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結婚式


眩しい純白の婚礼衣装に身を包み、エステルは鏡に映る自分の姿を感慨深く眺めた。


(私がこんな衣装を身につける日が来るなんて・・・)


ロランに婚約破棄されて、実家から勘当されて、国外追放されて・・・。


(全部モニカのおかげだわ・・・)


モニカに助けられ、双子と出会い・・・そして、フレデリックと出会った。


多くの思い出が脳裏をよぎり、胸が一杯になって目頭が熱くなる。


(まだ泣くのは早いわよね。折角のお化粧がダメになっちゃう)


真っ白な衣装は気合が入りまくったデザイナーの傑作だ。滑らかな最高級のシルクに華やかなオーガンジーを重ねたウェディングドレスは、白いレースが首元まで覆いエステルの妖艶な身体を上品に見せるデザインになっている。


「エステル様・・・・なんてお美しい」


感極まったようにダフニーが涙声で呟く。


その時、扉がノックされた。返事をするとスッとドアが開いて、ココとミアが飛び込んできた。


今日は二人がリングガールを務めるので、彼女たちもエステルのウェディングドレスに合わせたデザインのドレスでお洒落をしている。


リングガールは新郎新婦に結婚指輪を届ける大切な役目だ。


そして、ダフニーと一緒に双子が作っていたのはウェディング用のリングピローだった。白いシルクのリングピローにはエステルとフレデリックの名前が刺繍され、可愛いリボンで綺麗にデコレーションされている。


小さな手で一生懸命刺繍をしたのかと想像するだけで涙腺決壊の危機だ。エステルは二人の娘が誇らしかった。


「ママ~!とってもきれいよ!おひめさまみたい!」


「とてもすてきなおよめさんね。フレデリック。ママをちゃんとしあわせにしてね」


振り返りながらミアが言うと、フレデリックが優しい笑みを浮かべながら部屋に入ってきた。


白地の礼服にプラチナブロンドが恐ろしいほどよく似合う。長い睫毛に縁取られた形の良い瞳は幸せそうに瞬いている。スッと通った鼻筋に、少し薄い唇。シミ一つない肌。完璧なほどに端整な顔立ちは見慣れたはずのエステルですら見惚れてしまう。立ち姿も美しい。憎たらしいほどの男ぶりにエステルは気が引けてしまった。


(こんな素敵な人の隣に私が立っていていいのかしら・・・?)


「また余計なことを考えているだろう?綺麗だよ。こんなに美しいお嫁さんと結婚できるなんて僕は世界一の果報者だ」


フレデリックの蕩けそうな甘い表情にダフニーが真っ赤になって「ひぃぇ~甘すぎ・・・信じられない」と独り言ちた。


二人は親しい友人たちだけを招待してガーデンウェディングをすることに決めた。場所もラファイエット公爵邸の庭園で行われる。


教会のバージンロードを一緒に歩くべき人は牢獄にいるし、家族や親戚の少ない二人はこうしたカジュアルな結婚式の方が好ましいと思ったのだ。


晴れ舞台に相応しく、庭師たちが精魂込めて手入れをした庭園は輝くほど美しく、色とりどりの花が咲き乱れる完璧な状態だった。


テントを張り、飾り付けられた祭壇も設置されている。


ラファイエット公爵家と近しい司祭が今日の式を取り仕切る予定だ。


式の後に、同じ庭園でレセプションが行われる。今日のために練りに練ったメニューの料理が準備され、料理人たちはここが腕の見せどころ、と万全の態勢で気合を入れている。


エステルとフレデリック、ココとミアが一緒に式場に登場すると、既に歓談していた招待客たちから歓声が上がった。


ジョゼフは黒いタキシードでビシッと決めて、周囲の令嬢たちの熱い視線を集めている。


ジョゼフにフレデリックと結婚することを伝えた時、彼は少し寂しそうな表情を浮かべながらもエステルの幸せを祝福してくれた。


「これからは友人として二人を支えていくよ」という言葉に嘘や無理は感じられなかった。


マットとサリーは幸せそうに手を繋いでいる。サリーのお腹がふっくらと大きくなっていて、エステルは温かい気持ちになる。


最後まで遠慮していたが、居酒屋は正式に二人に経営してもらうことになった。マットとサリーなら店を大切にしてくれるだろう。『たまにお忍びで遊びに行く』と言ったら、二人ともとても喜んでくれた。


