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番外編 ココとミアの物語 その4

TCの攻撃は私たちに照準を合わせたみたいだった。そのおかげでデビッドや他の生徒への被害は確実に減った。だから、私たちは結果オーライで目的は達成できたと思っている。


でも、フィルの考えは違うみたいだ。私と会う度に心配そうに眉を顰める。


「フレデリック様とエステル様に報告した方がいい」

「緊急時でないと家族とは連絡を取れない決まりだから」


私が肩をすくめてもフィルは納得しない。


「いや、今が緊急時じゃなくていつが緊急時なんだ!? ココとミアが学校で嫌がらせされていると聞いたら、お二人は激怒されるよ。俺も君たちに何か遭ったらと思うと心配で眠れない」

「フィル。ありがとう。でも、緊急時なんて大袈裟だわ。何かあるといつもフィルが助けてくれるし、私たちも自分の身が守れるくらいは訓練されているから大丈夫。デビットへのいじめは減ったし、何を言われても私たちは大丈夫だから」

「でも……」

「学院長にはデビッドへのいじめの件について何度も問い合わせているし、私たちが嫌がらせされていることもついでに報告したわ。でも、まだ調査中だって言うのよ。学院の対応に不満があったら、いずれフレデリックやお母さまの力を借りるわ。ただ、現状、私たちは特に困ってないから」

「はぁ、ミア。君たちはこんな扱いを受けていい存在じゃないんだよ」


フィルは溜息をついた。


***


そんなある日、魔法学院に国王夫妻が視察に訪れることが突然発表された。卒業式などの大きな行事のない平常日に行幸があるなんて前代未聞である。


貴族でもなかなか面会の機会が得られないという国王夫妻に近づくチャンスということでTCたちは浮足立っている。


「今から国王陛下に目を掛けてもらって、卒業後には側近に……あるいは、王太子殿下の世話係とか、いいぞ、いい風が吹いている!」

「そうね! 私もルイーズ様にお近づきになりたいわ。王宮で女官として働いている時に国王に見初められたと聞いたわ。私も王宮でランクが上の殿方と知り合える女官の仕事を紹介してもらえるように……」

「あら、だったら、王妃陛下の専属侍女が一番いいんじゃない? ルイーズ様は優良物件を沢山ご存知じゃないかしら!」


興奮するアーサーたちを尻目に、私たちは真面目に勉強に取り組んでいた。ちょうど試験もあったしね。


おかげで、国王夫妻が視察にやって来る日に廊下に張り出された成績順位はこんな感じだった。


一位 ミア・ラファイエット

二位 ココ・ラファイエット

三位 ・・・

四位 デビッド・ブラウン

八位 フィル・ジョーンズ

十一位 アーサー・ルイス


トップどころか順位を落としたアーサーは朝からブツブツ文句を言い、成績順位を剥がすよう学院スタッフに噛みついたが、全く相手にされずに不貞腐れていた。八つ当たりするように当てこすりや侮蔑の言葉を連発するアーサーと一緒になってTCは私たちを嘲笑う。


「ココとミアは平民でしかも女のくせに生意気な……」

「ラファイエット公爵の名を騙る不敬を国王が許すはずがない」

「とっとと退学させろ」

「ビッチ!」


などという言葉にはもう慣れた。


ピクリとも神経に引っかからない。悪口もワンパターンが過ぎるとちょっと面白くなるわね。ココに笑いかけると、ココも笑顔を返してくる。その笑顔に陰や無理したところがないので私はちょっと安心した。


ただ、デビットは相変わらず涙目で悔しがり、フィルは怒りの青筋を浮かべている。私たちのためにこんなに怒ってくれる友達がいる。だから、平気。絶対的味方がいてくれる幸運に私は感謝した。


授業の二時限目が終わると、担任のファーガソン先生から休憩時間に国王夫妻が教室にやって来ると通達があった。普段の生活風景が見たいとのご希望なので、いつも通りの学校生活を送って欲しいと指示される。しかし、当然ながら休憩時間になっても席を立つ生徒は誰一人いない。全員が緊張した面持ちで国王夫妻が教室に入って来るのを待っていた。


