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魔法少女の食道楽  作者: 石田空


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久々の自宅

 お兄ちゃんと梅子さんは大丈夫だろうか。そもそもうちの家にあった私の自室大丈夫だろうか。そう思いながら「ただいまー」と帰ると、お母さんが「お帰りなさい」とつやつやしていた。

 私が最後に大学進学で見たときは、鶏がらっぽくなってしまった。体質に合って医者に勧められながらヴィーガンやベジタリアンを続けるならともかく、自己流でやったら肌からコラーゲンが消えてしまうため、そりゃ鶏がらっぽくなってもしょうがないのだけれど。

 今のお母さんは鶏がらというにはつやつやもちもちしている。

 私は思わずお父さんを見た。お父さんは私が家を出てからも連絡はときどき入れていたけれど、どんな食生活を送っていたのかは知らない。


「今日は久々にお兄ちゃんと奈々が帰ってくるというから、張り切って料理してたのよ」

「料理……」


 小さい頃から食べていた、健康にいいからと進められた謎の料理が頭をよぎる。

 青臭くって苦まずくってリンゴジュースで割らないと飲めないアロエジュース、動物性タンパク質が一切入ってないせいでサラサラ通り越してシャバシャバのスープカレーと呼ぶのもおこがましいカレーライス、体にいいから食べろと言われたよくわからない雑草のサラダ……。

 自然とカタカタ震えていたものの「奈々、奈々」と手を振られた。

 お兄ちゃんと梅子さんは、普通に料理を食べていた。


「母さんの料理、めっちゃ美味いぞ」

「ええ……」

「いや、本当にお義母さんの料理おいしいですよ」


 なに。ふたり洗脳したの?

 私がまだ震えてる中、お父さんは教えてくれた。


「お母さん、チートデイを覚えたから」

「……はあ? チートデイって、ダイエットの?」


 ダイエットで、食事制限は基本だ。油を摂り過ぎないよう、糖分控えめにするようっていうのは、基本中の基本。でもそれでストレスが溜まってドカ食いしたら本末転倒だからと、週に一度のダイエット休みが推奨されていることが多い。それをチートデイと呼ぶ。

 でもお母さんの無理な菜食主義は……。

 お父さんが続けた。


「基本的に、肉や魚でないと摂れない栄養があるから、最低でも月に一度は普通のものを食べたほうがいいと、説得して。実際に母さんもうちのんが皆独立してから風邪引きやすくなってたから、どうしたらいいかと病院で相談して」

「あー……つまり、病院でお医者さんに普段の食生活のことを言ったの?」

「言った言った。普段野菜ばかり食べてると言ったら、『野菜も食べるもの選ばないとお腹が冷えるばかりになるから駄目』『そもそも量を摂らないと栄養にならないものもある。生野菜はほとんど水分。ちゃんと火を通して量を摂れ』『そもそも肉と野菜の脂がないと野菜の栄養の中には摂れないものもあるから、無理に毎日食べなくてもいいから食べられるときに野菜と動物性タンパク質一緒に摂れ』と、結構長めの説教をされて、思うところがあったらしくって」


 よかったああああ……!

 うちのお母さん普通に病院に言って素直にお医者さんの話は聞くタイプで本当によかったああああ!

 なによりも、うちの家の微妙過ぎる家庭不和が、こんな形で解決するとは思ってもいなかった。

 出されてた料理を確認してみたら、白身魚のワイン蒸しに、大根とカニカマと三葉のサラダ、スープはきちんとブイヨンの味がすると、感動しかしないラインナップだった。


「お母さんが……出汁摂ってる……」


 野菜の旨味だけでつくったスープというのは、よっぽど大量の野菜を使わないと、旨味なんてものは存在しない。ポタージュだって野菜をどれだけ使ってるんだって話だ。とてもじゃないけれど飲めたものではなかったから、私はただただ感動していた。