ダニエルと愛らしい奥さまも嬉しそうに拍手を送ってくれる。


ロランとルイーズは険悪な表情で睨み合いながらも何故か一緒にいる。


他にもクラスメートのほとんどが駆け付けてくれた。



エステルが、隣にいる世界で一番素敵な花婿の横顔を見つめると、彼も彼女と目を合わせて幸せそうにふわりと微笑んだ。



大勢の人たちに祝福される真心のこもった結婚式だった。



***



レセプションでは物凄いご馳走が並び、招待客はラファイエット公爵邸料理人たちの底力に感動した。



みんなが美味しい食事に舌鼓を打ち、和やかに談笑する中、大きな声で言い争う二人がいた。


ルイーズとロランだ。


「まったく!こんなろくでもない男がまた王太子になるなんて!!!女王陛下は何を考えていらっしゃるのかしら?!納得いかないわ!!!」


「まぁ、そうだな。なんとでも言ってくれ」


「でも・・・まぁ、エステルさまを救ったというのは・・・ちょっと感謝してやってもいいけど」


唇を尖らせて呟くルイーズの顔をロランはマジマジと見つめた。


「な、なななななによ!?」


「いや、お前も案外可愛いとこあんだなって思って」


ルイーズの顔が茹でたタコのように真っ赤になった。


そんな会話を聞いていた周囲は安堵したように笑い声を立てる。



ココとミアはどこでも大人気で色んな人たちに声を掛けられる。褒め言葉も沢山もらっているようで、後を付いて回るダフニーのドヤ顔が面白い。


エステルは愛おしそうに自分を見つめるフレデリックの視線に気がついた。


「エステル。僕は世界一幸せな男だ。この世の誰よりも君を愛している。君の純粋さが好きだ。君の優しさが好きだ。君の優しさが周りの人間を幸せにする。ずっと僕と一緒にいて欲しい。君がいなくなったら・・・僕はもう僕でいられないと思う」


「私も・・・貴方がいない人生はもう考えられない。・・・好き。大好き。愛してる」


フレデリックははぁ~っと深く溜息をついて


「ああ、早く君と二人っきりになりたい」


と意味深な表情で囁いた。


低く艶やかな声にその言葉の背後に隠された意味を感じて、エステルの顔が真っ赤に熱くなった。


フレデリックは彼女の火照った頬に優しく口づける。エステルは頬への口づけでは物足りなく感じるようになった自分に驚いた。


フレデリックが愛おしげにエステルを見つめる。その眼差しはきっと蜂蜜より甘い。


「もう逃がさない」


後ろから抱きしめられて、エステルは幸せ過ぎて涙がこぼれそうになった。

*完結になります。読んで下さった皆様、感想、ブクマ、評価、誤字脱字報告を下さった皆様、本当にありがとうございました。励みになるようなコメントやメッセージを下さった皆様にも心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました(*^-^*)


*【お知らせです!】

『悪役令嬢はシングルマザーになりました』

コミック 1巻が9/30に発売になります~!

書籍版のコミカライズなのでなろう版とは若干内容が変わっています。

星川きづき先生の美麗な作画に魅力的なエステル、フレデリック、ココミアが生き生きと動き回っています。特に超絶イケメンのフレデリックの押せ押せシーンなど悶えそうなくらい胸がきゅんきゅんします!

どうか多くの方に読んでいただけたら嬉しいです<(_ _)>

挿絵(By みてみん)


『悪役令嬢はシングルマザーになりました』2巻

6月3日に発売になります!

1巻でなろう投稿分は終わってしまったので2巻本編は完全書き下ろしです。

双葉はづき先生の国宝級の表紙、ピンナップ、挿絵は必見

番外編は三篇。うち一編は書き下ろしです!

担当さんに「こういう話、好きです」と言っていただいて飛び上がりそうなくらい嬉しかった掌編

多くの方に読んでいただけたら嬉しいです!

どうかよろしくお願いします<(_ _)>


挿絵(By みてみん)

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