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≪SS≫ フレデリックの苦悩 

*リクエストがありましたので、ツイッターで投稿したSSをこちらにも投稿します。とても短いお話。エステルがジェームズを出産した直後の話になります。読んで頂けたら嬉しいです(*^-^*)。

フレデリックは苦悩していた。


ジェームズが生まれて三ヶ月が経過し、新生児の世話にもようやく慣れてきた頃だ。


正直フレデリックは双子の姉妹ココとミアの面倒をみてきた経験があるので育児にはちょっと自信があった。しかし、新生児の世話という全く次元の違う育児を経験し、色々な意味で自信を失っている。


新生児の世話がこんなに大変だったとは想像も出来なかった。まず夜眠れない。慢性的に睡眠不足だ。エステルはジェームズが泣く度にすぐに起きるが、彼女だけに任せるのは申し訳ない。フレデリックも一緒に起きてはいるが、夜中に授乳してオムツも替えたのに何故か泣き止まない我が子を抱いてユラユラ揺れ続けるのは、なかなかの苦行である。


(エステルはすごい)


純粋にそう思う。貴族は従来乳母を雇い自分で赤ん坊を育てる女性はほとんどいない。が、エステルは絶対に自分の手で育てると主張した。当然だが、彼女がやりたいことを止める気はサラサラない。双子を育てた経験のあるエステルは、手慣れた仕草でまだふにゃふにゃで触るのも怖いような赤ん坊を軽々と世話している。


更にエステルは布で手作りした『抱っこひも』なるものを開発した。それを使い常にジェームズを抱っこしながら公爵夫人としての責務を果たしている。


なんという斬新な発想!さすがエステル!とフレデリックは感動した。彼女の頭の中にはどれだけの知識と創造力が詰まっているのだろう。彼女は「私の手柄じゃないわ。前世では当たり前の知識なのよ」と恥ずかしそうに笑っていたけど、その謙虚な姿勢にもますます惹かれていく。


結婚した後も、子供が出来た後も、彼女への愛おしさがいや増していく。『こんなに僕を夢中にさせてどうするんだ!』と叫びたくなるくらいだ。


しかし、最近「一時的に夫婦の寝室を別にしたらどうかしら?」とエステルに言われてフレデリックは打ちのめされている。


「だってあなたは仕事が忙しいのにろくに睡眠とれてないでしょ?私がやるからいいって言っても、一緒に起きてジェームズの面倒を看てくれるから・・・すごく有難いけどあなたの体調が心配なの」


「僕は君と別の部屋で眠る方が体調を崩すと思う・・・」


悲壮な顔つきだったのかもしれない。エステルがそっと僕の頬を撫でる。指の感触が心地よくて甘えるように彼女の掌に頬を擦りつけた。


「フレデリック・・・でも、あなた私が授乳している時、ちょっと・・・なんというか・・・あまり嬉しそうじゃないわよね?」


「うっ・・・」


フレデリックは言葉に詰まった。授乳中に覗き込んだりするようなマナー違反はしていない。が、彼女の胸にしがみついている赤ん坊を想像するだけでちょっとした嫉妬を覚えてしまうのだ。我が子に嫉妬するなんて、我ながらなんて器が小さいんだ、気持ち悪い、と情けなくなる。しかし、理性では分かっていても感情が止められる訳ではない。勿論、口に出して言ったことはないし態度にも出していないつもりだった。こんなこと恥ずかしくて言えるはずがない。エステルは勘が鋭いから察したのだろう。


「あと数か月で離乳食を始められるし、それまでの間だけ。ねっ!お願いっ」


手を合わせて拝むように頼まれるとノーとは言えない。フレデリックは渋々と頷いた。


「分かった。でも、僕のお願いも聞いてくれる?」

「うん。なあに?」


彼のお願いは二人だけの時間を作って欲しいということだった。一日に数十分だけでいい、エステルと二人きりでイチャイチャできる時間が欲しいんだ。


フレデリックが力説すると彼女は少し照れたように頬を染めた。可愛らしすぎる。


「そ、そうね。まあ、三十分くらいならダフニーか誰かにみてもらえるだろうし・・・」


そうしてフレデリックは念願の時間を手に入れた。ただ彼女を抱きしめていられる時間。彼女が甘えられる時間。もっともほとんどの場合、彼女は数秒で眠ってしまうのであるが・・・。それでも愛しい妻のあどけない寝顔を見ていられるだけで幸せだな、と思う。


「いつも頑張ってくれてありがとう、エステル」


そう呟いて彼女の額に口づけを落とした。

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