感じれぬ寂しさ
満足した顔で店内から出ていく。それから、俺たちは色々なお店を見て回ってもう一度、カフェで小休憩を挟む。
テラス席で街ゆく人々を見ながら、カフェオレを頂く。こんな風にゆったりできるようになったのは、6年前、俺たちが12歳で出会ったときからだ。
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身体にケモノの要素である筋力、俊敏性などが出現し始め、身体付きも男女と明確に分かるようになり、周りより強く秀でた俺たちはお互いの気持ちも関係なく、“番い”になった。より強い遺伝子を生み出しケモノとの戦いで勝つため、肉体的な関係を結べと上からの圧力が掛かった結果だ。いくら武力を高めようとも、使う肉体が弱ければ無駄だと上は考えたのだろう。歳が経つにつれ、その圧力は強くなるが、強制的にヤれとは言われない。それもそのはず、俺らが殺ろうと思えば上のヤツらなんか、簡単に殺れるからだ。それを分かっているのか、迂闊に手は出してこない。しまいには他の人達にも番いを組ませるほど、上は躍起になっている。なぜ、そこまでするのか。そんなことをしても、今だ前例がないのが理由だ。皆、戦いの中で死ぬか、彼らが強すぎる毒を持っているが故に交わったとき、微量でも毒性が弱い方が死ぬか、うまく目交ったとして産まれてくる子が短命で、戦える年齢まで成長できていないからである。目の輝きは失われ、体温が急激に低下し、毒によって細胞が破壊され、身体能力が高く強いものは最後に塵になる。
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最初の頃は初めてみるもの、感じるものばかりで浮かれていたのを思い出す。あの時、はしゃいでいた俺より、落ち着いていた君は今も変わらず、俺の目の前にいる。幾千の戦いを切り抜けてきた中で、それが、どんなに嬉しいことか君には分かるのだろうか
何回か会って行くうちに、俺は気づいた。
人に怖がられず、近づけたことに喜ぶこと
周りの女の子と同じように可愛いものが好きなこと
美味しいものには目がなく、特に甘いものが好きなこと、他にもたくさん気づいた。
そして……
「ママ、パパ、今度はパンケーキ食べたい」
「しゅんには全部食べれないんじゃない?」
「いいや!しゅん!男なら食べれるよなぁ」
「おとこなら食べれるよ!」
笑顔溢れる家族の話
男の子の右には優しいお母さんがいて
左には頼れるお父さんがいて
みんなで仲良く手を繋いで歩いてる
そんな暖かい姿をどこか……
寂しげに見つめる君がいること
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俺を始め、他の人達は守人に選抜されて志願してきた者たちが多い。それと、少ないが戦いに見込みのある身寄りのない者たちだ。出陣し、ケモノを倒すだけで生活には困らない最低限度のお金や生活が保証される。俺にも家族がいるが、エリアが異なるので滅多に会えていない。家族を養うために、俺は志願した。
そして、彼女は後者の方だった。孤児だ
昔、もうすぐ天エリアに移行するであろう魅陰エリアで異例のケモノが発生した。当時は戦闘服を始め、武器などは機能が弱く、ほとんどの新型は試験段階だったため、今のような戦い方が出来ず、 多くの犠牲者を出した。
そのエリア内で1匹のケモノの死体と折り重なるようにして倒れていた、かろうじて人と認識できる者の傍で、彼女は隠れるように身を縮ませていた。自分が生き残りたいがために置いてかれたような彼女は、幼い体には耐えれない恐怖心によってその時の記憶を失っていた。彼女がいた場所、彼女の身体的特徴などから、親を探してみたがエリア内ではどこも似たような状況で見つけられなかった。
だからなのか、大人な身体へと成熟している姿とは裏腹に、家族への寂しさが時折、顔を出す。そんな姿を俺は横でただ見るだけしか出来なかった。
――
「じゃあ、またな」
名残惜しそうな顔をする彼
目を合わせると、暖かい表情を見せる彼と別れ、
自室へと戻る。枕元には比較的、真新しいくまさんの先輩達が並んでおり、そこへ新入りのくまさんを優しく置く。
私の私だけの空間、みんなに囲まれると少しだけ、ほんの少しだけ寂しさが紛れるの。