜室の神経をさらに逆なでする。


普段であればDランクダンジョンの攻略など1時間で終えて戻ってこられている。しかし今回はまだ奥地にすら到達していない。檜室は無駄に時間を浪費している原因は戦闘ごとの魔力補給、大童がいないことによる火力不足によるものだと思っていた。


(……まだ、26層……)


違和感があった。


(……魔力補給の時間、雷豪がいないこと……本当にそれだけか?なんか妙じゃないか?本当にそれだけで……)


「ねえ、どーする?もう魔力ヤバヤバなんだけど。私疲れちゃった」


あっけらかんと言う姫霧。檜室は彼女のバカさ加減に頭が痛くなる。


『あー姫霧ちゃん疲れたか』

『魔力ないと疲労が溜まりやすいもんね』

『ややw捜索してるんだからww』

『なんか軽いw』

『不謹慎』

『人の命かかってるんですが……』

『だめだよ姫霧!めっ』

『疲れたんだからしゃーなし』

『フツーにばかすか魔法撃ちすぎだろ』

『疲れちゃったとかwノリがピクニックww』

『遭難者がいるのにそれはなあ』


ドローンの上部にはホログラムウィンドウが出力されていた。そこに配信のチャット欄が映し出されている。


コメント欄が荒れ始めたのを目の当たりにして、姫霧が少し動揺する。


予想していたコメントの数々に檜室が「ああ、やっぱりか……」と思い、内心呆れ返る。


取り繕おうとする姫霧。


「……で、でも、待ってるからね!頑張ろっか!」


「しかし、私の魔力貯蔵庫マナタンクがもう尽きかけてます。もしもの時のヒール分の魔力を考えると一度戻って仕切り直した方が」


「はあ?何いってんの杏樹、そんなのダメに決まってんじゃん!だって待ってるんだよ!?遭難してる人たちがさ!」


「姫霧、やめろ」


「……っ」


檜室はここだと思った。このタイミングがベスト。チャット欄が姫霧に攻撃的になっていて、流れがきている。


「なあ、姫霧。そろそろ武器をタクトから大杖にかえないか?」


「は、はあ?なに、なんで……今そんなこと関係なくない!?」


「関係大有りだよ。大杖には術式が付与できる。その中には魔力消費軽減みたいなものもあるんだ。だからもし今回お前がタクトでなくその術式が付与された大杖を使っていた場合、まだまだ魔力を保たせる事はできたんだよ」


「そ、それは……そーだけど」


『あー確かに』

『あるね魔力消費70%減みたいなの』

『そもそもなんで攻略ガチ勢なのにタクト?』

『や、ほら大杖は重いからさ』

『姫霧かなりまえの個人配信でタクトのが可愛いから大杖は死んでも嫌とかいってたぞ』

『大杖じゃなくてベーシックなフツーのでもタクトより魔力効率あがるよな?』

『なんでタクトなん』

『大杖持とう?これからSランク攻略続けるならタクトは地雷だよ』


「――……っ、〜っ」


圧倒的なアウェー感。チャット欄の批判的なコメントしか見えなくなっていた姫霧。溜まりに溜まったストレスが弾けた。


「で、でも、さ……檜室くんはどうなの?」


「?、俺?」


姫霧のその口調に空気が変わった事を察する檜室。


「私ばっかり攻撃魔法で敵を倒してるもん!檜室くんは前線に行かないし、攻撃しないで援護だけだし!そりゃ私も魔力尽きちゃうよ!」


(……ちっ、あークソ女が)


「まて、それは違う。所謂、俺はこのパーティの『目』だ。戦況を後方から俯瞰して見なければ指示がだせないだろう」


「そ、それは、そーかもだけど……でも、でも」


もっともらしい事を言っているが檜室は内心焦っていた。なぜなら全ての戦いを観てきた人間には丸わかりなのだが、檜室はいかなる時も前線へは行かず、例え今のように遠距離アタッカーしかいなくても彼女らを前線へと配置する。


