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番外編 ルイーズの物語 その2


刑期満了後、ロランは正式に王太子に戻り、ヒーローの帰還に国民は大喜び、まともになった王太子に貴族たちも大喜び、という状況で、一人ロランへの敵意を持ち続けるのはルイーズだけだった。


エステルもロランを赦し、和解したらしい。


さすが女神は違う。心の広さ、懐の大きさが違う。


自分の器の小ささに多少凹むものの、やはり私だけは奴を絶対に許さない、と心に決めた。


だから王宮に勤めていて、たまにロランを見かけることがあってもルイーズは常に避けるように気をつけていた。





出所したロランは、毎日王宮で早朝から鍛錬した後、執務室で朝から晩まで仕事をしているらしい。


辺境で鍛えられ、逞しくなったロランはナルシストぶりが消えて、気さくな人柄で自分の信者を増やすという超絶人誑しに生まれ変わった。


当然異常なまでにモテる。


王宮の女官や令嬢たちはこぞってロランの動向に興味津々で、ロランといかに偶然を装って遭遇するかを日々熱心に研究しているようだった。


なんという無駄な時間と研究だろう、とルイーズが感心したのは言うまでもない。



***



しかし、待望のエステルの結婚式でルイーズはロランに遭遇してしまった。



婚礼衣装を身に纏ったエステルは信じられないほど美しく、幸せそうな微笑みを向けられただけでルイーズは昇天してしまいそうなほどの喜びに包まれた。


そして、まさに天使!愛らしい双子からも挨拶をされ、ルイーズは初孫を迎える祖母の気持ちが良く分かった。嫌でも涙が滲んでくる。


双子との初対面ではフレデリックとエステルにこんな大きな子供がいたのか!?とパニックになってしまったが、後でジョゼフがきちんと事情を説明してくれた。


(だって、プラチナブロンドで麗しい顔貌・・・ラファイエット公爵にそっくりだったんだもの)


と自分の勘違いを恥じたが、双子もエステルも気にする様子はなく温かく接してくれるので、やはり天上界のご家族は素晴らしいと感動したのだった。



そんな涙と感動に溢れた一大イベントに何故か堂々とロランが出席している。


そりゃ、王太子だし、エステルを救出した功績があるのだから仕方がないとは思っても、ルイーズの脳裏にはついつい卒業パーティの光景がよぎってしまう。


自分一人だけがロランを許せないのは極小の器なのは分かっているのだが、あの頃のことがどうしても許せないと思ってしまうのだ。


しかも、ロランは何故かルイーズの近くに来る。敢えて避けようとしているのに、奴は気がつくとルイーズの近くに立っている。思わず憎まれ口を叩きたくなった。



「まったく!こんなろくでもない男がまた王太子になるなんて!!!女王陛下は何を考えていらっしゃるのかしら?!納得いかないわ!!!」

「まぁ、そうだな。なんとでも言ってくれ」

「でも・・・まぁ、エステルさまを救ったというのは・・・ちょっと感謝してやってもいいけど」


あまりにアッサリと認められて拍子抜けしたのと、エステルを救った事実は『天晴れ』と言えなくもない。不承不承言ったルイーズの顔をロランが覗き込んだ。


「な、なななななによ!?」

「いや、お前も案外可愛いとこあんだなって思って」


顔だけはいい王太子の微笑みに、否が応でもルイーズの顔が熱を帯びる。


周囲の人たちに笑われて、ルイーズは自分の顔が赤くなるのを止められなかった。



***



それ以来、ルイーズはロランを以前ほどは避けなくなった。


改心したのは本当かもしれないと思ったのと、ロランは日中ずっと執務室に籠って山ほどの仕事をしているので、避けなくてもロランに会う機会がないことが分かったからだ。



そんなある日、ルイーズは前日にやり忘れた仕事があることに気がついて、早朝に王宮に出勤した。


朝早いので、人影はまばらだ。


涼しい空気と静謐な光景に『ああ、いい気持ち!』と深呼吸しながら歩いていると、バシャバシャと水の音が聞こえた。


(こんなに朝早くから洗濯しているのかしら?)


と井戸がある方を覗いてみると、ロランが井戸の脇で頭から水をかぶっている場面に遭遇してしまった。鍛錬の後に体を洗っているのだろう。


「あっ!」


と思わず出した声に気づいたのか、振り向いたロランとバッチリ目が合ってしまう。


ロランは何故か嬉しそうにルイーズに話しかけた。


「ああ、ルイーズか!今日は早いな!」


と明るく声を掛ける。


改心したロランは今や完全な爽やか好青年で、昔からの美貌にも数段磨きがかかったように思う。


しかも上半身裸のロランは、鍛え抜かれたイイ身体をしている。


ハッキリ言って目のやり場に困る、と思いながら視線をウロウロさせるとロランの肩に大きな傷痕があることに気がついた。


良く見ると肩だけではない。一番目立つ傷痕は肩にあるが、それ以外にも全身が古傷だらけだ。


「酷い傷だらけね」


つい口をついて出てしまった。


「まぁな、辺境には魔獣が多かったから。人間を襲う野蛮な魔獣が多かった」


「・・・・その傷は尊敬してやってもいいけど」


「本当かっ!?」


と子供みたいに瞳を輝かせるロランが可愛いなんて絶対に思っていないから、と心の中で言い訳をするルイーズ。


「なんで嬉しそうなのよ。私はいつもあんたの悪口しか言わないのに」


「ルイーズに罵倒されるとなんか安心するんだ。嘘をついてないって分かるから」


「は!?なにそれ?ナルシストの次は変態?」


「ははっ、ルイーズらしいな。最近、色んな令嬢たちが寄って来るんだ。目をキラキラさせて俺のことを褒めまくる。俺に好意を持っているらしい言動や仕草がなんというか・・・俺はそういうのにアレルギーになっちまったみたいだ」


「アレルギー?」


「若い女性からベタベタされたり、お世辞を言われたりすると蕁麻疹がでる」


ロランが頭をガリガリ掻きながら言う。何故か恥ずかしそうに顔を真っ赤にして。


「・・・やっぱりトラウマになっちゃったのね」


セシルとのことはちょっとだけジョゼフから聞いた。


信じていた人に騙されるという経験はいつまで経っても心に傷が残るだろう。


ルイーズは初めてロランに対して純粋ないたわりの気持ちが湧いてきた。


ロランは複雑な表情をしている。


「トラウマなんて大袈裟なもんじゃないけどさ!嘘が上手い人間っているからな!だから、ルイーズに罵倒されると嘘をつかれてないって分かるから嬉しいんだ」


その言葉が嬉しいと思いながらも、ルイーズは照れ隠しでわざと悪態をついてしまう。


「罵倒されると嬉しいって?!なにそれ・・・私は全然嬉しくないし!」


でも、ロランは全然気にする様子がない。


「ま、そうだな。それに、ルイーズは俺がエステルに婚約破棄を言い渡した時にも、凛として抗議してくれた。君なら、俺がまた勘違いして道を踏み外した時にも正してくれるんじゃないかと思うんだ」


「そ、それは・・・・・・・そうするわよ」


ルイーズが小さな声で言うと、ロランは「助かる」と彼女の頭をポンポンと撫でて去って行った。

*今夜第三話目(最終話)を投稿する予定です(*^-^*)。読んで下さってありがとうございます!!

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