しばらく待つとカタンと教室の扉が開き、学院長らに先導されてキラキラした国王御一行が入って来た。


金髪碧眼の国王ロランは精悍で女生徒たちが思わず熱い溜息をつき、王妃ルイーズのキリッとした美しさに男子生徒も見惚れている。だが、ロランの背後にフレデリックとお母さまが立っているのを見つけて私は驚いた。そして最後に入ってきたのは私たちも良く知っているジョゼフだ。


超絶美男美女の集団が教室に入ってきたせいか、教室内の熱気というか温度が急上昇したようだ。特にTCグループの生徒たちは背筋を真っ直ぐに伸ばし必死に拍手をして賓客を出迎えている。


ロランが教壇に立ち一同を見渡すと教室内がシンと静まり返る。アーサーが一生懸命彼と目線を合わせようとしているが、ロランはそんなアーサーを無視して、全員に向かって話し始めた。


「本日はラファイエット公爵夫妻と法務官のジョゼフ・ド・メーストル伯爵に同行してもらった。私の最も信頼する側近だ。それに私が娘同然に思っている女子生徒がこのクラスにいるので、見学するのをとても楽しみにしていた。ココ、ミア、息災か?」


最前列に座る双子に向かって笑顔を見せる。


「「はい、陛下。ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます」」


双子がスッと立ち上がり、声を揃えて美しい礼を見せると、クラスメートがその優雅さに溜息をついた。しかし、TCグループの方からザワっとした雰囲気が伝わってくる。


「ココとミアは私にとって身内のようなものだ。フレデリックとエステルの大切な娘たちだろう?」

「当然です。ココとミアは目の中に入れても痛くない。ラファイエット公爵家の誇り。掌中の珠です」


フレデリックはきっぱりとそう告げると、双子を愛おしそうに抱きしめた。エステルも優しい表情でそれを見守る。


フレデリックと双子の髪は全くと言っていいほど同じで、顔立ちも似通っている。それを見てTCグループの生徒たちの顔が青ざめた。


「ココとミアは我がラファイエット公爵家の正式な令嬢だ。それを何か違うように貶す噂が学院内にあると報告を受けているのですが、学院長やファーガソン先生は何かご存知ではないですか?」


フレデリックが軽い口調で問いかける。


「え!? ……ま、まさか……そんな不敬なことをする生徒がいるはずありません!そうですよね? ファーガソン先生?」

「も、もちろんです。学院長!」


そう言う二人の顔色は悪いし額に汗が浮かんでいる。


「そうですか?」


フレデリックの口調はあくまでも穏やかだ。しかし、その目は全く笑っていない。


「まぁまぁ、フレデリック。その話はまた後でゆっくり。私はラファイエット公爵家が納入している『カレーソース』なる食事にも大変興味があってね。食堂で試食させてもらえるのを楽しみにしていたんだ」


ロランの言葉を受けて、フレデリックは軽く頷いた。一方、TC生徒たちの顔色は一様に悪い。


「良かったら生徒諸君も食堂に来たまえ。一緒にカレーを食べながら交流しようじゃないか!」


明るくロランが宣言した。『次の授業は?』とか『いきなり食堂?』とか色々と脳裏をよぎったけど、国王陛下の意向に逆らえるはずもない。


私とココは顔を見合わせて立ち上がった。勿論、強制ではないけれど、生徒たちは当然のように食堂に向かって歩き出している。


案内する学院長はご機嫌を取るかように「カレーソースは大変評判が良く……」などとロランやフレデリックに話しかけている。


その時、お母さまとバチっと目があった。その目には色んな感情が込められていたが、中でも強いのは激しい怒りだった。私とココは幼い頃からお母さまの感情を読み取ることに長けている。私たちへの愛情、懐かしさ、懸念、そういった感情も当然あるのだが、主な感情は怒り、ということを察して、私は少し背筋がゾクッとした。


そして、私は悟った。お母さまはこの学院で起こっていることを知っている、と。


完全なる自業自得だが、私はTCにちょっとだけ同情してしまった。

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