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その4

(4)



「現れた?」

 若者の言葉に老人が頷く。

「そう…三か月程前に突然俺の前に現れたんだ。そして会うなり俺に言ったんだ。――おい、日出夫。毎日、お前は今でも俺が掘った地蔵に願掛けをしているのか?と」

「地蔵?あぁ…あの地蔵にですか?」

「そうだ」

 老人が断定する。

「それで?」

 若者が訊く。

 老人は頷くと言った。

「俺はお前と違って酒は止め、今では清らかな生活をしている。俺は今でも仏を掘り続けているし信心深いんだ、と言ってやった。それにあの地蔵は高名な真言仏僧の呪印が封されている。だから俺は毎日願を掛けに真言を唱えて手を合わせ、呪法がいつまでも続く様にお祈りしているのだと」

「呪印?」

 若者が驚く。

「ああ、あれは万次が掘った木像だが、その後、或る真言僧に呪法を掛けてもらい俺が祠に納めたんだ。この土地一帯が未来永劫実り豊かで、また大きな災害にも遭わないようにと呪法を掛けてもらったんだ」

「それは強い呪法ですねぇ」

 若者は感心して目を丸くする。

「だな。だからかもしれないが近年の大雨災害でもここら一帯は災害から無縁でいられる。やはり真言呪法の力は或るのだよ。だから俺は毎日、毎日雨が降ろうとも霜が降りようとも強風の日の欠かすことなく、参りを祠に納めてから続けているのさ」

 聞いて若者が感心するように頷いた。

「それは凄い信心ですね。それで万次さんとのその後は?」

「それっきりだ」

「それっきり?」

 再び若者が驚く。

 老人は驚く若者に対して無言で頷く。

 若者は老人が頷くのを見て暫くぼんやりとしていたが、不意に何かを思い出したかのようにリュックを開けると何かを手にして取り出した。 

「ああ、忘れてました。もう少しで何もせず、この百日紅の巨木を去るところでした」


 ――若者が取り出した物。


 それはスコップと小さな南蛮錠だった。




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