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番外編 フレデリックの平凡な一日 (前)

*相変わらずエステルにデレデレのフレデリックの話です(#^^#)


*ココとミアの学院生活の前段の話でもあります(*^-^*)。読んで頂けたら嬉しいです!


若い頃、フレデリックは早起きが苦手だった。


目が覚めても頭がぼーっとして、体がだるくて疲れがとれてない。


頼む、もう少し寝かせてくれ・・・・と枕に顔を埋めるが無慈悲な家令に


「若君!起きる時間ですよっ!」


と叩き起こされるのが常だった。


ああ、時代は変わった。




愛おしいエステルと結婚した後、フレデリックは彼女の寝顔が見られるというその一点のためだけに早起きすることが苦ではなくなった。


窓の外から微かな光が入り、鳥のさえずりが聞こえるようになるとフレデリックの目がパッチリと開く。


するとそこには愛おしい妻がすぅすぅと尊い寝息をたてながら眠っているのだ。


ああ、天国っ!


エステルの滑らかな白い頬に指を滑らせると、彼女の長い睫毛がふるふると震える。でも、まだ目を開かない。目の下のほくろが相変わらず色っぽくて、人差し指でそれを撫でた。


「・・・ん、んん?」


艶っぽい声を出しながら微かにエステルの瞼が開いた。


まだ少しボーっとしている様子が可愛らしすぎる。その柔らかくて堪らなくいい香りの体を思わずギュッと抱きしめると、エステルの腕がフレデリックの首の後ろにかかった。その感触に眩暈がするくらいの幸福感を覚える。


「・・・ん、フレデリック、おはよう」

「おはよう、エステル」


とついばむようにチュッとキスをする。


愛おしすぎて、もういっそこのまま・・・と体勢を変えようとした途端、エステルがうーんっ!と伸びをして、フレデリックの腕の中から起き上がった。


「あら!もうこんな時間だわ!今日は忙しいから早起きしようと思っていたのに。フレデリック、起こしてくれてありがとう!」


エステルは無邪気に笑い、まだ未練がましくベッドに横たわるフレデリックの頬にチュッとキスをすると、そのまま身支度を始めた。


「・・・・・・・・・・・・・・そうか。今日は何があるんだい?」


「あら?言わなかったっけ?昨日ようやくカレーが完成したの。一晩置くと味に深みが出るから正確には今日!そうよ!今日、カレーが完成するということなのよ!」


力強く拳を握りしめるエステル。


彼女は最近双子と一緒になって、前世で食していたというカレーライスなる料理の再現に力を入れていた。


何でもスパイスを配合してインド風カレーは再現することができたが、とろりと米にまとわりつくようなコクのあるカレーライスという料理は難しかったらしい。


それがついに完成したということか。


(相変わらず、彼女の前世の知識は興味深い)


エステルがフレデリックに前世の告白をして以来、彼女は率先して前世での話をしてくれるようになった。


他に誰も ― 双子でさえも ― 知らない秘密をフレデリックだけに共有してくれることが堪らない喜びに繋がる。


前世の話の中でも特にカレーライスは幾度となく登場した。


よっぽど好きだったらしい。今も熱に浮かされたようにカレーの魅力を語っている。


「・・・キレンジャーって呼ばれたこともあるくらいカレーが好きだったのよ。・・・あ、いけない。年がバレちゃう!」


という謎の発言をして、一人で照れている様子もひたすら可愛い。


「良かったね。前世の好物の再現が出来て」

「ええ!やっぱり秘訣はリンゴと蜂蜜だったわ!」

「・・・そうか。ただ、カレーライスというからには米が必要なんじゃないのかい?あれは外国から取り寄せないといけないから・・・」


「ふふん!」


エステルのドヤ顔は天下一可愛い。


「大丈夫!今朝ジョーンズ商会の会長がいらっしゃるでしょ?ラファイエット領との取引について打ち合わせがあるのよね?その時に米を持って来てもらうようにお願いしてあるの!」

「そうか、さすがエステルだ」


と褒めると顔を赤らめて小さな女の子のように体をモジモジさせるエステル。


色々と我慢できなくなったフレデリックは立ち上がって、彼女を腕の中に包み込んだ。


耳元に熱い息を吹き込むとエステルの体がビクッと跳ねた。結婚して何年も経つのにまだ初々しい反応を示す愛妻が可愛くて仕方がない。


「僕にも食べさせてくれる?」

「も、もちろんよ!」

「ホントは君も食べたいんだけど・・」

「ひっ!?」


真っ赤になったエステルは耳を押さえながらズザザザザッと後ずさると


「あ、私は厨房に顔を出してから食堂に参りますわっ!では!これにて!」


と慌てふためいて部屋から出て行った。


ラファイエット家ではどんなに忙しくても出来るだけ朝食を家族全員で食べるようにしている。


ゆっくりと支度をしながら彼女の恥じらう顔を思い出すと、つい顔がほころんだ。



***



食堂に行くと、既に子供たちが勢ぞろいしていた。


ココとミアは十四歳。もう立派な淑女だ。来年からは魔法学院に入学することが決まっている。


ジェームズは六歳。トーマスが四歳。二人とも着実に成長している。


全員が白いプラチナブロンドで、ラファイエット公爵家の遺伝子の強さをしみじみと感じた。


子供たちと話をしているとすぐにエステルも現れた。家族団らんの朝食はいつものように和やかで楽しい。


「フレデリック。今日はジョーンズ商会の会長がいらっしゃるのよね?」


珍しくミアが熱心に聞いてきた。顔が少し紅潮している。


「ああ、そうだが・・・」

「あのね、私も同席させて頂けないかしら?」

「ああ、ミアは貿易に興味があるって言っていたな。構わないよ。僕の補佐として座っていてもらえるかい?後で資料を渡すから、事前に目を通しておくといい」

「ありがとうっ!」


フレデリックの言葉にミアが目を輝かせた。


双子は、見た目は瓜二つだが性格は全く違う。


ココは絵を描いたり、物を作ったりするのが好きだ。芸術家気質というか常に何か創作している。


ミアは創作活動というよりは、物を必要とする人達のところに届ける方に興味があるという実務家タイプだ。だから貿易や流通を勉強したいというのはエステルからも聞いていた。


今朝の打ち合わせにやって来るジョーンズ商会はヴァリエール王国でも老舗の商社で信用があるし評判も良い。国への貢献度が高く、現当主である会長は一代限りだが男爵に叙爵されたはずだ。庶民にも手が届く価格で販売する良心的な商会なので、ラファイエット公爵家も懇意にしている。


打ち合わせに参加するのはミアにとって良い勉強になるだろう。


エステルも満足気に微笑んだ。


(・・・・天使だ。天使がいる)←心の声


「そうね。ミア、それはとても良い経験になるわ。あ、そうだ。フレデリック。良かったら昼食にジョーンズ商会の皆さんにもカレーライスを召し上がってもらいましょうよ。さっき確認したら美味しく仕上がっていたわ。折角米を持って来て下さるんだし・・・」


「そうだな。誘ってみるよ」



***



ジョーンズ商会の会長たちが待つ会議室の扉を開けると、会長と秘書の後ろに一人の少年が立っていた。


少年と言っても会長と並ぶくらい背が高く、ガッチリとした体形だ。かなり鍛えているのだろう、姿勢も良い。


しかし、それよりも気になったのは、その少年の目つきが異常に鋭く自分を睨みつけているように見えることだ。


(殺意っ・・殺意を感じる!)


喧嘩を売られているのかっ!?とフレデリックは一瞬息をのんだ。

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