3話
事務所に戻った冴木は、茉莉花を呼び出し、調査の進捗を伝えた。
「親友とボディーガード、どちらも動機としては弱い。だが、確実にシロだとも言えない。」
「じゃあ、結局どうするの?」
苛立った様子で尋ねる茉莉花に、冴木は冷静に答えた。
「次は、不動産屋を調べるつもりだったが……必要ない。」
「え?」
「合鍵を管理しているのは、不動産屋全体だ。特定の誰かが担当しているわけではない。だから、不動産屋の人間全体が容疑者になる。しかし、これ以上の外部調査は無駄だ。」
冴木はテーブルの上に手を置き、茉莉花をじっと見つめた。
「答えはここで出す。とにかく俺の言う通りにしてくれ。方法はこうだ──」
冴木から犯人を捕まえる手口を聞いた茉莉花は驚いた。
「そんなの……本当に危なくない?」
「心配するな。」
冴木は不敵に笑う。
「俺に任せろ。必ず捕まえてやる。」
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深夜1時、茉莉花の部屋。
冴木はカーテンの影に身を隠し、じっと部屋の様子を伺っていた。茉莉花は別室に避難している。部屋の中は薄暗く、静寂に包まれている。
「……来るはずだ。」
冴木は耳を澄ませ、息を潜めて待ち続けた。
そして、1時30分を過ぎた頃――。
ガチャリ。
静寂を破るように、玄関の鍵が回る音が響いた。冴木は音の方向に目を向ける。
ゆっくりと玄関のドアが開き、黒い服を着た人物が忍び足で部屋に入ってくる。その手には、確かに合鍵が握られていた。
「……そこまでだ。」
冴木はライトを点け、低い声で侵入者に声をかけた。
「な、何だ!」
侵入者は驚いて鍵を落とし、顔を覆おうとする。だが、その素顔は明らかだった。
「不動産屋の仲介人……だな。」
冴木は彼を睨みつけながら問い詰める。
「お前が合鍵を使って侵入し、この部屋を物色していたんだな。」
「ち、違う! 俺はただ、彼女が心配で……。」
男はしどろもどろになりながら弁解するが、その声は震えている。
「嘘をつけ。証拠は揃っている。」
冴木は警察に通報し、男を現行犯逮捕させた。
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第三節: 事件の真相とトリックの解明
翌朝、茉莉花の部屋で警察の調査が終わると、冴木はソファに腰を下ろした。茉莉花が不安げに近づいてくる。
「結局、あの人が犯人だったのね……。でも、どうして分かったの?」
冴木は少し笑みを浮かべながら、ゆっくりと答えた。
「消去法だ。親友もボディーガードも、それぞれ鍵を持っていたが、動機としては弱かった。」
「……どうして?」
「親友は、お前に嫉妬はしていたが、部屋に侵入して何かをするほどの執着はない。ボディーガードは……少し特殊な事情があるが、彼女の使命感がその行動を否定していた。」
「彼女……?」茉莉花が驚いたように言うと、冴木は小さく頷いた。
「そうだ。ボディーガードは男装していたが、実は女性だ。」
「えっ、嘘でしょ?」
冴木は軽く肩をすくめた。
「男装していたが、ネクタイを直す手の仕草や、腕時計の細身のデザインから分かった。普通、そこまで外見を整えるのは女性らしい心理だ。」
「……全然気づかなかった。」
「お前が気づかないのも無理はない。だが、それを知ったからと言って、彼女が犯人というわけではない。それが決め手になった。」
冴木は立ち上がり、ドアの方を指差した。
「だから残るのは、不動産屋の人間しかいなかったんだ。」
茉莉花はようやく全てを理解したように頷き、安堵の息をついた。
「……ありがとう。冴木さん、本当に助かったわ。」
「礼はいらない。ただ、これからはもう少し気をつけろ。」
冴木は軽く手を挙げて部屋を後にした。
(完)