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その5

(5)



「なんじゃ、そりゃ」

 老人は若者が手にした物を帽子の鍔を上げてまじまじと見た。

「これはですね。駅前のホームセンターで買って来たスコップと…」

 それから南蛮錠を一段と高く上げて若者が言う。

「これは万次さんからの預かり物で、何でも昔飼っていた愛犬の墓に埋めて欲しいと言われた錠です」

「南蛮錠だな」

 老人が呟くやいなや、若者はそれを百日紅の巨木に向けた。

「何でも、この百日紅の巨木の下らへんに愛犬を埋めたそうなんですが、その遺骨の側にこの錠を一緒に埋めて欲しいそうなんです」

「何?!」

 若者が言った瞬間、この小さな老人の何処にそんな大きな力があるのかと言いたくなりそうな大声が響き、百日紅の花を揺らした。

 だが、大声を放った老人とは対照的に背の大きな若者はどこか意気消沈しているように見えた。

「…まぁ、それが万次さんの酒代のおごりに対する借りなんですがね。しかしながらこうして百日紅の巨木を見るとあまりに広くて、どうしようもない。何でも愛犬は不思議と錠と遊ぶのが好きだったらしいので、その遺骨の側に埋め損ねたから、僕に頼んだというわけなんですがねぇ、でもこうしてこんなに巨木の根を見ると、とてもとても一日そこらじゃ僕にはできませんねぇ」

 若者はさもすまなさそうに頭を激しく掻く。掻く度に縮れ毛が跳ね返り、汗が飛んだ。

 若者が頭を激しく掻いている間、老人は帽子の鍔を下げて無言でいたが、やがて何事かに気づいたのか、笑い声を上げて肩を震わせながら独り言のように言った。

「…そうか、そうか。万次の奴、そうあんたに言ったのか。なるほどなぁ。万次の奴、遂に俺を選んだか。そう言う事なら奴が俺のとこに現れたのも頷ける」

 そこで再び百日紅の花を揺らすような笑い声を上げると若者に言った。

「あんた」

 老人がにやりとする。

「はい?」

「その錠は俺が代わりに埋めてやる。確かにあんたの言う通りこの巨木の下では二十年前の記憶も定かではない俺でさえ分からない」

「えっ??」

「つまり二十年前俺があいつの愛犬を埋めたのは俺よ。出かけ先から万次が帰って来た晩、突然胃の中の物を吐いて死んだもんだから俺が代わりに埋めたのさ。なんで代わりなのかって言うと、その晩に万次の野郎は失踪したのさ、だからくたばっちまった犬は俺が埋めた。つまり俺が選ばれた訳なのさ」


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