処罰
ルイーズ・ド・コリニー伯爵令嬢誘拐事件が公になると、世間の耳目を集める大きな事件になった。
犯人はリオンヌ公爵と嫡男であるパスカルで、しかも現行犯逮捕されたという事実が喧伝され、号外まで配られる有様だった。
しかも、ラファイエット公爵邸への不法侵入。王族への脅迫。殺人未遂。立ち入り禁止区域への侵入。破壊行為・・・云々。多くの罪状が付けられた。
リオンヌ公爵は魔獣に攫われ、近衛騎士団によって救出されたが、あまりの恐怖に口がきけなくなっていたという。
その後の裁判で有罪が確定し、すっかり大人しくなったリオンヌ公爵は終身刑となり、パスカルとその妻は禁固刑の後、貴族の身分を剥奪され国外追放されることが言い渡された。
リオンヌ公爵夫人は積極的には関与しなかったものの、コリニー伯爵令嬢が不法に監禁されていたことを知りながら通報しなかったため、戒律の厳しい修道院に送られることになった。
彼女は実の兄が国王となっている自国に助けを求めようとしたが、彼女を甘やかしてきた両親はもう亡くなっている。
『既に他国に嫁いだ妹の不始末の尻拭いをするつもりはない』という返事に怒り狂ったが、何か出来るはずもない。
「男がいない環境に置かれるのが妻にとっては一番辛い罰でしょうな」
とリオンヌ公爵は呟いたと云う。
ダニエルは気丈に家族の裁判や処罰を受け止めた。彼の婚約者が大きな支えになってくれたようだ。
一時はリオンヌ公爵家から爵位を剥奪すべきでは、という議論も為されたが、何の罪もないダニエルに対する同情もあり、彼が爵位を継ぐことで話は落ち着いた。
ダニエルは爵位を継ぐと同時に結婚したので、エステルは彼らの結婚式で久しぶりに姉弟の対面を果たした。
ダニエルの妻はエステルを慕っているようなので、今後は両公爵家の交流も普通に行われるようになるだろう。
***
世紀の大事件を解決に導き伯爵令嬢と王女エステルを救ったヒーローが、実は行方をくらませていたロランであったという話はあっという間に庶民の間に広がっていった。
更にエステル王女が魔獣から襲われそうになったところを勇敢に戦い守ったという英雄譚も加わり、ロランの人気は国民の間でうなぎ登りに上昇していった。
「自分がやったことでもないのに褒められるのは嫌だ」
とロランは文句を言ったが、そういう方向で世論操作を始めたのはフレデリックだ。
「自分の功績までロランにあげちゃうの?」
エステルが尋ねると
「僕が欲しいのは君だけで、功績なんていらないんだ」
と微笑み、彼女を膝の上に載せて抱きしめる。
甘すぎる空気に恥ずかしくて堪らなくなるが、同時にこの温かい腕から出たくないと感じてしまう。
どちらからともなく唇を寄せて、そのまま濃厚な口づけを交わす。柔らかい舌の感触が気持ち良過ぎてなかなか止めることが出来ない。
「・・・愛してる。エステル。堪らなく愛おしい」
少し掠れた声が切なげに響き、エステルの身体がカッと火照った。
「出来るだけ早くロランに王太子に戻ってもらわないと僕たちの結婚も進めにくいからな」
熱い吐息で囁くと、フレデリックはエステルの手を取り手の甲に口づけた。
**
ロランが帰還したことが周知の事実となり、彼の希望で逃亡罪に対する審問も行われた。
しかし、辺境軍司令官の口添えや今回の誘拐事件を解決に導いた功績が認められ、刑罰は最小限のものが適用されることとなった。
それでも一定期間の禁固刑ということでロランは牢獄に入ることとなる。
国民の間からは「ヒーローが何故?」という声が上がり、恩赦を求める多くの嘆願書が届けられたが、ロランはそれ以上減刑されることを望まず
「自分でしでかしたことの責任はとる」
と堂々と牢獄に入って行った。
エステルは出来たらロランが戻るまで結婚を延期したいとフレデリックに伝えると、彼は深く溜息をついた。
「ああ、分かったよ・・・」
そう言いながらエステルの髪の一房に口づけし、耳に息を吹きかけるようにしながら
「でも、彼が戻ったらすぐに結婚できるように準備は始めるつもりだからね」
と甘く囁いた。
***
そして、ロランの刑期が終わり様々な面倒くさい手続きを終えると女王は高らかにロランが再び王太子になることを宣言した。
人気が高いロランに対して、ヴァリエール王国国民全員が祝意を捧げたと言ってもいい。
そして、フレデリックの言葉は嘘ではなかった。
ロランが無事に王太子の座に戻ると、すぐに結婚式の日取りが決まったのである。
*あともう一話で完結です。今日中に最終話を投稿する予定です(*^-^*) 読んで下さってありがとうございます!