 お父さんは半笑いだった。


「今ってスマホで料理検索できるから」

「……あの、スマホって大丈夫なの?」


 私はひっそりと聞いた。スマホの変な動画を見て、また質の悪いヴィーガンをこじらせたら困るからだ。

 それにはお父さんはきっぱりと言い切った。


「チートデイの料理しか検索してなかったから、お母さんの動画一覧は基本的に料理しか出てこないよ」


 全国の料理系動画主の皆さんありがとう。本当にありがとう。

 おかげでうちの料理まともになりました。

 どこかでお布施ができそうな人たちには、ちゃんとお布施を出しておこうと、そっと心に誓った。


****


 久々の自室は、普通に掃除がしてあり、ベッドもシーツが張り替えられていた。私はありがたいと思いながら、バフンとベッドに転がった。


「……久々のおいしい家庭料理だった」


 いわゆる味噌汁と野菜炒めみたいな家庭料理は、食べた覚えがなかった。野菜炒めはなんか変な味がしたし、肉っけだってない。味噌汁は出汁が入ってないから豆腐と味噌とお湯の味がして、ただただ塩辛かった。

 だからネットのよさげなものをそのまんま真似しただけなんだろうなというメニューであったとしても、私にとってはそれが充分おいしかった。お風呂の時間までゴロゴロしてようかと思ったところで、扉が叩かれた。


「はい」

「奈々?」


 お母さんだった。私はガバッと起き上がる。


「はい!」

「開けていい?」

「どうぞ!」


 お母さんはのほほんとした顔をして、中に入ってきた。


「びっくりしたのよ。お兄ちゃんが婚約者を連れて帰ってきて。それに……あの子体型ずいぶん変わってて」

「あー……家出してから鍛えたって言ってたよ。そのせいで、もろもろ治ったって」


 単純に足りてなかった栄養補った途端に元気になったんだから、なんとも言えない。お母さんを傷付けるのもなんか違う気がするし。

 私が遠回しにそう言うと、お母さんは頷いた。


「正直、お母さんも意固地になってたことがあったから」

「ええ?」

「家族が誰も料理食べてくれないの。お母さん、はっきり言って料理そこまで好きじゃないし」


 それ今初めて聞いたなあ。お母さんは私の部屋のカーペットに座るので、私も隣に腰を落とすと、お母さんは続けた。


「書いてた本で、唐揚げは体に悪いってのを真に受けて、それっぽい料理ばかりつくってたからね。そのせいでお兄ちゃん家出するし、奈々も帰ってこなくなると思わなかった。うちのお母さんも仕事が忙しかったから、パパッとできるものしかつくらなかったし、そんなものだと思ってたから、まさか料理が原因で家庭がギクシャクするなんて想像もしてなかったのよ」

「あー……」


 うちの亡くなったおばあちゃんは、早くに母親を亡くして、大叔父もひとりで育てた程度の仕事人間だった。だからおばあちゃんの家に行っても、あんまり手料理を食べた覚えがなく、いつも店屋物を頼んでいたと思う。

 うちの場合、お母さんのご飯がまずかったのを、お父さんが気の毒がって、休みの日に私とお兄ちゃんを連れてファミレスでお子様ランチとかを食べさせてくれてたから、ご飯に対して執着ができたんだろうなあ。

 これは誰かが悪かったという話ではなく、ただただ運が悪かっただけの話だ。


「私、お母さんのこと好きだよ」

「奈々?」

「お兄ちゃんも自分のせいで家がおかしいって思い詰めてたけど、お母さんの料理の話を聞いたら、考えを改めると思うし。それにお医者さんがいてくれてよかった」


 そのお医者さんが説教してくれなかったら、お母さんが体を崩していたかと思うと、本当に感謝するしかない。

 それにお母さんは笑った。



「沿うかもしれないね。ところで、奈々はいい人いないの?」

「いるけど。向こうも多分結婚を前提でお付き合いしてくれているんだろうけれど、いきなり家に遊びに来てと言っても困ると思うよ。多分話は聞いてくれるとは思うけど」

「あら、奈々もなの……それは楽しみね」


 そう言ってお母さんは笑った。

 そのことに私は心底ほっとしたんだ。中途半端に喧嘩したままだったら嫌だし、立川さんのことを紹介もせずに勝手に結婚するのも後ろめたいし。

 多分、これでよかったんだ。

 それにしても……。

 お風呂をもらって部屋に帰り、寝ようとしながら考え込んだ。


「魔法少女って、そもそも寿退社できるものなの?」


 その辺りはさっぱり知らないんだ。

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