強さとは 何か
彼女は構えを解き、空へ振り返る
「どうだ、視えたか?」
空「………」
「戦場にいた時、どこからか“あの”音が聴こえた。
何故だろうな、あれだけ周りがうるさかったのに
私にはすっと耳に入ってきた。
私は戦いを忘れてその姿につい魅入ってしまった。
一見したら、線が細くて弱そうな人だったんだ。
それなのに、その背中は…
まるで鷹の翼のように何倍も大きく、大きく見えた
戦いの最中でも綺麗な射型だったその人が言うには
強き者ほど“それ”は視えてしまうのだという」
空「は?」
「あれをあなたは視えたというのなら、あなたには少なからず、その強さがあるということだ」
空「どういうことだ?強い者ほど視える?」
しばらく、空と海音は見つめ合う
海音は苦しそうな表情で話す
「だが、焦り…、悔しさ……、そんなものを込めた矢ではケモノを倒せる訳がない」
空「なっ!?お前には分からねぇだろ!
周りがどんどん上手くなってるってのに、俺だけ
弱いまま!それがどんなに辛いかっ!!」
「あなたの言う弱いとは矢が敵に当たらなかったことか?的に当たらなかったことか?」
空「バカにしてんのか??」
空は弓を地面に投げ出し、荒々しい音を立てながら近づき、海音の胸ぐらを力強く掴む
空「お前はいいよな?あんなに強ければ、弱いやつのことなんか気にもしないだろ!
どんなに頑張っても!強くなかったら意味がねぇんだ!」
ザァザア、ポタポタッ
ひと呼吸置いて、雨音が耳に入る
今の感情を表すかのように雨が地面を叩きつける
先程よりも一段と周りの景色が暗くなっていた
「……強くても辛いままだ」ザァザア
「いくら強くなったって……
強さだけを追い求めたって……お前の心は辛いまま
周りの人を倒しても……強い敵を倒しても……。
倒して強くなっても“その時”は一時的なもの
すぐに心が苦しくなる……
外側だけ強くつくっても、辛いものは辛いのだ」
空「……」