強さとは 武力
青海さんの話を聞いて皆、それぞれ思うことが
あったのではないか
合同訓練が終わり、各々がまた技術磨きに
力を注ぐ日が過ぎる
雲行きが怪しく、遠くの方から雨音が近づいているのを感じながら、暗い武道場で音が響く
バァーンッ
「ハァハァ……もっと強くならなきゃ」
ダァッ
(なんでこんなにも出来ないんだ!
みんなはできてたのに……
また、あの時と同じことが起きたら
俺1人じゃ、矢が敵まで届かないっ!)
「ハァハァッ」(ドクンッドクンッ)
自分の心臓の音が激しく頭の中を駆け巡る。それにより考えていたことが積み重なって、黒い霧が全体を覆う。はぁ…はぁあ……思うように息が吸えない
苦しいっ…苦しい……! どぷんッ ゴボボッ
あぁ、沈んでく……
前にもあった
一緒に弓を始めたのに、周りがどんどん先にいく
自分でも分かってる これは劣等感だと
俺だって頑張ってる、頑張ってるんだ!
なのに、目に入ってくるのは友達の背中
みんなは「お前は凄い」っていうけど
凄いって何?
凄いなら何で俺は友達の背中を見てるんだ?
どんなに頑張っても縮まらない差
どんなに、どんなに頑張っても
暗い靄がねっとりと絡みついてくる
はぁ 何で俺、弓なんか始めたんだっけ?
「顎を引いて、お腹に力を入れてみて」
彼はハッと驚き、声のする方へ顔を向ける
「力み過ぎる。それでは倒せるモノも倒せないし
当たるモノも当たらないよ」
空「お前…なんでここに?」
「………乱れた音が響いていたから」
空「はっ、別にたくさん打ちまくったら呼吸も乱れるだろ」
「それとは別……。人によって発する音はみんな異なるんだ。その中でも、“思い”が籠った音は響きやすいんだよ」
空「………」
空は海音に構うことなく弓を構え、弦をゆっくりと引く。彼女の2つの眼は動かすことなく、ただ1点を見つめる
ダァアーン
「やっぱり、少し重心が後ろのよう「うるせえよ!」
ポタッ……ポタッ
まるで、誰かの気持ちを表すように
ぽつりぽつりと悲しい涙が空から流れる
空「お前に弓をどうこういわれる筋合いはねぇ!
弓もろくに扱えないやつが言うな!!」
空は弓で空気を振り払いながら、彼女へ向かい合う
海音はゆっくりと空へ近づき、傍にある
予備の弓と矢を持ち、“構える”
それは流れるような一連の動作だった
雨音がその場の熱を冷ますように、落ち着いた音を響かせる
カァッーンッ
(………綺麗だ)
彼女の中心から音の波紋が広がる
内側から溢れる荒波のような煩い音が
その波紋によって波が引くかのように
徐々に穏やかで落ち着いた音へと変わっていく
―――
まるで……
暗い闇の中を切り開くような一筋の光の道
温かい…けれど力強く照らしてくれるような
傍に寄り添ってくれるような優しい温かさを
思わせる
そして、
思わず皆が空を見上げ、微笑むような
そんな気持ちになってしまう
あれは……
あの気持ちを……なんていうのだろうか