番外編 弟
ラファイエット公爵家の長男であるジェームズは双子の姉であるココとミアが大好きである。
今年三歳になるジェームズは遊びたい盛りだ。一日中広い庭を駆け回るので、お付きの侍従たちは若者を選んだが、それでも一日の終わりにはクタクタになっている。
「元気なことはいいことだ!」
とフレデリックは喜んで暇を見つけては剣術を指導し、勉強も必要だろうとエステルも様々な知識を教えている。
ジェームズはそれらを楽しんではいるが、一番嬉しいのはココとミアと共に過ごす時間であった。
ジェームズの下には既にもう一人弟が生まれている。エステルはまだ赤ん坊のトーマスの世話で毎日忙しい。
当たり前だが天使のような弟は可愛くて仕方がない。ジェームズはトーマスを見る度に幸せな気持ちになる。
それに・・・
(ぼくは、りっぱな、あにとしてトーマスをまもらないといけないんだ)
弟が生まれた時にフレデリックに言われたことを律儀に肝に銘じるジェームズであった。
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ココとミアは忙しいエステルが少しでもリラックスできるようなお茶のお供を作ろうと、毎日厨房でお菓子作りに励んでいる。
ジェームズはそんな二人の手伝いをするのが好きなのだ。
勿論、焼き立てのお菓子が食べられるという多少不純な動機も混じっているが、ココとミアの心地よい会話を聞きながら厨房で手伝いをする時間は彼にとって宝石のように貴重な時間だ。
ジェームズは最初卵の殻を割ることすら出来なかった。失敗して卵をぐちゃぐちゃにしてしまったこともある。
ココとミアは殻の欠片が大量に入ってしまったボールから丁寧に欠片を取り出すと卵を無駄にすることなくお菓子作りを続けた。
泣きながら必死に謝るジェームズに
「最初からできる人はいないわ」
「手伝ってくれようとする気持ちが嬉しいの。気にしなくていいのよ」
と優しく頭を撫でてくれる麗しい双子の姉たちの、いつか役に立てるようにと彼は真面目にお手伝いに励んでいる。
彼が今一番気に入っている作業は生クリームを泡立てることだ。失敗することが少ないし、姉たちは喜んでくれる。彼は常に泡だて器を片手に期待に顔を輝かせていた。
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「ママはもうコーヒーは飲まないのかしら?あんなに好きだったのに・・・」
ある日ココが呟いた。
「授乳しているからカフェインっていうの?あまり取らないようにしてるんだって」
「でも、ちょっとくらいならいいんじゃない?気分転換になるかもよ。ハーブティーは美味しいけど、ずっとだと飽きちゃうんじゃないかしら?」
「そうね。ママもちょっとくらいならいいって言ってたわ。ミルク多めのコーヒーにしたらどうかな?」
何やらコーヒーについて色々な実験が始まったらしい。
「うーん、コーヒー少な目にするとほとんどミルクの味しかしない・・・」
「ちゃんとコーヒーの風味を味わえる方がいいよね」
などという会話を聞きながら
(ぼくのあわだてきのでばんは、まだかな・・?)
とジェームズは大人しく待っていた。
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しかし、次第に退屈してきた彼はたまたま目の前にコーヒーの入ったボールを見つけると、それをシャカシャカと泡立て始めた。
彼は年齢の割に握力がある。・・・というか強い。持久力も根性もある。
気がついたらコーヒーがフワフワに泡立ってメレンゲのようになっていた。
それを見たココとミアが驚いた。
「ジェームズ、そ、それはコーヒーなの!?」
「ねぇ、ココ。温かいミルクの上にこのフワフワのコーヒーを乗せたら面白いドリンクになると思わない?」
「そうね!ちょっと砂糖を足してもいいかも。コーヒーの香りは消えてないし、美味しいわ!」
興奮した双子がエステルのために作ったコーヒーがコレである。おやつはワッフルだ。
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「これなら実際の量が少なくても嵩増しして見えるし、コーヒーの風味を味わうことも出来る!ジェームズ、天才!すごいわ!」
「ありがとう!ジェームズ!あなたのおかげよ!」
ココとミアから口々に褒められ、頭をナデナデされてジェームズの鼻の下は思いっきり伸びた。
デレっとしながら
「いやぁ・・たいしたことないさ」
と頭を掻くプラチナブロンドの天使をココとミアは代わる代わる抱きしめる。
(やっぱり、ココ姉さまとミア姉さまと一緒にいるのが一番楽しい!)
ジェームズは誇らしげに胸を張った。
*****
その後、コーヒーとワッフルを頂きながらエステルは
(どうしよう・・・うちの子たちが尊すぎる)
と号泣したという。
*ダニエルと婚約者の恋愛話やロランの話もいずれ書きたいと思っていますが、今日のところはここまでで・・・(#^^#)。読んで下さってありがとうございました<m(__)m>