その理由は、死にたくないから。


檜室の能力【氷結創造】はSRというレア度だけあってかなりの性能である。創り出した剣はそこいらの名剣よりも切れるし、鎧や盾もちょっとやそっとでは破壊できない。


更に魔法などの魔力を放出しきるタイプの攻撃とは違い、氷で創り出した武器は破壊されず解除すれば使用した七割の魔力を回収する事ができる。


効率を考えれば明らかに檜室が前線に行き近接戦闘をする方が良い。


だが、遠距離ジョブよりも圧倒的死亡事故の高いのが前線の近接戦闘。わずかにもその可能性がある前線は檜室は絶対に嫌だった。


(……万に一つも死にたくねえからな)


魔力を必要以上に残しているのは、いざという時魔物から逃げ切るため。前線に姫霧のような奴を最低でも一人置くのはいざというときそいつを囮にするため。


自分より後方に峰藤を置いておくのは、彼女がいなくなってしまうとギルドの損害が計り知れないから。


(……ネット掲示板ではその手の推測、考察の噂がわんさか出ている。それは一部の人間に知られている紛れもない俺の本性。だが今のところ決定的な証拠はない……そして、当然これからもこの戦い方を辞める気はない。価値の低い奴を犠牲に価値ある奴を生かす。これが適者生存……俺のような優秀な天才を生かすために姫霧のようなバカは死に、淘汰されても仕方ないんだ)


――……だが、このままでは流石にイメージが悪いか……仕方ない。


「姫霧、これを」


檜室は腰のポーチから小瓶を取り出し姫霧に渡した。


「……え?これ、『魔力液ポーション』?」


「ああ。緊急事態の時のために持ち歩いているやつだ……さっきは言い方が悪かった。ごめん。確かに遭難者の方が今もつらい目にあっているんだよな。姫霧の憤る気持ちを理解して無くて済まなかった」


「え、あ……ううん、こっちこそテンパって、変な事言ってごめん」


(あー、バカちょれえーーーー!!!この女ちょろすぎてウケるわ!毎回ちょっと甘い顔すりゃこれだよ!簡単にヤレル女代表だよな、こいつ……まあ、食ったら後が面倒だから食わねーけど)


「……えっと、それじゃあ先に進むって事でいいのかしら、氷河くん」


様子を見ていた峰藤が口を開く。


「ああ。『魔力液ポーション』はまだいくつかあるから、大丈夫だ……遭難者の方を早く助けてあげないとだしな」


檜室が姫霧へ目配せをし、微笑む。


「……うんっ」


(あはっ、なに頬染めてんだよwバカ女ワロタww)


そうしてふたたび奥へと歩き出す峰藤と姫霧。檜室は一応ポーチの中にある『魔力液ポーション』の数を確認した。


すると3本しか入っていない事に気がつく。いつも必ず15本は入れているはずだが、と記憶を手繰る。


(……あ、そうか。いつもは椎名に減ったら補充しとけって言ってたから)


椎名を追放したあの日から今日まで簡単なダンジョンしか行かず、『魔力液ポーション』を使うことはなかった。なので最後に使用したのは椎名が居た時であり、それ以降は減っていることにも気が付かず、椎名が居ないため使用分も補充されてないまま。


「……フン」


(……ま、3本ならどうにかなるだろ……ここDランクダンジョンだし)


他のアイテムもかなり減っていて普通ならダンジョン探索を中止するレベル。だが、ここが難易度の低いダンジョンであること、自分らが高ランクシーカーである事が手伝い、己の中に湧いたわずかな不安を檜室は掻き消した。


二人の後を追い、歩き出す檜室。




『後ろ後ろ!!』

『気づけー!!!』

『やばい』

『きてる!』

『檜室くん後ろー!!』

『今度はお前がぼーっとしてるんかいww』

『死ぬぞ』

『これトラップじゃね?』

『協会に通報したほうがいいやつ』

『下手したらやばい』




【重要】

先が気になる、もっと読みたい!と思っていただけたら、ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★評価、をよろしくお願いします。執筆へのモチベが上がります。

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