バレてはいけない(クロッキー的な作品)
これで完璧である。
私は一人で頷きながら、今一度部屋を見回した。
うん、完璧。
彼が来る前に、彼に見られてはまずいものは隠した。
机、ベッド、窓際にぬいぐるみ。壁のポスター、カバンかけ。クローゼットはちゃんと閉まってる。
コンセントもおかしくないし、窓のカーテンは昼間らしくまとめられている。
チャイムの音が鳴る。
階下で母の声がして、私は彼を迎えに行った。
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お邪魔しました、と礼儀正しく母と挨拶を交わし、うちを後にする彼。
その背中を見送り、私は部屋に戻った。部屋入り口のドアに鍵をかけ、万が一に備える。万が一は起こってはならないのだ。今後の私のためにも。
窓際のぬいぐるみを手に取り、ハサミでお腹を切る。
壁のポスターを剥がす。
カバンかけのダミーの鞄を机に乗せる。
そうやって私は部屋にしかけた監視カメラや盗聴器からデータを取り出した。
この中は、今日の彼を隠し撮りしたものでいっぱいだ。
360度、様々なアングルから彼を見つめることが出来る。
私の名前を呼ぶ声もたまらない。
一度保存してしまえば、これらを見返すことも聞き返すことも、ほとんどないけれど。
彼のデータを詰め込むと、根拠のない安心に包まれるのだ。