お月見と兎
白い壁に白い床、白いベッドに白いお布団、病院の一室で二人の子供がベッドに座って窓の外を見ていました。
今日は中秋の名月、まんまるで大きなお月様が窓の外に綺麗に光り輝いて見えています。
「お月様にはウサギがいて、お餅をついてるって本当かなぁ?」
女の子が月を見ながら不思議そうに言いました。
「ウサギさんがついたお餅って、どんな味がするんだろう? 食べてみたいなぁ」
女の子の隣に座った男の子が楽しそうに言いました。
「今はお母さんが買って来てくれたお団子で我慢だね」
「うん。いつかウサギさんがついたお団子を食べようね」
そう言って二人はお皿の上に並べられたお団子を一つずつ取ってぱくり、と食べます。
「そう言えば、お母さんが教えてくれたんだけど、こうしたらウサギさんになるんだよ?」
男の子はそう言うと、影絵で兎を作ります。
「わぁ、本当、ウサギさんだぁ。私もウサギさんする!」
女の子も影絵で兎を作ります。
二人は影絵で作った兎を跳ねさせたりお耳をぴくぴくさせたりと遊びます。
「本物のウサギさん、いつか見てみたいね」
「うん! 本物のウサギさんと遊びたい!」
二人がそう言って遊んでいると、ひと際強くお月様が輝いて、不思議なことが起こりました。
なんと影絵の兎がモコモコと盛り上がって、ふわふわの綺麗な白い毛並みの、赤いお目目の兎さんが現れたのです。
「わぁ、ウサギさんだ!」
「ウサギさん、可愛い!」
突然現れた二匹の兎さんを二人は喜んで抱っこします。
兎さんは大人しく二人に抱っこされて、鼻をひくひく動かしたり、お耳をぴこぴこと動かします。
「ふわふわだね」
「あたたかいね」
ふわふわの毛並を撫でて、その温もりを感じて、二人はとても嬉しそうにしています。
そしてそっとベッドの上に兎さんをおろすと、ぴょこぴょことお布団の上を跳ねまわったり、追いかけっこをしたりしてじゃれあっていました。
「ぴょこぴょこして可愛いね」
「仲良しさんで可愛いね」
そうして兎さん達と遊んでいてはしゃぎ疲れたのか、二人のまぶたがとろんと下がり始めます。
「眠くなってきちゃった……ウサギさん、お休みなさい」
「お休みなさい、ウサギさん。また遊ぼうね……」
そう言って優しく兎さんを抱っこして二人はお布団に入ります。
それから暫くして、兎さん達は二人が寝静まるとそっと腕の中から抜け出して、二人の身体にお布団を咥えて動かしてきちんと掛けてあげました。
「……、……(ふんふん、ぱくっ)」
「……、……(すんすん、ぱくっ)」
兎さん達はお皿に乗ったお団子をお鼻をひくひくとさせて匂いを嗅いで、一つずつもぐもぐと食べてお月様の光の差し込む窓際へとぴょんぴょん向かい、そーっとカーテンを閉めました。
「むにゃ……ウサギさん」
「ウサギさん……すぅすぅ」
それから兎さん達は子供達の方を振り返り、すやすやと良く眠っているのを見るとふわっと小さな光になって消えていきました。
月の遣いの不思議な兎さん達、まんまるお月様が綺麗な夜に、また会えるといいですね。