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1.カーディナルスキル

 城壁に押し寄せる魔物と、果敢に立ち向かう領地の騎士団。

 それが私の最も古く、そして最も鮮烈な記憶だ。

 無辜の人々を護るため傷を負っても臆せず戦う彼らの姿に憧れた。彼らのようになりたいと幼心に決意した。


 幸いにして私の生家は男爵家であった。

 三男なので家督を継ぐこともほぼ考えなくて良い。

 騎士を目指すための環境は充分すぎるほどに整っていた。



 神殿にて『ソードウォリアー』の天職を授かってからは、剣の稽古に明け暮れた。

 父が招いてくれた指南役のレイシー先生は先年まで高位騎士を勤めていたそうで、私に武芸の基礎から騎士が持つべき教養や精神まで、幅広く教えてくださった。


 先生の親身な指導もあってめでたく名門、龍立コウリア騎士学院初等部の入学試験を突破したのが六年前。九歳の頃の話である。

 天職の格が低く【カーディナルスキル】も持たなかった私は少々注目を浴びたが、何だかんだで同級生とも上手く付き合え、六年間を共に切磋琢磨した。


 国中から集まった才気溢れる学友達は、とても良い刺激になった。

 私が一歩進む間に彼らは二歩も三歩も先へ行く。だからこそ日々の研鑽にもより熱が入った。

 世の中には学友達のような才人がいるのだ、私が気を抜いている暇など無いと、一切の怠慢なく鍛錬に打ち込めた。


 そうして先日、無事に初等部の卒業を迎え、高等部入学への準備期間が始まった。



「フゥッ」


 鋭く息を吐き、鉄剣を振り下ろす。

 体重の移動、筋骨の連動、闘気と魔力の流動を滑らかに。

 今の己の全技量を込め、必殺の意思でもって一太刀を放った。


「フゥッ」


 一歩下がり、構え直し、再度振り下ろす。

 先程よりも僅かに増した疲労感を振り切るように。けれど動きが雑にならないように。

 鍛練場の地面を踏みしめる乾いた音と、剣が空を切る軽やかな音が鳴った。


「フゥッ……む?」


 もう一度素振りをしたその時、違和感に気付いた。

 新たな腕が生えたような、忘れていたことを不意に思い出したような、そんな感覚だ。

 出来る、という本能的な確信に後押しされ、剣に魔力を纏わせる。


「発動」


 ボウッ。

 剣身が燃え上がった。


「おおっ」


 感嘆と驚愕の混ざった声を漏らしつつ、新たに生まれた感覚を手繰り、炎を消す。

 慌てて消したがしかし、落ち着いて振り返って見ると熱くはなかった。

 温度が低いのか、あるいはこの【カーディナルスキル】にそういう効果があるのか。


(まあ、それは後で確かめるとしよう)


 今は第二鍛練場にて日課の訓練をしているところだ。

 素振り千回まではあと四百三十三回。

 取り敢えず、こちらを先に果たさねば。




「──千回、と。ふぅ……」


 素振りが終わり、少し息を整えた。【カーディナルスキル】を試してみるとしよう。

 扱い方は直感的に理解できている。【カーディナルスキル】とはそういうものだ。

 先程と同様に、剣に魔力を流して力を込めると炎が刀身を覆う。


(他の属性も行けそうだな)


 炎を消し、魔力を流し、力を込める。

 今度は流水が刀身に纏わりつく。

 勢いは滝から落ちた水のように強く、闘気で強化していなければ触るのは危険そうだ。


(次は木属性をっ、っと)


 手の中にズシッとした重みが現れた。

 剣に木の根が纏わりついたからだ。

 急激な重量変化でバランスを崩しかけてしまう。体幹不足である。


 反省は置いておいて、能力を考察する。

 火属性や水属性では感じなかったが、木属性では剣自体に重さが掛かるようだった。


(他の属性は……ふむ、金も土も重さがあるか)


 使う際には注意が必要だな。と、心の中でメモをした。

 それからも幾度か気になることを試し、能力への理解を深める。


「なるほど、五属性を纏うスキルという訳か」


 結果、この【カーディナルスキル】は魔力を一定量消費することで、剣に基礎五属性を纏わせられるということが分かった。


 効果としてはエンチャント系統の魔技に近いだろう。

 斬撃に属性の力を上乗せでき、実体を持たない魔物への有効打にもなる。

 基礎五属性である火・水・木・金・土を自在にエンチャントできれば、戦術の幅をグッと広げられる。


「……天や地は無理か」


 なお、希少属性である天・地・海は何度試しても発動しなかった。

 イメージとしてはザルで水を掬う感じだろうか。

 魔力が【カーディナルスキル】の力をすり抜けていくような感触であった。


 希少属性が使えるようになれば飛躍的な戦力強化となるのだが、何かコツが掴めていないのか、原理的に不可能なのか。

 とはいえ、それはここで考えても詮無いことだ。


(詳しくは鑑定屋に聞くとしよう)


 そうして私は鍛練場を後にした。

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