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番外編 初夜

*朝チュンありです。ただただ甘いだけの回です。苦手な方は回避推奨です!


エステルは結婚式の余韻を心に残したまま湯浴みをした後、素肌に直接夜着を身につけた。


侍女が気を遣って用意してくれたのか、薄くて肌触りの良い夜着は一本の紐を解くとスルリと体から外れてしまう。それを解く時を想像して心臓がドキンと跳ねた。


(はぁ、落着け落着け。平常心、平常心)


と自分に言い聞かせながら夫婦の寝室の扉を開くと、カジュアルなシャツ姿のフレデリックが振り向いた。相変わらずイケメンだ。


彼の髪はまだしっとりと濡れていて、滑らかな頬に髪が数本張りついている。信じられないほどの色気がダダ洩れで、エステルは体を引きつらせた。


(水も滴るイイ男ってこういうことを言うのね・・・鼻血がでそう・・・)


と、昭和な感想を抱くエステルと目が合ったフレデリックは「うっ」と手で口を押さえた。


顔も首も手も見えるところは全部真っ赤に染まっている。


「エステル・・・ちょっと待ってくれ。君のその色香は・・・刺激が強すぎて・・・」


「え!?刺激・・・?」


確かに昔から色っぽいとか、色気があるとか、そういう感想を言われることがあった。しかし、これから初夜を迎えようという夫から言われる衝撃は鮮烈で、頭に一気に血が上る。


(えと・・・それはその・・・ソノ気になってくれたってことでいいのよね?)


隣に寝ていても何も起こらなかった前世を思い出すと、まさに隔世の感がある。


エステルはそっとフレデリックに近づくと彼のシャツの裾をつまんで


「それは・・喜んでいいのよね?」


と彼の顔を見上げた。


「君はっ!どれだけ僕を煽るんだ!?」


と言いながら、彼はエステルを激しく掻き抱いた。


いつもより薄い衣類しかつけていないのでフレデリックの張りのある筋肉を直に感じて、エステルの体はますます熱くなる。


でも、彼の心臓の鼓動も驚くほど速くて


(緊張しているのは私だけじゃないんだ)


と思うとエステルの心は不思議と落ち着いた。


フレデリックの胸に顔を埋めて


「すごく、すごく緊張してる。は、初めてだからお手柔らかにお願いします・・・」


と呟くと、フレデリックがはぁっと荒い息を吐いた。


「優しくする・・・つもりだけど、出来なかったらごめん!」


フレデリックはエステルの膝の後ろに腕を差し込んでお姫様抱っこをすると、優しく寝台の上に横たえた。


喰われる、というのがピッタリの激しい口づけがいきなり始まり、エステルは翻弄されて意識が飛びそうになる。何度も角度を変えて口づけする度に熱く絡まる舌の感触から全身に火照りが広がっていく。


はぁはぁと息を切らしたフレデリックに


「ごめん・・・もう待てない」


と艶のある色を滲ませた声音を聞いて、エステルは完全に白旗を上げた。



*****



エステルは深い眠りの中で、力強く温かいゆりかごに包まれているような安心感を覚えていた。


鳥の鳴く声が微かに聞こえて、瞼に微かに光を感じるとゆっくりと意識が浮上する。


目を開けると目の前に完璧すぎるほどの美貌があった。


ちょうどフレデリックの肩を枕にするように眠っていたらしい。彼の腕が絡まるように体を包んでいて、夕べのことを思い出した。ズキっと軽い痛みを感じてその原因を考えると、体がカッと高揚する。


フレデリックは子供のような無防備な寝顔を見せている。


(・・・可愛い)


エステルはあまりの愛おしさに胸が苦しくなった。


同時に昨夜の切なそうな彼の眼差し、何かを堪えるような表情、そして色っぽく上気した頬を思い出して、再び心臓が早鐘のように打ち始める。


(はぁ・・・・なんかよく分からないけど、すごかった)


エステルは溜息をついた。


(結婚したんだ。ちゃんと夫婦になったんだな)


そう実感しただけで、目頭がジンと熱くなる。


その時、フレデリックの瞼がふるりと震えて、長い睫毛の向こうから灰青色の瞳が顔を覗かせた。


「・・・ん・・おはよ・・・」


舌足らずな言い方は本当に子供のようだ。


エステルが彼の頬に手を滑らせると、彼はニッと口角を上げて微笑んだ。


フレデリックは至近距離から瞳を柔らかく細めてエステルの顔を覗き込む。それだけで体温が数度上昇するように感じる。


「おはよう。奥さん。よく眠れた?」


信じられないくらい甘い声に頬が紅色に染まる。


心臓がドキドキして言葉が出てこない。黙って頷くと、フレデリックの親指がふっくらしたエステルの唇を辿った。


「無理させちゃったかな?大丈夫?」


心配そうなフレデリックにエステルは慌てて


「だ!ゴホッ、だ、だいじょうぶ!全然平気よ」


と声をあげた。


フレデリックはエステルの肩口に顔を埋めると、そのまま耳元に熱い吐息を送り込む。


「夕べの君は・・・すごい可愛かった。もう、このまま死んでもいいと思うくらい・・幸せで・・気持ち良かった」


あまりに直接的な言葉にエステルは知らず知らずのうちに潤む瞳をフレデリックに向けた。既に心臓はバクバクと波打っている。


エステルの形の良い瞳を彩る長い睫毛とその下にある泣きぼくろが濃い色香を醸し出した。


「あぁ、もうダメだ。溺れそう・・・」


フレデリックは熱い吐息で深く口づけすると、首筋や肩へとどんどん唇が降りていく。


「あ、あの・・フレデリック・・えっと、あ・・・」


と防戦しようとするエステルにフレデリックは


「僕はまだギリギリ十代だよ。十代の男の劣情を甘く見ちゃいけない」


と囁いた。


そうして砂糖を吐くような甘い甘い新婚生活が始まったのである。

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