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魔法少女のお仕事

「たしかに若返りますけど……魔法少女がなにをなさるかご存じですか?」

「全然」

「闇妖精の闇を祓って欲しいんです。このカレイドタクトで」


 そう言いながらネズミとウサギの合いの子は、ポフンと前足を叩くと、タクトを取り出した。バトントワリングに使うようなバトンにピンク色のリボンが付いている。


「カレイドタクトに向かって、『カレイドスコープ、オープン』と言えば、変身できます」

「ふうん、わかった」


 日曜朝のアニメとだいたい理屈は同じだ。そう納得していたところで。


「ギャアアアアア!!」


 おじさんの悲鳴が響いた。


「なに!?」

「闇妖精です! 闇妖精は、夜闇に紛れて行動して、生き物に取り憑くんです!」

「具体的になにに取り憑くの!?」

「野良猫や野良犬、ドブネズミです!」

「ドブネズミは困るなあ……野良犬も怖いし。でも野良猫だったら可哀想かもな。わかった」


 私はタクトをクルンと回した。


「カレイドスコープ、オープン!」


 途端にどこからともなく、ポロンとハープのような音がした。光が溢れてきて、私の体がどんどん華奢になっていくのがわかる。

 地味な通勤スーツが消え、代わりにピンク色の布地にレースがたっぷりとついたドレスに替わり、靴も通勤用の低ヒールのパンプスから白いブーツへと変わる。

 なによりも。面白みのない日本人髪のショートカットが、金髪のふわふわとしたロングヘアに変わるのが面白かった。これだけの長さは傷まないように伸ばすのは相当の労力がかかり、社会人では無理だ。


「それではカレイドナナ、みんなを守って!」

「そういうあなたはなんて呼べばいいの?」

「リリパスです!」

「はい。それじゃあ行こうか」


 若返ると毎日なんとなく疲れている体もしゃっきりとし、元気に走ることができる。リリパスを肩に乗せて走っても息切れしない。若いってすごい。

 私はうきうきした心持ちで、闇妖精の元に走って行くと、私と同じく帰宅ラッシュで捕まった人たちが逃げ惑っているのが見えた。

 そして路地裏から出てきたのは、黒いオーラをまとった大きな……。


「……虎?」

「闇妖精ですよう。闇妖精に取り憑かれて、犬が虎の大きさに見えるくらいに邪悪なオーラを醸し出しているんですよう」

「なるほど。これをカレイドタクトで叩けばいいんだね?」

「はいっ、そういうことです!」


 普段の私であったら「そんな無茶言わないで! 犬どころか虎を殴るなんてとんでもない!」と情けないこと言っていただろうに。

 私は遅れてやってきた万能感に浸りまくっていた。

 体が軽い上に、虎ほどの大きさの闇妖精を見ても、ちっとも怖くないのだ。


「ほら、おいでおいで」

「ギャウウッ!」


 タクトをフリフリしたら、タクトに結んであるリボンに惹かれてやってくる。それを高く飛び、信号機の上まで飛んでから、急降下。

 タクトを構えて思いっきり脳天を殴った。ゴッ……という音がしたと同時に、カレイドタクトに邪悪なオーラが吸い込まれていった。


「あら?」

「ありがとうございます! カレイドタクトが闇を吸い取っているんです!」

「吸い込まれた闇はどこに行くの?」

「掃除機とおんなじですから、カレイドタクトは定期的にぼくに渡してメンテナンスしてください。定期的に闇を妖精国の肥料にしていれば、いつでもピカピカのカレイドタクトになりますから」

「なるほどぉ……」


 闇妖精を祓った途端に、あれだけ邪悪なオーラを出していたはずの虎がみるみる萎んでいき、とうとう小さな野良犬になった。「キューン……」と嘶くと、そのまま路地裏まで走って行ってしまった。


「これでよかったのかな」

「問題ございません。闇妖精も定期的に魔法少女が掃除しているとわかったら、迂闊に手を出しませんから」

「そうなんだね。それにしても……」


 私は自分の格好を見た。

 金髪は飛んだり走ったりしても乱れることもたるむこともなく豊かに伸び、ピンク色でレースたっぷりのワンピースも乱れることがない。どう見ても十代の体で、コスプレ。


「これでお店に入れるのかな?」

「それは問題ございません。カレイドナナになった際にフェアリーバリアをカレイドタクトから浴びていますから」

「さっきピカピカ光っていた奴?」

「はい。妖精の羽の鱗粉です。これは見ている人の記憶を曖昧にし、機械からはピカピカ光って映らなくなる仕組みですから」

「便利だねえ……ということは、十代が禁止の店も入れるのかな?」

「……まさか魔法少女の姿でお酒飲む気ですか?」

「お酒はお腹溜まっちゃうから嫌だなあ」


 残業帰りなんだから、もうちょっとおいしいものが食べたい。自分へのご褒美。


「夜パフェとか」

「はい?」


 リリパスはまたしても困った顔をした。

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