剃刀 神寳聖の日誌
聖は手術室で薄眼をあけて観察していた。これから起こる自身の危険度が何%在るのか!剃刀を手に女が近づいてきた。
剃刀…
記憶の果てに聖は手術室で麻酔を打たれ眠っていた。……冷蔵庫の中でじっと待っていたあの日…養父の紅葉に発見されなければあのまま…干乾びて朽ち果てただろう!そんな夢を砕く様な物音が忍び寄ってきた。
カーテンの陰に2人の人物がいる。話し声や動きから推測すると男と女らしい。暫くカーテンの向こう側の世界を影絵の観客となり観劇してみようではないか。
女は抽斗から鋭利な剃刀を取り出すと刃先を入念に調べ聖の患部を睨んだ。
聖は女が何を考えているのか理解できずに呆然としてしまった。
女は厳かにだがかなり命令調に聖に囁いた。
………あなたの陰毛を剃らせてくれる。私達が本当に信じあえるなら私の持つ剃刀に恐怖心は起こらない筈だわ!
聖はベットで仰向けに寝て眩しいライトに反射する女の持つ剃刀に一瞬躊躇った。
愛という形式を信じる者なら女にこの場で切断されても構わない。
聖は女の眼を見つめ信じようと努めた。この女なら全てを任せてもと思えた。
究極という言葉がある。究極とはなんであろうか。
それは絶えず死を覚悟する事から始めるのではないか!
剃刀が手許から一瞬でもずれれば即生命の危機という問題点が生じる。
この時点で聖が女の剃刀に一瞬でも恐怖心を抱いたら。
聖の信じる愛の永劫性は不変とはならなかった。
剃られた後に比較出来ない程の融合を分かち合えるならと聖は幻想の尾を追った。
だがはてよ……太腿のおできを切除するのになぜ陰毛迄剃られるのだろうか!
空き地に放置された冷蔵庫に捨てられた運命を持つ神寳聖は養父紅葉に暖かく育てられた。ある日…突然体内から産まれた異変に手術する運びとなる。