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番外編 ルイーズの物語 その1

*今度はルイーズの話です。三話で終わる予定です。明日最後まで投稿するつもりですので、読んで頂けたら嬉しいです(#^^#)


エステル・ド・リオンヌ公爵令嬢。



ルイーズ・ド・コリニー伯爵令嬢はずっと彼女に憧れていた。


学生時代エステルは王太子の婚約者というだけでなく、その優れた容姿や優秀さでも際立っていた。


しかし、本人にその自覚はない。


面倒見が良く、クラスメートが困っている時には必ず手を差し伸べる彼女は魔法学院の中でも有名人で憧れている生徒が多い。



ルイーズも幾度となく助けてもらった記憶がある。


公爵家は最高位の貴族だ。


恐縮してお礼を言うと、穏やかな笑みを浮かべて「いいのよ」と言うエステルの清廉な美しさに、ルイーズはいつも心惹かれていた。


対照的に、彼女の婚約者でありながら他の女に色目を使い、エステルに面倒なことを全て任せて偉そうにふんぞり返っている王太子ロランのことを唾棄すべき存在だと思っていた。


ロランにしつこく纏わりついて、陰でエステルの根も葉もない悪評を広めているセシルにも腹が立って堪らなかった。セシルは自分が悪い場合でも被害者面をするのが上手い。


更に卒業パーティの時に婚約破棄事件が起こり、ルイーズの堪忍袋の緒が切れた。


『ロランとセシルは一生涯憎むべき敵だ!』


と確信した瞬間である。



**



貴族にとっては当たり前のことだが、実はルイーズにも子供の頃からの婚約者がいた。


子爵家の三男だった彼は、一人娘のルイーズと結婚して婿養子に入りコリニー伯爵位を継ぐ予定だったのだ。


だが、魔法学院在学中に彼から婚約を破棄して欲しいと密かに連絡があった。


実は彼には初恋の幼馴染がいて彼女と結婚したいのだという。


「ルイーズは何も悪くない。僕が一番いけないんだ。君の評判を傷つけないように、君の方から婚約を断ってくれないか?」



幼馴染は平民だそうだ。


爵位を継げない彼は結婚したら平民として彼女と一緒に生きていきたいと笑った。


その笑顔がとても幸せそうで、ルイーズはおめでとうと言った後、少し泣いた。


ルイーズを溺愛していた両親は怒り狂ったけど、彼女は必死になって婚約者を庇った。


『自分も好きじゃなかったから相手から言ってくれてホッとしたのよ』


という嘘までついた。


彼のことを情熱的に愛している訳ではなかったけれど、それなりに交流を深めて『素敵な人だな』と思っていたから、彼に他に好きな女の子がいると分かった時は悲しかった。


でも、人の気持ちを思うように操れるはずがない。


ルイーズは潔く諦めた。


正式に婚約破棄を申し出た後、ルイーズはもう結婚なんてしないと誓った。


失恋した女がすぐに飛びつく陳腐な選択肢かもしれないが、ルイーズは学院を卒業したら王宮で女官として働こうと決めた。


そのために勉強も必死で頑張った。


成績ではエステルに敵わなかったけれど、図書館でいつも見かけるエステルの姿に励まされたのは本当だ。




そういう過去の経験があったので、卒業パーティで公然とエステルを侮辱し一方的に婚約破棄を言い渡す王太子ロランのろくでなしぶりにはらわたが煮えくり返った。


その後、女王の怒りを買ったロランが辺境に送られたと聞いて『ザマーミロ!』と内心留飲を下げたが、行方知れずになったエステルのことが心配で何度も泣いた。


諜報に依頼してエステルの行方を探ったこともあったが、見つからずに何年も過ぎた。


その間、ルイーズは見事官僚の試験に合格し、王宮でバリバリ働く女官になっていた。


毎日忙しいがとても充実していて、楽しかった。


しかし、エステルのことを忘れたことは一日もない。


いつか再会できる日が来ることを信じて、密かにエステルへの思いを募らせていた。



*****



魔法学院を卒業して六年後。


忙しい毎日を送るルイーズは驚くべき噂を聞いた。



エステル・ド・リオンヌ公爵令嬢が王都に帰還し、王太女に指名されたという。


現在はラファイエット公爵と婚約し、公爵邸で暮らしているらしい。




色んな噂が飛び交い一体何が真実なのか分からなかったが、学生時代のクラスメートだったジョゼフからラファイエット公爵邸で同窓会が開かれると連絡があった。


そこにエステルも来ると聞いて、ルイーズの気合に火がついた。


エステルと久しぶりに再会するからには、最高に美しい自分を見て欲しい。


毎日念入りにお肌の手入れをして、髪の毛にも気を使った。


「これだけの情熱を持って殿方のために着飾ったら、さぞかしおモテになるでしょうに・・・」


と残念がる侍女たちを尻目に、ルイーズの情熱はひたすらエステルに向けられていた。




六年ぶりに再会したエステルは全然変わっていなかった。


むしろ学生時代よりも若々しく潤いに満ちている。


美しさだけでなく色気や艶気もいや増して


(ラファイエット公爵・・・・なんて羨ましい)


と思ってしまったことは内緒だ。


ロランのことをいつまでも根に持っていたから


「あの!あの!大バカ野郎のせいで!!!あのロランとかいう元王太子を私は一生許しません!!!廃太子になったのもザマーミロって感じですわ!!!」


と罵倒したが、エステルは苦笑するだけで、ロランに対して恨みを持っている様子はまるでない。



(さすが天使のような美しい心を持つ人は違う)


ルイーズはますますエステルに心酔していった。



***



その後、リオンヌ公爵家のせいで誘拐されたり、監禁されたり、大変な目に遭った。



エステルの弟のダニエルに助けられた時は安堵のあまり号泣してしまった。


ドンドンドンドンドンッ!


閉じ込められていた部屋の扉が乱暴に叩かれる音がして


「そこに誰かいますか!?」


と聞こえた時、ルイーズはさるぐつわを噛ませられて声が出せなかった。


(何とか気づいてもらわないと・・・!)


椅子に縛り付けられていたので、ルイーズは必死で椅子ごと床に倒れ込んだ。


倒れた時の音が聞こえたのだろう。


その後無事に救出されて、誘拐犯たちは全員報いを受けることになった。


後からエステルも危険な目に遭ったと聞き肝が冷えたが、無事で本当に良かったとルイーズは涙ぐんだ。


終わりよければすべて良し、とはよく言ったものだ。




ただ、唯一腹立たしいのはあの!あの!ろくでなしのポンコツのナルシストの最低最悪のロランがエステルを救出し、魔獣から人々を守ったということだ。


今ではロランは国中のヒーローと言っても過言ではない。


軍からの逃亡罪で禁固刑をくらっていたが(ザマーミロ)、恩赦を求める署名運動まで起こったと聞いて、この国は大丈夫か?と真剣に心配になった。





結局ロランはちゃんと刑期を終えて、戻ってきた。



刑期中、ロランが反省して改心したという話を聞き、王太子の身分で牢獄の生活は辛いだろうと多少の仏心が出て、政治・外交や行政・法務などの本を差し入れた。


(せめてちゃんと勉強しろよ!)


という挑戦的なメッセージだったが、担当の刑務官によるとロランは毎日真面目に差し入れた本を読んで勉強しているらしい。


ロランはルイーズからの差し入れとは知らない。


でも『本を差し入れてくれた人に御礼を言ってくれ』とロランが言っていたと刑務官から聞いて、ルイーズの心は少しだけ弾んだのだった。

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