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番外編 ホワイトデー その2

真っ白な雪景色の中、ロマンチックなバレンタインデーを過ごしたエステルとフレデリックは無事に王都の屋敷に戻ってきた。


災害に遭った村の復興は順調に進み、避難民の今後の生活にも明るい兆しが見えてきた。逞しい彼らならきっと大丈夫だろう。


そして、今度は三月十四日のホワイトデーがやってくるのである。


既に三月の上旬。フレデリックは焦っていた。


何をエステルにお返しすればいいのか分からない。


それなのに公務が忙しくて何も準備ができていない。


家令のフィリップから新たな書類の山を手渡されて、フレデリックは深い溜息をついた。


「……まだエステルへの贈り物も決まっていないのに」


恨みがましい眼で睨むとフィリップが平然と「エステル様は仕事ができる男性がお好みですよ」と答える。


しかし、ガックリと肩を落とす主人に多少の同情心が湧いたのだろう。一言付け加えた。


「女性への贈り物でしたら我が騎士団長のクロード殿に相談してみてはいかがですか?」

「それだ!」


フレデリックは叫んだ。


***


「……エステル様への贈り物?ドレスやアクセサリー以外で?」


苦み走ったイイ男のクロードは顔をひきつらせた。


「そうだ。お前はずっと女性にモテてきただろう?どんな贈り物をしたら喜ばれた?」

「いやぁ、俺は付き合ってもまめじゃないから贈り物の経験はそんなにないですよ。どちらかというと貰う方が多かったし」


サラリとモテ発言をするクロードをフレデリックは横目で睨みつけた。


「……それでも女性がどんなものを喜ぶか、お前の方がよく分かっているだろう?」


クロードの目尻がさがり楽しそうに主人を見つめる。


「いやもう、旦那様は幸運ですよ。初恋の君と結婚できて、その情熱が衰えるどころか益々盛んになるなんて。一生結婚できないんじゃないかとみんなが心配していましたからね。俺も嬉しいです!」

「僕を馬鹿にして!」


横を向いて拗ねる姿はちょっと子供っぽいが、幼い頃から馴染んでいるクロード相手だとつい素が出てしまうのかもしれない。


「でもね、旦那様。俺の経験上、女性は贈り物を『誰から』もらうかが重要なんですよ。例えば、大好きな物を貰っても嫌いな相手からだと全然嬉しくないですよね。逆にそれほど欲しくなかった物でも大好きな相手から貰ったら宝物になったりしますからね」

「なるほど」


思いがけなく含蓄のある台詞を聞いて、フレデリックは腕を組んで考え込んだ。そんなフレデリックの背中をクロードは遠慮なしにバンバン叩く。


「だから若君が何をあげてもエステル様はきっと喜びますよ。それにあの方はあまり物欲ってなさそうじゃないですか?物よりも何かしてあげるとか、どこかに連れていってあげるとか、そういうのじゃダメですか?……それにエステル様の喜ばせ方を知っているのはココ様とミア様じゃないですかね?お二人に相談してみました?」


呼び方が子供の頃に戻っているのは気になるが、クロードの言葉にフレデリックはハッとなった。ココとミアに相談したことはない。ホワイトデーには双子にも美味しいお菓子と小さなブーケを渡すつもりでいたが、エステルの贈り物の相談をするなんて思いもよらなかった。でも、確かにエステルが何を喜ぶかは双子が一番知っていそうな気がする。


「クロード、ありがとう!助かったよ」


晴れ晴れとした笑顔で手を振りながら去っているフレデリックをクロードは満足気に見送った。


***


「「ママの喜ぶこと?」」


ココとミアが首を傾げた。首の方向も角度も全く同じで『さすが双子』とフレデリックは感心した。


「ああ、ココとミアにも勿論贈り物を用意しているよ。でも、エステルにも喜んで欲しいんだけど、何をすればいいのか分からないんだ。情けないけど……」


幼児にアドバイスを求める自分の不甲斐なさに思わず俯くと、二人は慌てたようにフレデリックを慰め始めた。


「だいじょぶよ!あの、あのね、ママはフレデリックがなにをおくってもよろこぶと思う」


ココがフレデリックの服の裾を摘まんで断言した。ミアも勢いよく頷く。


「そうよ。バレンタインデーのおくりものもとってもよろこんでいたわ。おへやのそうじがとってもらくになったって!」


フレデリックは思わず額を押さえた。


「えっと、エステルはまさかそれまで自分で掃除していたとか……?」

「ママは自分のお仕事のへやとしんしつは毎日そうじしているわ。今でもよ。だからあのまどうぐのおかげでとてもらくになったって言ってた」


ココの台詞にフレデリックは内心青ざめた。公爵夫人が自ら部屋の掃除をしていたことに恥ずかしながら気がつかなかった。当然侍女がやっているものと思っていた。お掃除魔道具を贈ったのは、使用人の助けになるから優しいエステルが喜ぶかもしれないと考えたのだ。


家政を担い、双子の面倒を看て、王族としての公務にも参加しているエステルは毎日多忙なはずだ。そんな負担をかけていたなんて知らなかったと心から反省した。


「エステルには無理しないでほしいんだ。ゆっくり休んでもらいたいというか……」


ミアが閃いた!という顔をした。


「フレデリック!休んでもらうのをママへのおくりものにしたら?ちかくにゆっくり休めるようなところはないの?」

「ゆっくり休めるところ?」


なにかを思いつきそうな気がする。フレデリックは双子にお礼を言うと、そのまま走り出した。

*余談ですが、クロードが登場する度に津田健次郎さんの声で台詞が再生されます(#^^#) 密かにお気に入りキャラです。

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