血飛沫
皆が配置に着いたのを確認し、右大腿部にある
ナイフホルダーからすっと刀を抜く。刃に写った自分の目と目を合わせる。そして、うっすら血管が見える腕に刀をあてがえ、躊躇うことなく引いた。
体感的にほんの数秒だった痛みが過ぎた後は、綺麗な雫が地面へと吸い込まれていく。身体の持ち主は流れる道を塞き止めることはせず、周りの気配を探っていた。
グォガガァァアア
鈍い音が空気を伝わり、身体を震わせる
ゆっくりと大地を揺らすようにアレは近づいてくる
ゴォグァアアア
昔の人々は奴らを畏れ、
祭りごとではこう伝えられた
<暁色の月が登りし時、我らは静かに祈るべし
闇夜に浮かぶは血に染まりし緋色の瞳
銀白色を身に纏うは強き鬼の証
その名は “畏死鬼”
数多の者を殺めし鬼来たる
畏死鬼の通るは暗き闇ぞ
見てはならぬ
言うてはならぬ
聞いてはならぬ
命が欲しくば ただ 我らは祈るのみ>
……
彼の音聞けば紅き心の臓が乱れ
声を発すれば紅き眼に捉えられ
見すれば辺り一面、紅き花が咲く
……
普段は闇に紛れるために黒い姿をしているが、
紅月ノ夜になると身体が銀白色に変化し、毒性が強まる。しかし、稀にだが圧倒的な強さを誇るケモノは紅月ノ夜でなくとも白い姿となるという。
その強すぎる毒は草木を枯れさせ、あらゆる命を奪うと本に記述されている。何千年もの昔から、周期的に訪れる夜に怯え、大飢饉にあったかのような甚大な被害を奴らはもたらしてきた。
抗う者達も現れ、多くの畏死鬼と鬼人大戦と呼ばれる戦いを繰り広げたが、畏死鬼の強さから彼らは無力だった。そして、戦いの後では勇敢にも戦った者達の、血で折り重なってできた黒い光景を見るしかなかった。
奴らが与えた恐怖は、今もなお雑草のように根を張り続け人々の心の奥に埋まったままである
か、感想とかあれば教えてください
何かあれば、改めますし強みになります
読んでいただけで、あ、ありがとうございます