大事なものはここに
「……あ……ぁあ」
涙が止まらなかった
喉の奥が焼けるように痛く、胸が潰れそうで、息をするたびに身体の奥から嗚咽が込み上げてくる。
(取り返しのつかないことをやった…。
わ、私の手で!!私の手で、皆を傷付けちゃった)
血で染められた真っ赤な自身の手のひらを見る。
生ぬるさを宿し、先程の感触はまだ消えてはくれない
<お前なんて、バケモノだ。
恐ろしいバケモノだわ。>
皆が言っていた言葉が頭の中でこだまする。
(あぁ……私ってバケ――
「ミオ!」
頬に優しく触れる手が私を呼び止めた。
「ミオ、怖かったな。もう大丈夫だ
俺ァが傍に付いてるからな、安心しろ。なぁ?」
「血……グスッ……血が…グッ
ご、ごめ……グスッ…な、さい」
「なぁに、こんなもん痛くねぇ
全然、痛くねぇぞぉ!」
琉おじさんが努めて笑顔を見せる。
頬に触れる手は‘’大丈夫‘’と言うように力強くなった。
「ウッ…わたしなんて!
グスッ……バケモ」
「俺ァ怒るぞ」
目を逸らさずに言った
その低い声に、私は思わず言葉を飲み込んだ
「いくらお前でも、
大事なもんを傷付けることは許さねぇ」
泣き続ける私をギュッと琉おじさんは抱きしめた。私はバケモノだと思う自分に、
琉おじさんは怒ってくれた。
「お前はちびの時から俺の後ろを嬉しそうに付いてきやがって、世話ばっか焼くし、ちいせぇ手を握らなきゃ危なっかしいし。挙句の果てには俺からの安っぽい贈りもんまで大事にしてくれたりよぉ。お前はなぁ、優しい子なんだ。お前にはあったけぇもん、たっくさん貰ってんだ。俺ァ嬉しかった。」
<琉おじさん、待ってよ、そんなに速いと転んじゃうよ
ああ?おっせぇなぁ。ほら、手出せ。
これで転ばねぇだろ
ふっ、小せぇ手だなお前は。まだまだちびだな>
何気ない、ちっぽけな光景が溢れ、胸の奥からじんわりとした温かさが広がっていく。
「だから、
“お前”が俺の大事なもんを傷付けたら許さねぇぞ」
「?!う、グスッ…うん」
より強く抱き締めながら言う
「俺ァ、お前のことを大切に想ってる。
“ミオ”お前に大事なもん、託したからな。
大事な名前……勝手に捨てたりしたら許さねぇから」
その言葉が、強く、深く胸に突き刺さった
「……琉おじさ」
突然、琉おじさんは糸が切れたかのように、身体が力なく横に倒れた。私から離れた琉おじさんは息がだんだんと弱くなっていく。その時
チクッと私の首に何かが刺された。それから、視界がぐらりと歪み眠たくなっていく。数人の手により私の身体は抑えられていく。
「…琉、おじさん!だめ…死なないで……生きて」
私は床に顔を押しつけられながら、叫ぶように言った
「……だいじょうぶ…だ。
はなれ…てても、俺ァ傍に居る」
その声は、かすれていて、
今にも消えそうで、
それでも、確かに、私を包み込むように響いていた。
――その言葉を最後に、
私の意識は、暗闇へと沈んでいった。




